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第04章 ミカとガラポン

「ところで、相賀翔太さん、生き返りたいですか?」

 僕は、ソファからガバッと上半身を起こした。

「そりゃ、もう。そういうのアリなんですか?」

「ええ。神の力は偉大ですから」

 なるほど、こりゃ、偉大だ。

 ここで、ミカは、コホンと咳払いをしてから、厳かに言った。

「但し、全員という訳には行きません。天国も人手不足ですから。抽選があります」

「抽選?」

 ミカは、両腕を軽く、腹の目の前で、スッと交差させた。

 すると、ミカは、いつの間にか、福引で使う、小型のガラガラ抽選機を、抱えていた。

「ガラポンですか?」

「ガラポンはお嫌いですか?」

 好きも嫌いも、当たった試しがない。

「ガラポンは苦手だなあ」

「苦手とかそういう問題じゃないかと思いますが」

「確率はどの位ですか?」

「百分の一です。百玉に一個。但し、このガラポンは既に、数十人が回してます。未だ、当たりは出てません」

 ふーむ、クラスで一人、或いは、二クラスに一人ぐらいか。・・・ちょっとやる気が出てきた。

 ミカは、僕の気持ちを知ってか知らずか、スッと僕の元に歩み寄ると、言った。

「さあ、回してください」

 僕は、よし、とソファから立ち上がると、文字通り、神様に祈りながら、ガラポンを回した。すると、ガラガラっという音がしたかと思うと、トレイに、玉が一つ送り出された。

 その玉は、黄色、いや、黄金の色だった。

 これは、と僕が思った瞬間、チェッと舌打ちの音が、ミカから聞こえた。

「天使さん、今、舌打ちしました?」

「まさか!」

「そうですよね」

「そうですよ」

 僕は、その黄金の玉を、トレイから摘まみ上げると、軽くかざしながら、言った。

「これは、当たりですね」

「おめでとうございます。当たりです」

 よし!

 相賀翔太、死なず!・・・じゃなくて、復活か。

 僕は、素朴な疑問を、ミカに訊いた。

「でも僕が、生き返ったら、周囲は驚きませんか?」

「今なら、未だ、大丈夫ですよ。さっき見て頂いた通り、病院の霊安室に遺体があるんですから」

「なるほど。・・・よくあることなんですか?」

「百分の一です。それに、その一も、状況は色々違いますから。稀にある奇跡です」

「ふーむ」と僕。「これはお返しします」

と、黄金玉を、トレイに戻した。

 ミカは、これはどうも、と応えてから、話を続けた。

「さて、生き返るに当たり、幾つか、伝達事項、というか、ルールがあります」

「ルールですか」

「先ず、相賀翔太さんは、百人分じゃない、一引いて、九十九人分の死者の想いを背負って、地上界に戻る訳です」

「うーむ。それは重いですね」

「止めてもいいんですよ。地上界に戻るの。未だガラポンは生きてますから」

と、ミカが淡々と言う。「どうします?辞退されますか?」

「まさか!」

「そうですよね」

「そうですよ」

「では、説明を続けます。その死者は、相賀さんに話かけてきて、何やら、頼み事をしますが、別に全てを引き受ける必要はありません。煩悩の類はキリがないですから」

「なるほど」

「また、その死者の姿が見えるのは、相賀さんだけです」

「ふむ」

「あと、死者の声は、相賀さんからシャットアウトすることは出来ます」

「ほう」

「相賀さんに、しょーもない煩悩を聞く義務はないです」

「それは大変助かりました」

「まあ、ルールと言っても、これだけです」とミカ。「ご復活、おめでとうございます。地上界に戻って、充実した人生を送って下さい。それでは」

と、ミカが消えかかるので、僕は、慌てて、呼び止めた。

「ちょっと、ちょっと」

 ミカが、小首をかしげて、応える。

「なんでしょう?」

「ミカは、僕の担当?」

と、僕が言ったら、ミカが嫌な顔をしたのは気のせいか。

「・・・担当と言えば、担当かな」

 だよね。

「それじゃあ、僕が困ったら、助けてくれるの?ほら、例えば、その死者の願いを叶えてる最中にさ」

 ミカはしばらく押し黙ってから、ようやく、答えた。

「・・・全ては神の御心のままに」

「そんな答え、大学の答案用紙に書いたらゼロ点ですね。落第です」

「ここは天国ですから」

と、ミカは言い残すと、姿を消してしまった。

 と同時に、天国での僕の記憶があるのは、ここまでだ。

 次に、僕は、病院の霊安室で目覚めることになった。

 

 今日で、霊安室で目覚めてから一週間経つ。

 結局、五日間、入院した。最初の二日間は、母親が、面会時間の間は、ずっと、付き添ってくれていた。普段なら、気恥ずかしい様な思いをするとこだったが、セクシー光線は、僕の気力を余程、奪ったらしい。母親の存在が頼もしく感じた。父親は、初日に顔を見せて、一言だけ、程々にな、と言って、帰って行った。

 程々とは、羽目を外すのも、程々に、という意味だろう。

 だが、クラブ・アカプルコに行って、踊って、ナンパに失敗し、セクシー野獣に声をかけられて、覚醒剤の錠剤を口に放り込まれるまで、何処で、立ち止まれば良かったのか、いや、立ち止まることが出来たのか、僕には、何度考えても、判然としなかった。

 ああ、そうそう。

 入院して、二日目に拓哉が見舞いに来た。

 拓哉は、一言、元気か、と言った後、次の様に言った。

「悪い、見舞いの品は、今日はない」

 ・・・へえ。

「花でも買ってこようと思ったけど、ここの病院、花禁止なんだって」

「なんで?」

「緑膿菌っていう常在菌が、体力のない奴には、やばい場合があるらしい。因みに、常在菌ってのは、世界中のあらゆる所にある菌で、健康な人には何の問題もないらしい」

「遍く存在、神様みたいだな」

「うむ」と拓哉。「それで、何日、入院するんだ?」

「一週間弱」

「プラモかパズルでも買ってくるか?」

 僕は、ちょっと考えた。入院して、二日目の今日だが、何もする気が起きない。恐らく、明日も明後日もそうだろう。そもそも、そういう元気が出たら、退院すればいいのだ。

「有難う。しかし、どうも、そういう気がしない」

「そうか。退院したら、飯でも奢るさ」

「ああ」

と、僕は答えてから、気になってた疑問を口にした。

「拓哉は大丈夫だったのか?」

 拓哉は、ニヤリと笑うと、言った。

「お前は数を呑み過ぎ。かなり強い奴で、一錠でもヤバイ奴はヤバイやつらしい」

 それで、あのヤバイお兄さんが、セクシー野獣に向かって、バカ、と大声を出していたのか。

 そして、拓哉は続けた。

「それに、俺は、一錠も飲んでない」

「えっ?」

「あの後、トイレに行っただろ。トイレで吐き出したんだ」

「・・・何処で、そんなテクを?」

 一転、拓哉は、今度は、照れ臭そうに、続けた。

「正確に言えば、吐き出したというよりかは、飲み込まないで、口に留めておいた、と言った方がいいな」

 そりゃ、セクシー野獣は、拓哉がゴクンしたかまではチェックしないだろう。

「でも、どうしてさ」

「いや、お前だって、なんかヤバイと思っただろ?」

「そりゃ、まあ」

「覚えてるか?俺、好き嫌いが激しくて、小学校の給食のピーマン残してたの?」

「そういや」

「ピーマンと同じさ。先生の前では食べたフリして、その後、トイレで吐いてたのさ」

「ピーマンに救われたわけか」

「・・・その言い方は違う。今も、ピーマンは嫌いだ」

と、拓哉は言い残すと、帰って行った。


 ミカ曰く、九十九人の死者が僕には、取りついてるらしい。

 それで、この世に生き返ったら、死者がワンサカ押しかけて来るかと思ったが、そういうことはなかった。

 或いは、死者にも慎みがあって、入院中の僕には、遠慮していたようだ。

 死者が現れたのは、昨日で、自宅の近くの河川敷を散歩している時だった。未だ、大学には行ってない。

 昨日、死者は、二人、現れた。

 一人目は、山田卓三と名乗った。山田卓三は、小柄な老人で、天寿を全うしたという感じだった。

「あのー」

と、いう声がしたかと思うと、もちろん、僕にしか、聞こえてないのだが、山田さんは、僕から、三m程のとこに、イキナリ、現れた。イキナリ、パッと出現したので、僕にも、ピンと来た。幾らか、心待ちにしてたとこはある。

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