第28章 調査報告
「お金、利権、権力。官僚は、それらを作り出すことが出来るから。恐らく、今、あるものじゃなくて、これから出来るもの」
「そして、その利権は、今ある利権と対立するか」
と、玲奈さんが、ため息交じりに言った。
「それにヤクザが群がる」
と、拓哉が、淡々と言う。
「沙織の逃亡も、単なる近親相姦による憎悪だとか、それだけではなさそうですね」
「そうだな」
そうして、誰もが再び、黙り込んでしまった。
考えていることは同じだ。
余りにも、ちと、重すぎる。
大学生の自分達には、手に余る。
だが、警察に駆け込んで、何と言うのか?
表面的には、関連性のない死が三つあるだけだ。
沙織と生川の逃亡なんて、歯牙にもかけられないだろう。
「取り敢えず、渦の中心が分からないとな」
と玲奈さん。
「翔太と拓哉が、ヒロと兄が会った時はどんな様子だった?」
「それが、確か、ヒロが気を付けて、と言っていたような。その時は、日常的な挨拶の様なものかと思ったんですが、今、思えば・・・」
と、僕が、多少、ドモリながら、言った。
「それは、探偵、失格じゃないか」
と、玲奈さんが、フンと鼻を鳴らしながら、言った。
「いやまあ、ユートピアのライブで興奮してて」
「ふーん。それで、ヒロの携帯の番号は聞いたのか?」
「・・・いえ。自分の番号は渡したのですが」
「お前ら、普段、どんなナンパしてるんだ?」
「・・・」
「押しが弱いんじゃないか?」
と、玲奈さんが、面白そうに嘲笑う。
黙って聞いていた、響子さんが、苦笑いしながら、助け話を出してくれた。
「でも、卓三さんだっけ?幽霊のお爺さんから、ヒロには辿れるでしょ?」
「ええ、それはもう、多分」
と、僕は、言いながら、内心、卓三さん、ヒロの携帯番号なんて知っているかなあ、と不安に思った。
続いて、僕は、軽く、咳払いして、言った。
「それで、今日、玲奈さんと響子さんに来て貰ったのは、お察しかとも思いますが」
「財務省の藤倉秀樹の線か」
「ええ」
玲奈さんは、ニヤリとして、言った。
「翔太も偉くなったものだな。仮会員なのに、NKKの会長と副会長に、指示出すか」
「いやまあ、お願いでして・・・」
「冗談だ。財務省は響子の就職先だからなあ。まあ、色々と気になる」
「そうよねえ」
と、響子さんも頷く。
「それに、確か、響子」
と、玲奈さんは言って、響子さんに向き直って、言った。
「明日は、この前、言ってた、内々定者のパーティーだったよな?財務省のお偉いさんも参加するという」
「うん」
「ちょっと、ドレスアップして、私も行ってみるか」
「でも玲奈は、招待状無いじゃない」
と、響子さんが言う。
「立食だろ?そんなものいるか。途中から入れば、誰もチェックなんてしやしないさ」
僕は、二人のやり取りを聞きながら、内心、ホッとした。ヤクザも苦手だが、偉そうな大人ってのも、どうも苦手だ。財務省の方は、玲奈さんと響子さんの方が適任だろう。
ミーティング後、僕と拓哉は早速、キャンパスの中庭で、卓三さんと話をすることにした。拓哉が傍にいると、独り言を言う変なお兄さんにならなくて済むので有難い。
「卓三さん、ヒロ、弘子さんの携帯の番号って分かります?」
「ワシの携帯が無いと分からん」
・・・そりゃ、まあ、そうか。
他人の携帯番号なんて、一々、覚えちゃいないだろう。
「では、卓三さんの携帯は?」
「そりゃ、処分したさ」
「・・・ですよね」
ん?不味くないか?
ユートピアは今、九州だ。行くとしたら飛行機代がなあ。少なくとも、二人分は無理だ。一人分だって、もちろん、きつい。無論、ミカに経費を請求出来る雰囲気ではない・・・。
と、僕が、内心、ちょっと動揺してると、拓哉が、卓三さん(がいそうな方向)に、言った。
「卓三さん、卓三さんの携帯は、どなたが処分したんですか?」
卓三さんは、ちょっと、怪訝な顔で、拓哉に言った。
「ワシが見えるのか?」
「見えませんよ。方向は、翔太の視線からの当てずっぽです」
「そうか。残念じゃ」
「そうですか」
「ワシも、翔太とばっか話して詰まらん」
僕は、ムッとして言った。
「僕ばっかで、悪かったですね!」
拓哉は、苦笑して、僕に言った。
「そう言うなよ。俺とお前だって、話す相手が、互いに、一人だけだったら、飽きるだろ」
「・・・まあ、そうだけどさ」
拓哉が、なんだか僕より、ちょっと大人に見えて来たぞ。
ちょっと大人な拓哉が、卓三さんに訊く。
「卓三さん、それで、卓三さんの携帯は、どなたが処分したんですか?」
「そりゃ、婆さんじゃ」
「婆さん?」
「ワシの妻じゃ」
「それは良かった。平均寿命は女性の方が高いですからね」
そういや、この前、ヒロの前で、のろけてたな。
卓三さんは、ボソリと呟く様に言った。
「婆さんも早く死んでくれんかのう。今死ねば、会えるんじゃなかろうか」
卓三さん!それは、死者が、言っちゃいけないセリフですよ!
ん?待てよ。
「卓三さん、亭主関白では何と言ってるんですか?」
卓三さんは、僕をチラッと見ると、呟いた。
例えばわずか一日でもいい 俺より早く逝ってはいけない
「なんだ、卓三さんの希望通りじゃないですか」
「それは違うじゃろ。ワシが死んだ一日後に婆さんも死ぬのが理想じゃ」
「んな、無茶な・・・」
拓哉も、半ば呆れた様だが、淡々と卓三さんに訊いた。
「奥様が住む家は、ここから、どの位ですか?」
「電車で二時間もあれば、行けるじゃろ」
僕と拓哉は、顔を見合わせると、お互いに、頷いた。
僕は、卓三さんに言った。
「今から、愛する奥様の元に行きましょう」
卓三さんは、喜ぶかと思ったら、ちょっと、迷ったような、軽く嫌々するような感じで、僕を見た。
「どうしたんですか?」
卓三さんは、僕と拓哉を、チラッ、チラッと見て言った。
「・・・ワシは怖いんじゃ」
「怖いって何が?」
「婆さんに新しい男が出来てるんじゃないかと」
「そんな・・・」
と、拓哉が、半ば呆れ気味に言う。
僕は、そう言えば、と思った。
卓三さんの奥様ということは、ヒロの御婆さんだ。結構、美人なんじゃないか。隔世遺伝という言葉もある。それに、最近は、老人の恋愛も社会問題化、或いは、社会的に肯定されている面がある。
僕は、悪戯心を出して、言った。
「卓三さんのご懸念、もっともです」
「・・・そんな」
卓三さんが、ギョッとした様に、僕を見る。自分が言う分には、許せるが、他人に言われるとムカつくという言葉もある。
僕は、卓三さんの気持ちを無視して、言った。
「卓三さんも、話は聞いてたでしょう?弘子さんの御兄さん、賢二さんが殺されてるんですよ。弘子さんだって、危ないかもしれない」
「誰が、あんないい子を殺すんじゃ」
「だから、それを今、調べてるんです」
それから、二時間後、僕と拓哉と卓三さんは、卓三さんの生前の家の前に来ていた。奥様と二人になってからは、団地住まいということで、部屋は三〇四だった。
僕は、卓三さんに、言った。
「卓三さん、僕は、昔、あるアドバイスを貰いました」
「なんじゃ?」
「こういう時は、最悪のケースを想定するんです」
「最悪?」
「つまり、奥様が、新しい男とイチャイチャしていると、想定して下さい」
「・・・」
流石に、ベッドシーンはない・・・はず。
僕が、呼び鈴を押すと、しばらくして、卓三さんの奥様と思われる老婆が出てきた。
卓三さんを見ると、僕に、黙って、頷く。
老婆は、なるほど、ヒロのお婆様だけあって、品のいい感じの、そして、小柄な身体の上にある丸顔が柔和な御婆さんだった。
亭主が死んで、直ぐに、新しい男を作るタイプには見えなかった。
僕は、何も見せるものがないので、取り敢えず、学生証を見せた。この年代の方には、ちょっとは、効果があるのではないか。
奥様は、学生証を、僕に返しながら、言った。
「それで、何のご用でしょうか?」
「弘子さんの携帯の番号を教えて頂けませんか」
僕は、奥様が何か言おうとするのを、片手で制して、言った。




