表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『十二都刀戦(じゅうにととうせん)』  作者: じょんどぅ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

124/127

### 第7話:白虎の咆哮、あるいは海軍道路の櫻

### 第7話:白虎の咆哮、あるいは海軍道路の櫻


 大和市、通称「海軍道路」。

 数キロメートルに渡って直線が続くその道は、春には桜の名所として知られるが、今の霧崎の目に映るのは、狂い咲いた「銀色の花」だった。


 地下駐車場への入り口があるはずの地点。そこには、街灯の光を跳ね返すほどに研ぎ澄まされた、無数の「鋼の産毛」が空間を埋め尽くしていた。


「……ようやく、マシな牙が出てきたか」


 霧崎が歩みを止めると、道路の中央、満開の(あるいはそう見えるように術式で固定された)桜の木の下に、白い軍服を着た男が座っていた。

 男は手にした白磁の杯を傾け、霧崎を一瞥もせずに口を開く。


「大陸(向こう)の言葉で『庚辛こうしん』という。西の守護、ごんの気を司る者。議会からは――『白虎びゃっこ』と呼ばれているよ」


 男が杯を地面に置くと、カチリ、と硬質な音が響いた。

 それと同時に、周囲の「鋼の産毛」が一斉に逆立ち、霧崎に向けて切っ先を向けた。


「お前の『氷』は噂に聞いている。だが、零度とは分子の静止だ。……ならば、分子そのものを『裁断』する我が鋼の前では、停止すらも切り刻まれる」


「試してみるか。その理屈が、どこまで通用するかを」


 霧崎が抜刀する。

 瞬間、白虎が指を弾いた。

 目に見えないほどの細さで張り巡らされていた鋼の糸――『白金ハクキンの産毛』が、一斉に霧崎の肉体へと収束する。それは全方位からの超高速のシュレッダー。


 ――キィィィィィン!!


 霧崎の周囲で、凄まじい火花が散った。

 霧崎は一歩も動かず、刀を垂直に立てている。彼の周囲数センチの空間は、極限まで圧縮された「氷の障壁」が展開されていたが、白虎の糸はその障壁すらもじりじりと削り、内部へと侵食していく。


「ほう。我が鋼の権能を、物理的な硬度だけで防ごうというのか。無謀だな」


「……硬度じゃない。お前の糸の『結合』を奪っているだけだ」


 霧崎が刀の柄を叩く。

 すると、侵食していた鋼の糸が、霧崎に触れる直前でボロボロと砂のように崩れ落ちた。


「何……!?」


「鋼といえど物質だ。原子間の結合エネルギーを限界まで引き抜けば、それはただの塵になる」


 霧崎が踏み込む。

 白虎は表情を一変させ、腰の軍刀を抜いた。

 その刃は、まるで液体金属のように波打ち、巨大な虎の爪を模した五条の刃へと変化する。


「『西方大爪せいほうたいそう』――!!」


 白虎の咆哮と共に、空間そのものを引き裂く五筋の閃光が霧崎を襲う。

 海軍道路のアスファルトが、巨大な獣に掻き毟られたようにめくれ上がり、周囲の桜の木が瞬時に粉砕される。


 だが、霧崎はその爪の「間」を、まるで風に舞う花びらのようにすり抜けた。

 そして、白虎の胸元に吸い込まれるように接近し、逆手に持ち替えた刀の石突を、男の鳩尾へ叩き込む。


「ぐっ……お、おのれ……!」


「白虎、と言ったか。お前の『ごん』の気は鋭いが、あまりに冷たすぎる。本物の『死』を知らない奴の刃だ」


 霧崎の刀身が、青白い光を放つ。

 これまでのような周囲を凍らせる冷気ではない。光そのものが「凍りついている」かのような、視覚的な静寂。


「――『絶零・一葬ぜつれい・いっそう』」


 霧崎が刀を横一文字に振るった。

 音はなかった。

 ただ、白虎が立っていた場所を中心に、直径五十メートルの円状の空間が、一瞬にして「色彩」を失った。


 白虎の叫びも、彼が操る鋼の糸も、舞い散る桜の花びらも。

 全てが透明な、永遠に解けない氷の中に閉じ込められる。


「……あ……が……」


 白虎は、氷の彫像と化したまま、かろうじて意識だけを保っていた。

 霧崎は彼の横を通り過ぎ、地下駐車場へと続くスロープを見据える。


「次は大宮だ。……そこで待っている『四神』の残り、あるいは議会の長に伝えておけ。関東の夜を終わらせに来た、とな」


 霧崎が指をパチンと鳴らす。

 背後で、巨大な氷の円柱が、白虎ごと音もなく粉々に砕け散った。

 海軍道路には、再び深夜の静寂が訪れる。


 だが、霧崎が地下への階段を降りるその瞬間、彼の背後から、これまでとは異質な「温かい風」が吹いた。

 それは春の訪れなどではない。

 東から昇る、より巨大で、より暴力的な「火」の予兆――。


(続く)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ