表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/37

第10章 九条修と財務省

「貴方が、ここに、シエロに、よく、沙織さんと来てた、と聞きました。何か知らないかと思って」

 男の人は、明らかにギョッとして、そして、的外れなことを言った。

「沙織は天使のような女性だ」

 天使、と聞いて、僕も黙っていられない。何せ、実物に会っているんだから。

 そして、思った。

 沙織さんは、確かに、美人だが、どちらかと言えば、小悪魔というか、ミステリアスな感じじゃないだろうか。

 でも、そんなことを、この目の前の男の人に言っても、しゃーない。

「お名前を聞いてもいいでしょうか?」

 男の人は、少し、考えていたが、やがて、名乗った。

「クジョウ、九条修。十七条憲法の九条だ。日本国憲法の九条じゃない」

 このへんは、僕には、トント分からなかった。

「お仕事は?」

「コウボクだ」

「コウボク?」

「財務省勤務だ」

と、九条は誇らしげに言った。

 ざ、ざいむしょう?

 なんと、消費税導入、増税の悪の巣窟の財務省!

 僕の目が思わず、光ったのだろうか。九条はたじろいだように言った。

「どうした?」

 僕は、慌てて、首を振った。

「いえ、なんでもありません。それで、沙織さんとの関係は?」

「君には関係ないだろう」

 それはその通り。

「では、沙織さんと最後に連絡取ったのは?」

 九条は、ちょっと考えて言った。

「二週間ぐらい前かな」

「沙織さんの行方に心当たりは?」

「・・・ない」

という言葉と裏腹に、どうも、九条は歯切れが悪い。

 だが、僕としては、こう答えられたら、どうしようもない。

 僕と九条は、しばらく、無言で、見つめ合った。

 やがて、九条が言った。

「俺はもう、行くぞ」

と、立ち去りかけたが、ふと思い出したように、財布から、名刺を一枚取り出すと、僕に手渡した。

「沙織のことで何か分かったら、連絡、来れ」

「沙織さんとのご関係は?」

 九条は、少し、考えて言った。

「天使の下僕さ」

 公僕といい、下僕といい、どうも、九条には、まぞっけがあるようだ。

 九条は、僕が名刺を受け取ると、そんな僕の感慨をよそに、クルリと背を向けて、立ち去ってしまった。

 僕が、九条さんをぼんやりと見送ってると、

「おい」

と声がした。

 長澤さんが、苦い顔をして立っている、というか、現れた。

「おい、何してる、尾行せんか」

「尾行?」

「とりあえず、自宅ぐらい突き詰めとけ。あの様子じゃ、家に直帰じゃろ」

 そう言われてみれば、と、僕は、九条さんの尾行を開始した。


 しばらく腕組みをした後、拓哉は、おもむろに言った。

「何か、証拠あるの?」

「証拠?」

「お前が天国に行って、天使にあって、ガラポンして、死者と話せるようになった証拠だよ」

 ここは、大学のキャンパスでも、緑が多い広場で、僕は、拓哉に、いきさつを話した。九条さんに関して、協力を得るためだ。NKKの部室では、流石に具合が悪い。

 何故だか、小鳥のさえずりが不思議と耳に入る。

 チーチーチーとチューチューチューの間だ。

 証拠ねえ。

「長澤さん、何か証拠ありましたっけ?」

 僕の横で、じっと話を聞いていた長澤さんに訊いた。

 長澤さんは、無論、首を振るだけだ。

「今、いるの?」

と、拓哉が、横を向いた僕の視線の先を見ながら、言う。

「いますよ。長澤浩一さんです。今話した、沙織さんの父君であり、今回の依頼者」

と、僕が半ば、自嘲気味に言う。

 拓哉は、何故か、そんな僕をじっと見て、観察していたが、やがて、言った。

「まあ、お前が嘘をついてないことは分かった」

「あら、信じてくれたの?」

「いや、信じてはいない。が、お前は嘘をついてないと思う」

「なんで」

「お前が嘘をつくときは、鼻の穴がヒクヒクするんだよ。それに、声がちょっと上ずる」

 ・・・えー、そうなの?

 じゃあ、小学生三年生の時、香里ちゃんが好きだけど嫌いだ、って言ってたの、バレてたわけ?中学二年生の時、拓哉の好きな沙也加ちゃんとデートしたのバレてたわけ?

 ・・・確認するの止めとこ。

 それで、僕は冷静を装って、言った。

「仮に、お前の言う通りだとして、俺が嘘をついてないってことは、お前は俺の話を信じてくれたってことじゃないの?」

「それは違うだろ。例えば、お前が幻覚を見てる場合などがある」

 ・・・なるほど。つまりは狂人か。

 僕は、頭の中で、グルグル考えながら、言った。

「それで、結局、九条さんの件は協力してくれるの?」

「するさ」

「あら」

「その憎き財務省の九条が、何を喋るかで、お前の話が本当か分かるだろ。或いは・・・」

「或いは、幻覚を見てるか、か」

「だね」

 僕も、段々、幻覚を見てる気がして来た。

 考えて見ると、そう考えた方が、合理的というか、近代科学にマッチしてるよね。

 それで、僕は、長澤さんに、右手の人差し指をビシッと突き付けながら、言った。

「貴方は、僕の見てる幻覚だ!」

「違う」

「嘘つけ!この幻覚め!」

「・・・」

「冗談、というか、一つの仮説ですよ」

「そうか」と長澤さん。「お前を呪い殺してやろうかと思った」

「・・・そういうの出来るんですか?」

「分からん。多分、出来ないだろう」

 僕は、心から、ホッとした。

 前も言ったけど、長澤さんて、良く言えば、切れ者ビジネスマン。まあ、ヤクザ屋さんだと思うんだよね。

 僕の、独り言を聞いていた拓哉が、言った。

「それで、今日やるのか?」

「そうだな、早い方がいいだろ」

 拓哉は、僕をじっと見つめながら、頷いた。

 拓哉としては、幻覚検証として、なんだか、興味が沸いたらしい。・・・心強い限りだ。


 僕は、九条さんの家の近くに停めてあった、ワゴンカーに、九条さんを案内した。ワゴンカーの運転席には、拓哉がいる。

 九条さんは、拍子抜けするほど、あっさり、付いて来た。沙織さんの情報が欲しいのは、九条さんも同じだからだろう。まあ、今の僕には、何も情報が無い訳だが。

 後部座席のドアをスライドさせ、九条さんを、車内に押しやる。

 後部座席全体は倒してフラットな状態にしてある。折り畳み机を置いて、ノートパソコンを置くためだ。九条さんは、言われなくても、ノートパソコンの前に座って、モニターを興味深げに見る。

「それでは、始めます」

と、僕は言いながら、通信を始めた。

 すると、画面には、女性らしき姿が、二人映った。女性らしき、と言ったのは、二人とも、タイガーマスクを被っていて、顔などが判然としない為だ。

 二人とはもちろん、玲奈さんと響子さんだ。

 玲奈さんは、セミロングの髪が、マスクからはみ出ていて、顔の多くは、覆われているのに、不思議と美人だとわかる。

 響子さんは、マスクの上から、黒縁眼鏡をしていて、それがチャーミングだ。見る人が見れば、響子さんだと分かるだろう。だが、無論、九条さんには、分かりっこない。

「沙織か!」

と、九条さんが、悲鳴にも上げた声を出した。

 だが、九条さんは、しばらく、モニターを眺めた後、違うな、と呟いたあと、もの言いたげに、僕を見た。

「本題の前に、九条さんに、お聞きしたいことがあります」

「なんだ?」

「日本の頭脳と言える財務省に務める、九条さんにです」

 日本の頭脳と言われて、悪い気がする人間はいないだろう。九条さんも、フフンと鼻を鳴らしながら、

「俺も忙しい。手短に済ませてくれ」

と、満更でもない感じで、言った。

 僕は、モニターの向こうの響子さんと玲奈さんに向かって言う。

「では、どうぞ」

 響子さんは、コホンと咳払いをしてから、これから、先輩になるであろう九条さんに、問うた。

「何故、消費税増税をするのですか?」

 九条さんが、モノ問いたげに、なんだそんなことか、と僕を見る。

 僕は、おもむろに大きく頷く。

「君らも分かっているだろう。これから加速する高齢化社会の為に、福祉の財源が必要なんだ」

「それはそうでしょう」

「うむ」

と、九条さんが頷く。

「でも不景気下に増税して景気を悪化させて、全体の税収を下げたら、元も子もないじゃないですか?」

「・・・」

 これだ、この質問だ。このロジックだ。僕も、いつもここで返答に窮してしまう。

 九条さんも、案の定、黙り込んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ