表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/37

第28章 調査報告

「お金、利権、権力。官僚は、それらを作り出すことが出来るから。恐らく、今、あるものじゃなくて、これから出来るもの」

「そして、その利権は、今ある利権と対立するか」

と、玲奈さんが、ため息交じりに言った。

「それにヤクザが群がる」

と、拓哉が、淡々と言う。

「沙織の逃亡も、単なる近親相姦による憎悪だとか、それだけではなさそうですね」

「そうだな」

 そうして、誰もが再び、黙り込んでしまった。

 考えていることは同じだ。

 余りにも、ちと、重すぎる。

 大学生の自分達には、手に余る。

 だが、警察に駆け込んで、何と言うのか?

 表面的には、関連性のない死が三つあるだけだ。

 沙織と生川の逃亡なんて、歯牙にもかけられないだろう。

「取り敢えず、渦の中心が分からないとな」

と玲奈さん。

「翔太と拓哉が、ヒロと兄が会った時はどんな様子だった?」

「それが、確か、ヒロが気を付けて、と言っていたような。その時は、日常的な挨拶の様なものかと思ったんですが、今、思えば・・・」

と、僕が、多少、ドモリながら、言った。

「それは、探偵、失格じゃないか」

と、玲奈さんが、フンと鼻を鳴らしながら、言った。

「いやまあ、ユートピアのライブで興奮してて」

「ふーん。それで、ヒロの携帯の番号は聞いたのか?」

「・・・いえ。自分の番号は渡したのですが」

「お前ら、普段、どんなナンパしてるんだ?」

「・・・」

「押しが弱いんじゃないか?」

と、玲奈さんが、面白そうに嘲笑う。

 黙って聞いていた、響子さんが、苦笑いしながら、助け話を出してくれた。

「でも、卓三さんだっけ?幽霊のお爺さんから、ヒロには辿れるでしょ?」

「ええ、それはもう、多分」

と、僕は、言いながら、内心、卓三さん、ヒロの携帯番号なんて知っているかなあ、と不安に思った。

 続いて、僕は、軽く、咳払いして、言った。

「それで、今日、玲奈さんと響子さんに来て貰ったのは、お察しかとも思いますが」

「財務省の藤倉秀樹の線か」

「ええ」

 玲奈さんは、ニヤリとして、言った。

「翔太も偉くなったものだな。仮会員なのに、NKKの会長と副会長に、指示出すか」

「いやまあ、お願いでして・・・」

「冗談だ。財務省は響子の就職先だからなあ。まあ、色々と気になる」

「そうよねえ」

と、響子さんも頷く。

「それに、確か、響子」

と、玲奈さんは言って、響子さんに向き直って、言った。

「明日は、この前、言ってた、内々定者のパーティーだったよな?財務省のお偉いさんも参加するという」

「うん」

「ちょっと、ドレスアップして、私も行ってみるか」

「でも玲奈は、招待状無いじゃない」

と、響子さんが言う。

「立食だろ?そんなものいるか。途中から入れば、誰もチェックなんてしやしないさ」

 僕は、二人のやり取りを聞きながら、内心、ホッとした。ヤクザも苦手だが、偉そうな大人ってのも、どうも苦手だ。財務省の方は、玲奈さんと響子さんの方が適任だろう。


 ミーティング後、僕と拓哉は早速、キャンパスの中庭で、卓三さんと話をすることにした。拓哉が傍にいると、独り言を言う変なお兄さんにならなくて済むので有難い。

「卓三さん、ヒロ、弘子さんの携帯の番号って分かります?」

「ワシの携帯が無いと分からん」

 ・・・そりゃ、まあ、そうか。

 他人の携帯番号なんて、一々、覚えちゃいないだろう。

「では、卓三さんの携帯は?」

「そりゃ、処分したさ」

「・・・ですよね」

 ん?不味くないか?

 ユートピアは今、九州だ。行くとしたら飛行機代がなあ。少なくとも、二人分は無理だ。一人分だって、もちろん、きつい。無論、ミカに経費を請求出来る雰囲気ではない・・・。

 と、僕が、内心、ちょっと動揺してると、拓哉が、卓三さん(がいそうな方向)に、言った。

「卓三さん、卓三さんの携帯は、どなたが処分したんですか?」

 卓三さんは、ちょっと、怪訝な顔で、拓哉に言った。

「ワシが見えるのか?」

「見えませんよ。方向は、翔太の視線からの当てずっぽです」

「そうか。残念じゃ」

「そうですか」

「ワシも、翔太とばっか話して詰まらん」

 僕は、ムッとして言った。

「僕ばっかで、悪かったですね!」

 拓哉は、苦笑して、僕に言った。

「そう言うなよ。俺とお前だって、話す相手が、互いに、一人だけだったら、飽きるだろ」

「・・・まあ、そうだけどさ」

 拓哉が、なんだか僕より、ちょっと大人に見えて来たぞ。

 ちょっと大人な拓哉が、卓三さんに訊く。

「卓三さん、それで、卓三さんの携帯は、どなたが処分したんですか?」

「そりゃ、婆さんじゃ」

「婆さん?」

「ワシの妻じゃ」

「それは良かった。平均寿命は女性の方が高いですからね」

 そういや、この前、ヒロの前で、のろけてたな。

 卓三さんは、ボソリと呟く様に言った。

「婆さんも早く死んでくれんかのう。今死ねば、会えるんじゃなかろうか」

 卓三さん!それは、死者が、言っちゃいけないセリフですよ!

 ん?待てよ。

「卓三さん、亭主関白では何と言ってるんですか?」

 卓三さんは、僕をチラッと見ると、呟いた。

 

 例えばわずか一日でもいい 俺より早く逝ってはいけない


「なんだ、卓三さんの希望通りじゃないですか」

「それは違うじゃろ。ワシが死んだ一日後に婆さんも死ぬのが理想じゃ」

「んな、無茶な・・・」

 拓哉も、半ば呆れた様だが、淡々と卓三さんに訊いた。

「奥様が住む家は、ここから、どの位ですか?」

「電車で二時間もあれば、行けるじゃろ」

 僕と拓哉は、顔を見合わせると、お互いに、頷いた。

 僕は、卓三さんに言った。

「今から、愛する奥様の元に行きましょう」

 卓三さんは、喜ぶかと思ったら、ちょっと、迷ったような、軽く嫌々するような感じで、僕を見た。

「どうしたんですか?」

 卓三さんは、僕と拓哉を、チラッ、チラッと見て言った。

「・・・ワシは怖いんじゃ」

「怖いって何が?」

「婆さんに新しい男が出来てるんじゃないかと」

「そんな・・・」

と、拓哉が、半ば呆れ気味に言う。

 僕は、そう言えば、と思った。

 卓三さんの奥様ということは、ヒロの御婆さんだ。結構、美人なんじゃないか。隔世遺伝という言葉もある。それに、最近は、老人の恋愛も社会問題化、或いは、社会的に肯定されている面がある。

 僕は、悪戯心を出して、言った。

「卓三さんのご懸念、もっともです」

「・・・そんな」

 卓三さんが、ギョッとした様に、僕を見る。自分が言う分には、許せるが、他人に言われるとムカつくという言葉もある。

 僕は、卓三さんの気持ちを無視して、言った。

「卓三さんも、話は聞いてたでしょう?弘子さんの御兄さん、賢二さんが殺されてるんですよ。弘子さんだって、危ないかもしれない」

「誰が、あんないい子を殺すんじゃ」

「だから、それを今、調べてるんです」


 それから、二時間後、僕と拓哉と卓三さんは、卓三さんの生前の家の前に来ていた。奥様と二人になってからは、団地住まいということで、部屋は三〇四だった。

 僕は、卓三さんに、言った。

「卓三さん、僕は、昔、あるアドバイスを貰いました」

「なんじゃ?」

「こういう時は、最悪のケースを想定するんです」

「最悪?」

「つまり、奥様が、新しい男とイチャイチャしていると、想定して下さい」

「・・・」

 流石に、ベッドシーンはない・・・はず。

 僕が、呼び鈴を押すと、しばらくして、卓三さんの奥様と思われる老婆が出てきた。

 卓三さんを見ると、僕に、黙って、頷く。

 老婆は、なるほど、ヒロのお婆様だけあって、品のいい感じの、そして、小柄な身体の上にある丸顔が柔和な御婆さんだった。

 亭主が死んで、直ぐに、新しい男を作るタイプには見えなかった。

 僕は、何も見せるものがないので、取り敢えず、学生証を見せた。この年代の方には、ちょっとは、効果があるのではないか。

 奥様は、学生証を、僕に返しながら、言った。

「それで、何のご用でしょうか?」

「弘子さんの携帯の番号を教えて頂けませんか」

 僕は、奥様が何か言おうとするのを、片手で制して、言った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ