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第15章 ダーツ作戦

「そろそろじゃろ」

と、長澤さんが言ってから、二十分程してから、ビルの入口から、二十代後半の男が独り出てきた。

 剃りこまれた眉毛、色つきのサングラス、アロハを思わせる派手なシャツ、黒のスラックス、そして、ちょっと高そうな革靴。うーむ、喧嘩が強そうという感じはしないんだが、全身から、一歩も引かないぞ、という空気を醸し出してる。僕は、内心ゲンナリしたが、陽菜に合図を送らないといけないが、どうも気乗りしない。

 すると、陽菜が、呆気らかんと言う。

「あいつ、じゃない?」

 僕は、コクリと頷く。

「アイツを、飲みに誘えばいいわけね?」

「お願いします」

「OK」

と、陽菜は、軽く頷くと、道路のこちら側を、そのまま、慶太が進む方向に、平行に歩き出した。

 頼もしい。実に、頼もしい。

 考えてみれば、アカプルコで僕が死んだ時も、ブースに、かなりヤバめの人がいた。陽菜は、ヤバイ人関連に慣れているのかもしれない。

 頼もしいぜ!セクシー野獣一号!

 僕と拓哉は、狐に包まれたような気持ちで、陽菜の後を付いて行った。

 五分程、だろうか、駅に近づくに連れて、飲み屋などが増えた、と思ったら、陽菜が、ツツッと慶太に駆け寄って、二言三言、言葉を交わす。最初は、怪訝な顔をしていた慶太も、すっかりデレデレだ。デレデレというより、セクシー光線に、頭がボーとしてしまうのだ。・・・アカプルコで僕がそうだったように。

 事態を見守っていた、拓哉が、ボソリと呟く。

「なあ、ナンパって、わざわざクラブでやる必要ないんじゃねーの?」

 高い入場料を払って、という意味だ。

「だね」

「俺ら、なんで、クラブでやり出したんだっけ?」

「なんでだっけ?」

と、僕は、訊き返したが、実は心当たりがある。

 新入生の時に、どっかのサークルの新歓コンパに混ぜて貰った時に、会場がクラブで、これはイケル、と思ったのだ。結局、何がイケルのかは、さっぱり、という結論にになってしまったが。このコンパに拓哉はもしかしていなかったか。一緒の記憶が無い、ということはいなかったのだろう。

 陽菜は、長年連れ添ったカップルのように、慶太の腕にスッと腕を絡ませると、しばらくの間、辺りをキョロキョロと見回していたが、やがて、あそこ、あそこ、と言ったように思えた。そして、慶太を、あるビルの入口に押し込むと、こっちに向かって、何やら、親指と人差し指で、何かを放り投げる仕草をしてみせた。

「何、あれ?」

と、僕が、拓哉に呟く。

「ダーツだろ」

 なるほど、ビルの側面の店舗案内の四階がダーツバーだ。店名は、キューピットとある。

「お前、ダーツやったことある?」

「ない」

 では、ダーツの勝敗を、取引に使うのは止めた方がよさそうだ。

 僕と拓哉は、二十分程、遅らせてから、そのビルのエレベーターで四階に行って、キューピットに入った。

 ダーツバーと行っても、客が須らく、ダーツをしている訳ではない。

 キューピットは、ダーツも出来るよ、的なお店で、フロアの大部分には、三人掛け程度の丸机がおかれていて、壁沿いにダーツエリアがあった。

 店内に人はまばらというか、未だ、そこまで人はおらず、僕と拓哉は、陽菜と慶太が座っている丸机の、隣の丸机に陣取ることが出来た。


「よし、それなら、ダーツで勝負だ」

 陽菜が、僕と拓哉を、陽菜の後輩ということで、机に呼び寄せて、飲みだしてから二十分後、僕はこう言っていた。

 陽菜は、レディース出身らしい。それが、慶太に話を合わせる為なのか、本当にそうだったかは分からない。

 陽菜が、任務とはいえ、慶太にイチャイチャしている感じだったので、僕も、後輩という設定を利用して、昔から、陽菜さんに憧れていたんです、と言って、その後、慶太と二、三やり取りして、結果として、そうなった。

 拓哉は、お前、ダーツやったことあったっけ?と訝し気な目線で僕を見たが、慶太と陽菜は、二つ返事で、それはいい、面白そう、となった。

 それで、店内に置いてあった紙に印刷されたダーツのルールを読んで、びっくらこいた。

 なんと、最高得点は、ダーツボードの中央のあの、小さな丸じゃないのか。

 うーむ、やはり、早計だったか。 

 それで、慶太と陽菜に視線をやると、どうも、二人は、勝手知ったる感じで、戦の前の、準備をしてる。

 確保出来たダーツボードは、一つだったので、四人で順繰りにスローしていくことになった。

 ゲームの種類は、僕と拓哉が初心者と自己申告したので、最も基本的なカウントアップになった。

 一ラウンドに、一人が三投ずつ投げていき、八ラウンドの合計得点で争う。

 結果は、予想通り、僕と拓哉の惨敗で、僅差で、陽菜が慶太に勝った。

 もちろん、慶太は悔しがり、陽菜に、

「次が決勝だ」

と、都合のいいことを言い出したが、誰にも異論はない。

 それで、陽菜と慶太は、二人の世界に入ってしまい、僕と拓哉は、近くの丸机で、ビールをチビチビと飲むことになった。あまりに、シレッとした僕は、拓哉に言った。

「外ウマしね?」

「俺、陽菜」

 ・・・あっ。

 外ウマとは、陽菜と慶太の、どちらが勝つか、外野にいる僕らが勝手に賭けることだ。

 慶太に何の思い入れもなく、また、チンピラが、と何故か上から目線の僕は、陽菜に賭けようと思っていたので、拓哉に先手を取られて、しまったと思ったが、自分から言い出した手前、後の祭りだ。

 それで、僕は、不承不承、慶太を応援することになった。

「慶太さん、頑張れ!」

と、声を張り上げる。

 しまった、ちと、声を張り上げすぎたか、と気恥ずかしい思いで、周囲を見回したが、周囲の反応は温かなものだった。というか、少しではあるが、慶太と陽菜の周囲にギャラリーが出来ていた。どうも、二人の腕前は、かなりのものらしい。

 僕の声援に気づいた慶太が、こっちを向いて、スッと片腕を上げて見せる。

 それが、なんだか、様になってる。

 畜生!カッコいいじゃないか!

 陽菜には、自然とギャラリーがつく。

 まあ、判官贔屓というわけではないが、誰だって、セクシー野獣を応援したくなる。

 そんなこんなで、慶太と陽菜のダーツ勝負は、思わぬ盛り上がりを見せた。

 最初は、半ば白けた気持ちで見ていた僕と拓哉だったが、勝負がシーソゲームだったことと、外ウマをしていたので、応援にも熱が入った。僕は、その時、心底、慶太を応援していた。

 その応援の甲斐あって、慶太が勝った。

 陽菜が最後の一投を外した瞬間、ギャラリーから、悲鳴とも歓声ともつかぬ声が上がって、勝負の幕は降りた。

 すっかり、気の良くなった慶太は、僕たち三人に、

「飯でも食うか」

と言い出した。

 本来の任務を忘れていた僕だが、それで、三島の行方を訊く、という目的を思い出した。

 もちろん、渡りに船で、

「慶太さん、ゴチです」

と、調子のいい言葉もスンナリ出る。

 一瞬、ゴチでいいのか、と思いもしたが、まあ、そういう問題でもないだろう。

 ダーツバーから、歩いて五分程の、寿司屋とは行かなかったが、居酒屋に入った。

 話は、先ほどの、ダーツ決戦を皮切りに、次第に、陽菜がレディースにいたことになった。どうも、話が具体的で、また、地元の慶太も、相鎚を打つことから、陽菜がレディースにいたのは事実らしい。

 自然と、成り行きで、話は、僕と拓哉のことになった。

「今、何してるんだ?」

と、慶太が、温かみも感じさせる感じで、訊く。

「大学生です」

という答えが、期待されてるとも思えない。

 さて、何と答えようかと僕が、一瞬、答えに詰まったら、横から、拓哉が言った。

「俺は、引きこもりっす」

 そこで、何故か、慶太はシタリ顔で、僕に言った。

「お前もか?」

「そんなもんです」

と、僕は言うしかなかった。

「そんなもん?」

「こいつはバイトしてるから」

と、拓哉が補ってくれた。

「何のバイトだ?」

「タコス作りっす」

 本当は、皿洗いなのだが、僕は見栄を張った。

 そしたら、何と、慶太は、アハハと笑い出した。ので、僕はむかついた。

「何がおかしいんっすか?」

「いや、悪い悪い。何か、意外だったので」

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