表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『十二都刀戦(じゅうにととうせん)』  作者: じょんどぅ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

121/130

### 第4話:相模原浄化、あるいは廃墟の支配者

### 第4話:相模原浄化、あるいは廃墟の支配者


 少年の消失と共に、周囲を覆っていた静寂の結界が霧散した。

 再び深夜の国道のノイズが戻ってくる。だが、霧崎の感覚は既に次の「違和感」を捉えていた。


 橋本駅から国道を少し外れた、開発途中の巨大なショッピングモール跡地。

 建設途中で放棄された鉄骨の群れが、月光を浴びて巨大な肋骨のように夜空を突いている。その中心部、不自然なほどの濃霧が渦巻いていた。


「……罠を張るなら、もう少し場所を選ぶべきだったな」


 霧崎は迷うことなく、その「廃墟」の門をくぐった。

 途端、背後の門が錆びた音を立てて閉ざされる。霧の中から現れたのは、先ほどの少年のような未熟者ではない。軍用タクティカルベストを身に纏い、顔を髑髏のマスクで覆った五人の男たち――「守護職」の私設実行部隊だ。


「零番目。ここが貴様の墓場だ」


 中央の男が低く命じると、五人は一斉に懐から「試験管」を取り出し、中にある青い液体を自身の準都刀へと振りかけた。


「――『過剰共鳴オーバー・ブースト』」


 液体を浴びた刀身が、狂ったように発光し、脈動を始める。

 本来、人間が制御できる限界を超えた霊力を強制的に引き出す禁忌の術式。男たちの眼球は充血し、全身の血管が浮き上がる。


「薬物による強制強化か。……いよいよ、なりふり構わなくなってきたな」


 五人の影が、同時に霧崎へ襲いかかる。

 一人は頭上から鉄骨を飛び移りながらの強襲。二人は左右からの挟撃。残る二人は後方で術式を展開し、霧崎の逃げ場を炎の結界で塞ぐ。


 だが、霧崎は抜刀すらしない。


「『温度』を奪われる恐怖を、まだ理解していないようだな」


 霧崎が地面を一歩、強く踏みしめる。

 それだけで、廃墟の広場に張り巡らされていた水溜りが一瞬で凍りつき、鏡のような床へと変貌した。

 加速して突っ込んできた男たちの足元が狂う。そのわずかな隙を、霧崎は見逃さない。


「――氷華ひょうか・一閃」


 瞬きよりも短い間に、銀光が走った。

 霧崎は既に、五人の男たちの中心を通り抜け、背を向けて刀を鞘に収めている。


 ――カチリ、と硬質な音が響く。


 次の瞬間、空中で制止していた男たちの首から上が、白い粉となって弾け飛んだ。

 過剰共鳴で熱を帯びていた彼らの肉体は、霧崎の極低温の刃に触れた瞬間、激しい熱膨張と収縮に耐えきれず、分子レベルで崩壊したのだ。


「ぐ、あああぁぁ!!」


 唯一、後方にいたリーダー格の男だけが、左腕を氷像に変えながらも生き残っていた。彼は震える手で無線機を掴もうとするが、霧崎の影が彼の視界を覆う。


「……大宮の『議会』に伝えろ」


 霧崎は男の首筋に手を添えた。

 冷たさが、男の骨の髄まで浸透していく。


「16号線の南側は、既に俺が『浄化』した。これ以上、東京の境界を汚すなら、次は大宮を氷河期に変えるとな」


「……ま、待て……! 我々の後ろには……大陸の『四神ししん』の一柱が……あ……」


 男の言葉は、肺が凍りついたことで途絶えた。

 霧崎が手を離すと、男は直立したまま静かに砕け、廃墟のコンクリートに吸い込まれていった。


 霧崎は、男が落とした無線機を拾い上げる。

 そこからは、ノイズに混じって不気味な女の声が流れていた。


『――いいわよ、零番目。そのまま北へ来なさい。埼玉の霊脈は、既に私たちが「龍の胃袋」に変換してあるわ。あなたが来る頃には、東日本全域が私たちの苗床になっているでしょうけどね』


「苗床か。……なら、その芽が出る前に、全て凍土に埋めてやる」


 無線機を握りつぶし、霧崎は再び歩き出す。

 夜明けはまだ遠い。

 だが、相模原の廃墟を後にした彼の背中には、関東の冬よりも鋭い殺気が渦巻いていた。


(続く)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ