### 第14話:多摩川の鉄槌、あるいは重力という名の法
### 第14話:多摩川の鉄槌、あるいは重力という名の法
多摩川の河川敷。冷たい川風が吹き抜ける橋の上で、スカジャンの青年は最後の一口を飲み込み、パンの袋を丸めてポケットに突っ込んだ。
「ここから先、立川・八王子方面は俺ら『多摩独立防衛軍』のシマだ。大宮の議会には頭は下げねぇが、あんたみたいな『危ない火種』を通すほどお人好しでもないんだわ」
青年が立ち上がると、背後の男たちが一斉に、その巨大なハンマー――『重都刀・大山鳴動』を地面に下ろした。
ドォォォォン!!
橋全体が地震のように揺れ、アスファルトに深い亀裂が走る。
「……独立防衛軍か。九条の支配が届かない『無法地帯』が、この関東にはまだあるというわけか」
「無法じゃねぇ。俺らが『法』なんだよ」
青年が指を弾いた。
瞬間、霧崎の周囲の重力が、数倍……いや、十倍以上に跳ね上がった。
「――権能『重力結界』。あんたの氷がどれだけ凄かろうが、動けなきゃただのオブジェだろ?」
足元のコンクリートが霧崎の体重を支えきれず、メキメキと沈み込む。
肺が圧迫され、血液の循環さえも重力に逆らえず停滞を始める。
だが、霧崎は膝をつくどころか、ゆっくりと顔を上げた。
「……なるほど。温度ではなく、空間そのものの『重さ』を弄るか。準都刀にしては、筋がいい」
「余裕だな。じゃあ、これでトドメだ!」
青年の合図で、巨漢の一人がハンマーを振りかぶり、橋の欄干から跳躍した。重力加速度を上乗せされた、数百トンの衝撃に匹敵する一撃。
「死ねッ!!」
空気を切り裂くハンマーが、霧崎の脳天へと迫る。
だが、霧崎は刀を抜くことさえせず、ただ左手を真上に掲げた。
「奪い取れ。――『熱量置換』」
激突の瞬間。
凄まじい衝撃音が響くはずだった。
しかし、訪れたのは――**無音**。
ハンマーの運動エネルギー、そして青年が作り出していた高重力のエネルギー。
それら全てが、霧崎の手のひらに触れた瞬間、目に見える「冷気」へと強引に変換された。
「な……ッ!? 重力が……凍って……剥がれ落ちた……!?」
青年の驚愕通り、霧崎を押し潰していた不可視の力は、蒼白い氷の結晶となって地面へボロボロと崩れ落ちた。
宙に浮いたまま停止した巨漢のハンマー。霧崎がその柄を軽く叩くと、巨大な鉄塊は一瞬で脆い霜の塊に変わり、風に吹かれて砂のように消えた。
「エネルギー保存の法則だ。……お前が俺にかけた『力(重力)』は、俺が世界を冷やすための『薪』に変わった」
霧崎が、初めて青年へと視線を向けた。
その瞳に宿る蒼い光に、青年は本能的な死を察した。
「ま、待て……! 話を聞け、俺たちは……!」
「……多摩を抜けるための通行料だ。お前たちの持っている『都刀のスペア』、全部置いていけ」
霧崎の一歩ごとに、多摩川の流れが上流に向かって凍りついていく。
関東編、第15話。
支配を拒む多摩の軍勢を制圧した霧崎の前に、かつて東京で袂を分かった「ある女性」が姿を現す。
(続く)




