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マーシア王国の第二王子、フレドリックはこのところ不機嫌だった。隣国である帝国から留学中の皇女アンジェリーナに対して、2学期になってから虐めが激しくなっていたからである。
「化学実験室で授業を受けていた最中に、ノートに落書きをされた様です。以来、皇女は教室移動の際には鞄を持って歩いている様です。当然、それを見て笑う者もいるとの事です」
フレドリックの将来の側近候補のスコット・レズリー伯爵子息が報告する。
やはり側近候補のイアン・ダグラス侯爵子息は批判的に述べる。
「国同士は過去の経緯があるとは言え、現在は講和条約を継続中の両国だ。皇女に対して無礼を働くのは問題だと認識出来ない者が貴族の中にいるのは、あまりに残念な事だな」
騎士の息子であるケント・ブルースはどちらかと言えば護衛寄りの側近候補だが、彼としては虐め側の気持ちも分かる。
「とは言え、帝国の皇女に対して好意的でない者は多いです。これを咎める様な発言をしたら、殿下に批判的な意見が出兼ねません」
イアン・ダグラスは溜息を吐きながら言った。
「外交問題なのだぞ!?感情論で語る事は許されない。この虐め問題から戦争になったら、誰が責任を取ると言うのだ!?」
ケントは黙ってはいるが不服そうだ。スコットも床を見ている事から、虐め批判はしたくない様だった。
フレドリックは意見を纏めるタイミングと考えた。
「24年前の戦争で我が国将兵が悲惨な被害を受けたのは多くの者達にとって忘れられない事だ。だが、現在を生きる我々がいつまでもそれを引き摺って再び争いを招く事は不毛だ。基本的には、我々は皇女を守る方向で動かないといけない。少なくともここにいる人間はな。私の命令だ。嫌々でも従ってくれ。皆、皇女を守る王子様を手伝ってくれるだろう?」
最後はおどけて見せるフレドリックだった。
これに対して、イアン・ダグラスが尋ねた。
「それでは、何か警告でも出されるので?」
フレドリックも自分が泥を被ってまで皇女を助ける気は無かった。
「国王陛下からは『皇女に困った事があれば助ける様に』との指示をいただいている。皇女から被害届があれば対応する。現時点では我々は公式な苦情を受けていない。憶測だけで誰かを処罰も出来ない。イアン、明日皇女にそれとなく尋ねてもらえないか?」
結局フレドリックも積極的に外交問題に関わるつもりはないのか、とイアン・ダグラスは失望したが、王子からの依頼には答えないといけない。
「分かりました。確認いたします」
「頼んだぞ」
フレドリック以下、貴族学院に通う者達はまるで自国が被害者である様な感情で語っているが、実際にはマーシア王国からウェセックス帝国への侵攻で戦争は始まった。
時の帝国皇帝が病に臥せったとの報を聞き、以前の戦争で敗退した恥辱をすすぐとの理由で侵攻を行ったのだ。そして帝国に侵攻した王国軍団の中央に火魔法の範囲魔法であるボルケーノが炸裂し、防御・中距離魔法攻撃用に布陣していた魔法師達が全滅したのだ。
戦場に魔法師として従軍するのは貴族の跡継ぎ以外の者である。魔法能力が高いのは貴族の血を引く者であるからだ。
そういう訳で、現在貴族学院に通う者達は、叔父・叔母達の多くが戦争の被害者であると知らされていた…実際には侵略者として殺されたのだが。
だから、範囲魔法で万単位の王国民を殺した、当時皇太子で今は火烈帝と呼ばれる皇帝エグバートの側妃の娘であるアンジェリーナは憎悪の対象だった。下手にこの皇女の肩を持てば、王子と言えども貴族達を敵に回す。だからフレドリックは積極的に皇女を助ける気がなかった。
もちろん、彼も王国が被害者であると感じているからでもある。今に至っても、王国はこの人的資源の損失を回復出来ずにいた。
マーシアです。マレーシアではないので。




