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『十二都刀戦(じゅうにととうせん)』  作者: じょんどぅ


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### 第13話:亡霊の行軍、あるいは武蔵野の断層

### 第13話:亡霊の行軍、あるいは武蔵野の断層


 どこまでも続く赤黒いススキの原野。

 風が吹くたび、乾いた葉が擦れ合い、まるで数千人の軍勢が囁き合っているかのような不気味な音が響く。


 霧崎に向かって突撃する亡霊兵たちは、生きた人間ではない。その身体は半透明の影のように揺らぎ、傷口からは血の代わりにどす黒い霊気が霧となって溢れ出す。だが、彼らが振るう『古都刀』の鋭さは本物だった。


「――めんッ!!」


 先頭の兵士が、脳天を割り振らんとする凄まじい踏み込みを見せる。

 霧崎は一歩引いてそれをかわすが、直後、足元の地面から無数の手が伸び、彼の足首を掴んだ。


「……土の中まで、兵隊で埋まっているのか」


 霧崎が低く呟くと同時に、刀を鞘に納めたまま地面を強く踏み抜いた。

 

 ――ガツン、と硬質な氷の杭が地中深くへ打ち込まれる。

 

 霊脈に吸われるよりも早く、より高密度の冷気を一気に流し込んだのだ。足首を掴んでいた手の主たちは、叫び声を上げる間もなく地中で砕け散った。


「貴様の氷が何だ! この武蔵野は、かつて数多の兵が散り、その怨念を肥やしとしてきた『戦場』そのものだ。貴様の冷気など、この広大な墓標を覆う雪にすらなれん!」


 片目の男が軍刀を青白く発光させる。

 権能解放――『死軍しぐんの指揮』。

 ススキの原野全体が波打ち、霧崎を取り囲んでいた数百の兵士たちが、一つの巨大な「巨大な刃の塊」へと融合を始めた。それは、個々の戦力を束ね、関東の霊脈そのものを刃へと変換した巨大な質量兵器だ。


「これこそが武蔵野の意思。……消えろ、逸れ者の適格者よ!」


 巨大な影の刃が、霧崎の頭上から降り注ぐ。

 それは回避不能な広範囲攻撃。周囲数キロメートル、この位相空間そのものを押し潰すような圧倒的な暴力。


 だが、霧崎は逃げなかった。

 彼はゆっくりと刀を抜き放ち、その刃を自分の手のひらに押し当てた。


「……吸え。この土地が俺を拒むなら、俺もまたこの土地の一部を『停止』させてやる」


 霧崎の掌から、鮮血ではなく、青白い光の粒子が刀身に吸い込まれていく。

 これまでの霧崎が使っていたのは、自身の霊力による冷却。だが、今、彼が行おうとしているのは、この「武蔵野」という空間が持つ霊的な熱量そのものを、刀という極小の点にまで強制的に圧縮し、奪い取ることだ。


「――『領域凍結ドメイン・フリージング』」


 霧崎が刀を横一文字に払った。

 瞬間、周囲を埋め尽くしていたススキが、一斉に透明な硝子細工へと変わった。

 頭上から迫っていた巨大な影の刃も、空間に固定されたまま動きを止め、亀裂が走る。


「な……馬鹿な、空間そのものを……凍らせただと……!?」


「動いているものは、いつか止まる。……この空間に溜まった千年の怨念も、例外じゃない」


 霧崎が静かに一歩を踏み出した。

 パリィィィィィィン!!

 凄まじい音と共に、凍りついたススキの原野と、数百の亡霊たちが一斉に砕け散った。


 視界が歪み、赤黒い世界が剥落していく。

 次に霧崎が目を開けた時、そこはススキの原野ではなく、コンクリートの臭いが立ち込める「多摩川」の河川敷だった。


 目の前には、東京都と神奈川県を繋ぐ橋が見える。

 だが、その橋の上には、九条厳馬の部下でも、バチカンの使徒でもない、奇妙な集団が陣取っていた。


「……大宮へ行く前に、まずここ(多摩)の関所を通ってもらおうか。零番目さんよ」


 橋の欄干に座り、コンビニのパンを齧りながらそう言ったのは、スカジャンを着た金髪の青年だった。その背後には、重機のように巨大な「ハンマー型の都刀」を担いだ男たちが、壁のように立ち並んでいる。


 大宮への道のりは、まだ始まったばかり。

 関東編、第14話。

 舞台は多摩の防衛線、通称「多摩川の断層」へと移る。


(続く)

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