### 第6話:軍都の残響、あるいは座間・地下空洞の罠
### 第6話:軍都の残響、あるいは座間・地下空洞の罠
東京と神奈川を分かつ境界線を越え、霧崎は国道246号線へと針路を取った。
この付近、座間から大和にかけての一帯は、かつて日本軍の重要拠点であり、今なお米軍基地や自衛隊駐屯地がひしめく「軍都」の側面を持つ。
地表の喧騒を避けるように、霧崎はキャンプ座間の外縁に位置する、放棄された地下排水路へと足を踏み入れた。コンクリートの巨大な円筒状の空間が、地下深くへと続いている。
「……鼠のように地下を這うのは趣味じゃないが、上(地上)の視線がうるさすぎる」
霧崎が独り言ちた瞬間、暗闇の中から複数のレーザーサイトの紅い光が、彼の胸元に集結した。
「そこまでだ、零番目。ここから先は『日米共同・対超常災害部隊(UASDF)』の管轄区域だ。貴様の通行許可証を確認させてもらおう」
闇の中から現れたのは、強化外骨格に身を包んだ兵士たちだった。
彼らが構えているのは、銃ではない。刀の「柄」からプラズマの刃を形成する、科学と魔術を融合させた近現代の兵装――『電子都刀・プロトタイプ』。
「……準都刀ですらない、ただの模造品か。軍部の適格者研究も、ずいぶんと地に落ちたな」
「模造品かどうか、その肉体で確かめてみるがいい」
先頭の兵士が合図を送ると、後方の重火器担当がグレネードランチャーを放った。
放たれたのは弾丸ではない。対象の周囲の霊子密度を強制的に希薄化させる『真空爆弾』。
――ドォォォォン!!
地下空洞を激しい衝撃波が駆け抜ける。
適格者の能力の源である大気中の霊子を奪うことで、能力の発動を阻害する「対能力者用」の戦術だ。
「……仕留めたか?」
爆煙が晴れる。
そこには、左手を軽く前に突き出した霧崎が、傷一つなく立っていた。
「残念だったな。俺の力は、周囲の霊子を借りるような柔なものじゃない」
霧崎の足元から、地下水が逆流するように立ち昇る。
それは意志を持つ蛇のように兵士たちの足首に絡みつき、強化外骨格の駆動系を瞬時に凍結させた。
「な……駆動系がロックされた!? マイナス100度……いや、もっとか!」
「お前たちが頼っている科学は、分子の運動に基づいている。なら、その運動を止めてしまえば、ただの鉄屑だ」
霧崎が歩み寄る。
兵士たちが必死にプラズマ刃を起動させようとするが、過冷却された空間では放電現象すら維持できない。
「待て! 我々は議会(大宮)の要請で……」
「議会、議会とかしましい。……お前たちの飼い主は、自分たちの手が汚れるのを恐れて、軍(公的機関)を盾にしているだけだ」
霧崎は兵士の一人のバイザーを掴み、強制的に剥ぎ取った。
中にあったのは、恐怖に染まった若い男の顔だ。
「大和の地下に、大宮へ直通する『霊的高速道路』があるはずだ。その入り口を教えろ。さもなくば、この地下空洞ごと、お前たちの墓標にしてやる」
兵士の喉が鳴る。
霧崎の背後に見えるのは、もはや人間ではなく、巨大な吹雪の化身だった。
「……海軍道路の、突き当たり……地下駐車場の三層目だ……。そこに、空間を歪めた『ゲート』がある……」
「いい子だ。……そのまま、朝まで凍っていろ。死にたくなければ、心頭滅却でもすることだな」
霧崎は兵士たちを氷の繭の中に閉じ込めると、地下空洞の奥へと姿を消した。
背後で、完全に氷結した強化外骨格が、軋んだ音を立てて火花を散らしている。
大宮への近道を見つけた霧崎。
だが、彼が向かう「海軍道路」には、大陸から派遣された次なる刺客――『四神』の一角が待ち構えていた。
(続く)




