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2.

 イアン・ダグラス侯爵子息は第二王子フレドリックの命を受け、授業前の教室に帝国の第三皇女アンジェリーナを訪ねた。

「皇女様、貴女に名を名乗る栄誉を私に与えてくださいませんか?」

座るアンジェリーナ皇女に対し、イアンは片膝をついて視線を合わせた。

「ええ。お聞かせください」

「私はイアン・ダグラス、ダグラス侯爵の第三子になります。また、当学院の1年に在学中の第二王子フレドリック殿下の友人でもあります。フレドリック殿下は皇女様が王国の生活にてお困りの点がないか心を配っております。もし何かお気にかかる事がございましたら、何なりとお聞かせください」


 これを聞いた周囲の人間には緊張感が走った。皇女から王子に正式な抗議があれば、外交問題となるからだ。これまで皇女が黙っているのを良い事に、虐めがエスカレートしていた事を今になって周囲は後悔した。


「特に問題はありません。殿下にはお心遣いに心から感謝しているとお伝えください」

アンジェリーナ皇女の言葉にイアンは一瞬応えを控えたが、そう言われればこう言うしかなかった。

「分かりました。これからも殿下は貴女に心を配っております。何かありましたらお気軽にご相談ください」

「ええ。お心遣い、ありがとうございます」


 この学院には国王ウィグムントの二人の息子が通っている。第一王子のダリウスが3年に、そして第二王子のフレドリックが1年に在学していた。二人共、学院の本館の応接室を控室として使っていた。その応接室の一つでイアンが朝方のアンジェリーナ皇女とのやり取りを報告した。


「そう言う訳で、皇女殿下は問題を大きくする事をお望みで無いご様子でした」

「……」

フレドリックは黙るしか無かった。直接伺いに行ったのだから、問題を連絡してもらわないと対応が出来ない。放置しておくのは問題だが、頼まれもしないのに出しゃばればフレドリックの国内での立場が悪くなる。


 側近の次席候補であるスコット・レズリーが悩める王子様に意見を述べた。

「苦情が無いと言う事は、本人も問題だとは思っていないのでしょう。様子見で良いのではないでしょうか?」

護衛寄りの側近、ケント・ブルースも同意見だった。

「特別な仲でもない我々が親し気に護衛を買って出るのもお互いに悪い噂となる恐れがあります。一線を越えない内は放置で良いのでは?」


 殿下の側近候補として殿下を時には導かねばならない者達の無責任さにイアンは眉を顰めた。

(殿下を含めてこいつらに自分事として考えさせる方法は無いか…)


 そう言う事で、イアンは皇女の身の上を俎上に乗せる事にした。

「皇女は控え目な性格とも見えた。側妃の娘と言う事で、故国でも身の置き場がなかったのかもしれない。そう言う事で、我々も信用されておらず、下手に不平不満を口に出せないのかもしれない」


 イアンは同情を誘う様な話をしたが、ケントは容赦がなかった。

「妾腹では扱いが悪いのも当然でしょう」

「おい!側妃は妾ではない。血統を残す為の合法的な妻だ。他国元首のお身内に失礼な言い方をするな!」

イアンの剣幕にケントは頭を下げた。

「申し訳ありません。二度とこの様な発言はしません」


 フレドリックとしても、王位継承権を持つ者が序列を弁える必用がある事は痛感していた。しかも、最低限序列通りの実力が無いと肩身が狭い思いをする事も良く理解していた。


 現在学院3年に在宅中の兄のダリウスは、学院を卒業したら順当に立太子式を行う予定だが、その実力は王弟ヴィンセント・モントローズ公爵の長子ギルバートに勝るかどうか疑問視されていた。


 実はフレドリックは兄以上に良い成績を取らない様に、あまり学業に励んでいなかった。それで剣の修行を多めにしていたが、すると剣の実力は明らかに兄以上となっていた。


 そのフレドリックの剣の実力も、ダリウスの学業成績も、モントローズ公爵家の次子スチュアートに及ばないと言うのが通説だった。そんな噂を実力で撥ね飛ばせない悔しさは、決して人前では話せない。


「皇女の言葉を額面通りに受け止めるのは不味い。影の護衛は付けている筈だが、一度この件を陛下に申し上げて指示を仰ごう」

イアンとしては、フレドリック王子は少なくとも真面な対応を考えているので安心した。

「それがよろしいかと存じます」

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