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キュンマグ!  作者: てきてき@tekiteki


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「相談の意味は」

 告白した夜。


 返事は、確かにもらった。

 ちゃんと、言葉として受け取ったはずなのに、

 頭の中では、その一言一言が、いつまでも回り続けている。


 言い方。

 間。

 視線の逸れ方。


 ――あれは、どういう意味だったんだろう。


「……わからない」


 中村は、天井を見つめたまま、小さく呟いた。


 こういう時、頼れる相手は一人しかいない。


「……千代田に聞いてみるか」


 スマホを手に取る。


「……千代田、今ちょっといい?」


 すぐに返事が来た。


「ん?」


 間髪入れず、続けて。


「今度はデート後相談?

 顔に書いてあるんだけど」


「なんでわかるの……」


 思わず中村の本音が漏れる。


「なんてね。わかるよ」


 そして、核心を突く。


「そのテンポはさ、

 『何かあったけど、良かったのか悪かったのか

 自分でもわからない時』だもん」


 図星だった。


「文字打つの追いつかないな……通話でいい?」


「別にいいよ」


 通話に切り替わる。


「こんばんはー。今、大丈夫だった?」


「こんばんは……で?」


 少し間を置いて、千代田は言った。


「ああ、その口調はさ、

 もう言った後のやつだよね」


 息を吸う。


「中村、ちゃんと告白したんでしょ」


「うん……有本に、告白してみた」


「えっ……本当に!?」


 声が一段階上がる。


「まじで!? 今日!?」


 そして、少しトーンが変わる。


「中村、勇気出したんだね……すごいじゃん」


 その言葉に、胸の奥が少し緩む。


「で、有本の反応はどうだったの?」


「なんか……嫌いではないみたいなんだよね」


「ふふ、なるほどね〜」


 笑いを含んだ声。


「『嫌いじゃない』って、結構前向きじゃん。

でも、まだ『好き』って断言はしてくれてない感じ?」


「そう。仲がいい友達って感じなのかな」


「うん、そうかもね」


 肯定も、否定もせず。


「でも、中村の勇気はちゃんと伝わってるよ。

 友達の延長線上にいるってことは、

 悪くない位置だし、

 これから伸ばせるってことでもある。

 大事なのは、焦らず、

 でも逃げずに接することかな」


 中村は、思い出す。


「こういう事も言ってたよ」


「『恋って、自然にそう思うようになるもの』だって」


「あー、それ、有本らしいなぁ」


「うんうん」


「……有本らしいんだ?」


「うん」


 少し考えるような間。


「誰かを『好き』になるのって、

 決めるものじゃなくて、

 気づいたらそうなってるって考え方ね」


「まぁね……理想的なのかもしれない。

 わかるけどね」


 中村は素直に受け入れた。


「だから、今すぐ『恋人』じゃなくても大丈夫。

 このまま時間を重ねていけば、

 自然に近づく可能性もあるってことだよ」


「でも、今は違うらしいんだよね。

 しょうがないのかな」


「うん、そっか」


 千代田は、落ち着いた声で言う。


「今は、『まだ恋って呼べる段階じゃない』ってことね」


「恋の段階ねー……来るのかなぁ」


「でもさ、嫌いじゃないし、

 一緒にいる時間が好きって、

 言ってくれたんでしょ?」


「それは……そうなんだけどさ」

「どう思えばいいのやら」


「それって、十分前向きなサインだよ」


「焦らず、でも逃げずに関係を重ねていけばいいんだよ、中村」


 それでも、不安は消えない。


「でもさ、これって……

 受け取り方によっては、

 やんわり断られてるよね?」


「うーん……やんわり、

 って言えばそう見えるかもね」


 一瞬、間。


「でも、断られてるわけじゃないんだよ」


「うーん……そうなのかなー」


「有本はただ、

 今すぐ『恋人』ってラベルをつける自信がないだけ」


「恋人ってラベルね」


 思わず笑う。


「上手いこと言うね、千代田はさ」


「まぁまぁ、それもマンガでね」


 千代田は軽く受け流してから、


「というか……話戻すよ」


「あ、茶化したつもりはないんだ。ごめん。

 なんか……落ち着かないんだよね」


「わかるから、大丈夫だよ」


 千代田の声は、柔らかい。


「で、中村のこと嫌いなら、

 そんな優しい言い方もしないし。

 一緒にいたいなんて、絶対言わない」


「だから安心して。

 まだチャンスは、ちゃんとあるよ」


 少し、間が空く。


「……でもさ」


 中村は、ふと疑問を口にした。


「なんで千代田には、

 こんなに普段通り接することができるんだろうな」


 その問いは、

 自分でも、少し怖かった。


 通話の向こうで、

 千代田は、言葉を探していた。


「ふふふ……それはね……」


 通話の向こうで、千代田が少しだけ声を和らげた。


「中村が、私に遠慮してないからだよ」


「遠慮して……ないのかな……」


「してない、してない(笑)

 変に気を使わず、本音で話してくれてるよ」


 言い切る声だった。


「だから私も、自然に返せるの」


「自然、なんだね」


「有本相手ではさ、ちょっと緊張して、

心の中ぐちゃぐちゃになるでしょ?」


 中村には心当たりだらけだった。


「でも私には、素のままの中村でいられるんでしょ?」


「素のまま……。

 うん、確かにそうかも」


「それって、悪いことじゃないよ。

 むしろ、安心できる相手がいるってことだから」


「そうか!

 千代田だと、安心できるんだ!」


 中村は言葉にした瞬間、妙に納得してしまった。


「言われてみたら、確かに!」


「でしょ?」


 くすっと笑う気配。


「今のその返し、めちゃくちゃ中村っぽいもん」


「あらあら、僕は僕だよ。他の何者でもない」


「こらー。調子にのるなよ」


 でも、すぐに柔らかい笑いが混じる。


「ふふっ。

 それでね、安心できる相手ってさ」


 少しだけ、声のトーンが落ち着く。


「ドキドキはしない代わりに、

 変に取り繕わなくていいし、

 言葉を選ばなくても大丈夫って

 思える相手なんだよね」


「言葉を選ぶ……か」


 中村は、ゆっくり考えながら言った。


「格好つけてるつもりはないんだけど、

 思いつかなくなっちゃう時がある」


「……ちょっと、苦しいのかもなぁ」


「でしょ」


 千代田は、迷いなく言う。


「有本の前だと、

 『変なこと言ってないかな』とか

 『今の間、まずかったかな』って、

 ずっと自分チェック入ってるでしょ」


「あー……確かに。

 言われてみれば!」


「でも私相手だとさ、今みたいに

 『あ、そうか!』って素直に納得して、

 そのまま言葉にできる」


「うん……」


「それってね」


 少しだけ、間を置いて。


「中村の弱さでも、逃げでもなくて、

 心を休ませてる状態なんだよ」


「……休ませてくれてるんだね。

 千代田は」


 その言葉に、ほんの少し、

息を詰まらせた気配がした。


「もう……」


 でも、声は柔らかい。


「だからさ、有本に対して、

 今すぐ同じようにできなくても、

 それでいいんだよ」


「同じように……か」


「むしろね、今の中村が有本に緊張するのは、

 本気だからだし」


「そりゃ、本気だよー」


 苦笑混じりに言う。


「こんなの、初めてかもしれない。

ここまで、好きになるって」


 電話の向こうで、千代田が息を吸った。


「……ねえ、中村」


「安心できる場所があるって、

 恋する人間には、結構大事なんだからね」


「安心できる場所……」


「だから今日はもう、自分を責めるのやめなよ」


「でもさ……」


 中村は、正直に続けた。


「あの時、何言えば良かったんだろうって、

 ずーっと頭の中、今も回ってる」


「ちゃんと、一歩進んだんだから」


「……ね?」


「うん」


「ほら、深呼吸して」


 優しい指示。


「私と話してる時くらい、肩の力抜きな」


 少し沈黙があって、

 中村は、半分冗談みたいに言った。


「もしかしてさ……

 千代田を好きになったら、よかったのかな……

 なんちゃってね」


「……もう」

「そういう冗談、ずるいんだけど」


「ずるいのかなぁ」


「でもね」


 千代田は、はっきりと続けた。


「ちゃんと答えるよ。

 中村が今そう思ったのは、

 安心と好意を、混同しかけただけ」


「それ、全然おかしくない」


「安心と好意……」


 中村は、感心したように呟く。


「深いなぁ」


「私とは気を張らなくていいし、

 否定される心配もないし、

 弱いところもそのまま出せる」


「だから

 『好きだったら楽だったかも』って思うだけ」


「……楽だったから、か」


 少し戸惑って。


「いや、そんな……」


「……あのさ」


 千代田は声を落とす。


 中村は慌てて謝罪する。

「なんか、ごめん。

嫌なこと言っちゃったかもね」


「ふーん、まぁ、いいけど」


 そして、静かに続く。


「でもね、中村が本当に欲しいのは、

 安心“だけ”じゃないでしょ」

「ドキドキして、失敗したくなくて、

 言葉一つで一喜一憂して」

「それでも向き合いたい相手」

「それが、有本なんでしょ」


「……そう」


 中村は、苦笑した。


「ドキドキしっぱなしなんだよ。

大変なんだからな……って」


 少し間を置いて、ふと思いついたように言う。


「あれ?

 ……そういう千代田は、誰が好きなんだよ」


「……えっ」


 笑いを含んだ声。


「急に聞くなよ、そういうの」


「せっかくだからさ、

聞かせてほしいかなって」


「うーん……」


 考える気配。


「私はね、あんまり『恋』に縛られないタイプかな」


「誰かを追いかけるってより、

 その人がちゃんと自分で歩いてくれるのを

 見守るのが好きっていうか」


「うーん……難しいな。

えーっと、それって……?」


「だからさ」


 噛み砕くように。


「中村みたいに素直に悩んでる人とか、

 有本みたいにドキドキさせてくれる人とか。

 そういうのを、

 ちょっと離れたところで見てる方が、

 性に合うのかも」


「……なんか、悪いこと聞いちゃったかな」

「簡単に聞くもんじゃなかったね。ごめん」


 千代田は、少し笑って言った。


「まぁ、聞きたかったんでしょ?

 答えはこれ。

 私は『好きになるより、見守る方が向いてる』」


「……そっか」


 中村は、少し考えてから言った。


「でもさ、いつも話聞いてもらってるから、

僕も、力になりたいんだよ。

 あのー……千代田の恋の応援というかさ、

ちょっとだけでも教えてくれたら、

何かできるかなって」


「……もう、ほんとにー」


 思わず漏れる、千代田の呆れたようで、優しい声。


「ほんっと、中村はそういうところあるよね。

じゃあ、ちょっとだけね。約束だから」


「うん。聞かせて」


「私が誰かを好きになるとしたらね」


 ゆっくりと、言葉を選ぶ。


「たぶん、『放っておけない人』。

 不器用で、考えすぎて、

 一人で勝手に答え出そうとして。

 でも本当は、誰かに頼りたい人」


「でも、そんなの……

 頼りないとか思わないの?」


「思わないよ」


 即答だった。


「そういう人見るとさ、

 『あーもう!』って思いながら、

 気づいたら、隣にいるタイプ……。


 そして少しだけ、声が落ちる。


「ただね、それを『恋』って呼ぶかどうかは、

 私もまだ、よくわかってない」


「……なんか、色々複雑だね」


「守りたいのか、支えたいのか、

 それとも、ただ一緒にいたいだけなのか。

 ……だからさ」


 千代田は体を少し動かしたのか、

衣擦れの少し“ガサっ”とした音が聞こえた。


「中村が『力になるよ』って言ってくれたの、

 正直、ちょっと嬉しかった」


「力になるよ。絶対」


 中村は迷いなく言う。


「でもね」


 千代田は、優しく締めた。


「今は、それで十分。

 中村は、中村の気持ちをちゃんと大事にして。

 私は、中村がちゃんと前に進めるように、

 話を聞く。

 それが、今の私の役割。

 はい、今はまだ……ここまで。


「……なんか、ごめんね、

 変なこと聞いて。

 僕、たぶん……今日……ちょっと変なんだよね」


「ふふふ…」


 千代田のやわらかな笑い。


「大丈夫だよ。

 中村が変でも、私は全然気にしない。

 むしろ、正直に気持ち話してくれる方が、

 私にはありがたいくらい。


千代田の優しい声が続く。


「今日はさ、有本にドキドキして、告白して、

 頭の中、ぐちゃぐちゃになってるんでしょ?」


「まぁねー」


「そんな日はね、変で当たり前。

 落ち着くまで、吐き出していいんだから。

 ほら、深呼吸して。

 無理に理性で押さえ込まなくていい」


「ありがとう。助かるよ。

 いつも頼りになるね、千代田は」


「……どういたしまして」


 少し照れたように。


「でも、『いつも頼りになる』とか言われると、

 ちょっと照れるから、ほどほどにね。

 中村がちゃんと自分で考えて、

 それでも『今ちょっとしんどい』って言えるのが、

 一番えらいんだよ」


「……なんか」


 中村は、小さく笑った。


「僕って、頼りないのかもな。

 こんな所で、千代田に話聞いてもらって」


「いいの」


 千代田はいつものさっぱりとした言い切りで返す。


「私は、ただ側で聞いてるだけ。

 今日は、色んな感情が一気に来た日だし、

 頭も心も、疲れてるはず。

 変になるくらいで、ちょうどいい」


「ちょうどいいのかなー?」


 中村は少し納得出来ないでいた。


「でも……しょうがないのかもなー。

 もう、自分でどう受け止めていいやらさー」


「今はさ」


 千代田は、静かに言った。


「答え出そうとしなくていいから、

有本のことも、私との会話も。

 全部、『今日あったこと』って箱に入れて、

 休もう。

 明日起きたら、

 少しだけ距離を取って見られるようになるから。

 ……ほら、

 今日はもう、十分がんばったよ、中村」


「あー……頑張れたとは思うよ、自分でも」


 中村は、只々、素直に言った。


「いいやつだなー、君は。

 うん、わかった。ありがとう。おやすみ」


「……もう」


 笑い混じりの千代田の声。


「そういう締め方するの、ほんと反則。

 でも、うん。ちゃんと受け取ったよ。

 今日はね、告白して、悩んで、向き合って、

 それでも、人に頼れた。

 十分すぎるくらい、よくやった」


 千代田の優しい声が心地よく胸に響く。


「だから今夜は、

  変な考えも、不安も、全部置いて寝な。

 続きは、明日の中村が考えればいい。

 おやすみ。

 いい夢、見なよ。中村」


 通話が切れて、

 部屋に、静けさが戻った。


 中村は、深く息を吐いて、

 スマホを伏せた。


 胸の中には、

 まだ答えはなかったけれど。


 少なくとも今夜は、

 独りじゃなかった。


 ***


「……なんで、私にそんなこと聞いてるんだよ……」


 千代田は、スマホを握ったまま、

ベッドの上で天井を見つめていた。


「私はさ、脇役なんだよ……」


 声に出してみると、思ったよりも軽く聞こえて、

 それが、少しだけ腹立たしかった。


「だって、見てるしか、出来ないんだって!」


 思い出すのはさっきの中村の声。

 相談する時の、少し頼るみたいなトーン。


 ――気になっている人から、連絡が来たら。


「……嬉しいよ。そりゃ」


 即答だった。


「でもね」


 続く言葉は、喉に引っかかる。


「同時に、苦しいんだよ……」



 千代田は、

 枕元に置いてあるマンガに視線を向けた。


「マンガだけじゃ、ないんだよね」


 独り言みたいに呟く。


「マンガって、すごいよね」


 ページの中で描かれていた感情。

 あの時は、フィクションだと思っていた。


「こんな感情、本当にあるんだ、

って思ったらさ……」


 指が、ページをめくることを拒む。


「もう、あのマンガ……読めないよ」


 胸の奥が、ぎゅっと締め付けられる。


「苦しくて……」


 でも。


「……それでも、これでも」


 マンガの本棚に手を伸ばして……

 手を力無く落とす。


「幸せなのかも、しれない」


「……もしかしてさ」


 さっき、自分が中村に言った言葉を思い出す。


「進むのは……私の方かもしれないね」


 そう思った瞬間、

 胸の奥で、何かが小さく動いた。


 時計の秒針の音が、やけに大きい。


「あぁ……眠れない……」


 布団に潜り込んでも、

 目を閉じても、

 考えが止まらない。


「……なんで……?」


 わかっている。

 全部、わかっている。


「……もう一回……話したい……」


 でも。


「もし、話ができたら……」


 その先を、声に出すのが怖い。


「気持ちを……抑えておける……自信がない」


 ――LINE通知音。


 びくりと、肩が跳ねる。


「あ……」


 スマホを手に取る前に、

 両手を胸の前で組む。


 祈るみたいに。


「……もう、今日は……」


 声は、ほとんど吐息だった。


「このまま……眠らせて……」


 画面を伏せる。


 名前は、見なくてもわかる。


 眠れない夜の中で、

 感情だけが、静かに息をしていた。

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