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星の降る夜に、僕は何を願うのだろうか  作者: 大澤陸斗
星の降る夜に僕は何を願うのだろうか・下(少年編)
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第七章「願いごと」2

「ラッカルに着きましたよ」


 スバルに起こされて僕は目を覚ました。


 外はすっかり夜になってしまっていた。僕、リオラ、エミリーは馬車の中で眠りこけていたのだ。


 外に出てすうっと空気を吸う。嗅ぎ慣れない湿った土の匂いが鼻の奥をくすぶった。


 周りを見渡すと、王都にしてはやけに庶民的な建物が多いなと感じた。


 大きな建物がほとんどない。二階以上の高さのある建物なんて、手の指で数えられるくらいしかないのだ。いや、意図的にそうしているのかもしれない。


「サンドリアほど見栄えのいい建物はないでしょう。仕方ないのです。ヨサ王国のほとんどの建材が木なので、あまり高い建物を建ててしまうと、火事が起こった時、周りの建物を崩せず、火が止まらなくなってしまうのです」


 よく見ると、建物は区枠に分けられているようだ。火が隣の区画に移らないように道が広くとられている。火災時の被害を拡大させない工夫なのだろう。


「ここから一つだけ大きな建物が見えるでしょ。あれが王城です。あそこだけは石材を大量に使用しているんです。あそこが焼けてしまっては大変ですから」


 エミリーもリオラも興味津々に周りの建物を見回す。初めての異国となれば無理もないだろう。


「では女性お二方はしばしの間、自由行動です。衛兵をおつけしますので自由に街を散策してください」


「え!? ラルフは……?」


 リオラが心配そうにスバルに訊いた。


「残念ながら王に呼ばれておりますうえ、しばらくは別行動です。おそらく晩食の時間までに合流できますので」


「そっか。じゃあリオラ、二人で楽しもっか」


 エミリーが残念そうに俯くリオラの手を引く。二人は街の奥の方へと歩いていった。その後ろを衛兵二人がついて歩いて行く。


 今見えるだけでも、いろいろな食べ物屋や服を売る店があるようだ。人がいて賑やかだし、二人が退屈することはないだろう。


「ありがとうな、スバル」


「何をおっしゃっているのです?」


「いや、あの二人を自由にしてくれて。あの二人をロドリゲスのいざこざに巻き込みたくないんだ。嫌な話なんか聞くのは僕一人で十分」


「何をおっしゃるのですか。王がお話になるのはそんなことではありませぬ。ゼルフを向かい撃つため、対策を練るために……」


「わかった。そういうことにしておくよ」





 


 城に着き、すぐさま僕は王室に通された。


 王室の前には衛兵が待機していて、僕らが近づくと扉を開けてくれた。金色の装飾が施された華やかな玉座に王は座っていた。自国の王に関しては目に触れたこともないが、ヨサの王はかなり若く見える。顎全体に黒髭を蓄え、目元には少し小皺こじわがある。年齢は四十くらいだろうか。力強く凛とした目が印象的だ。


 僕はゆっくりと近づく。


 玉座手前の階段前までくると、片膝をつき頭を下げる。


「よくここまで来てくれた。ラルフよ。陸路からロタム山脈を超えて来たとなれば相当疲れておるだろう」


「いいえ。国王様。私は兵士として鍛えられております。その程度では疲弊しません」


「うむ。若い分、威勢はいいな。だが、貴殿は魔力が弱まっておる。今の段階では全盛期の半分も力を出せないのではないか?」


 僕はその場で息を呑むことしかできなかった。この男には全てを見透かされている。


「図星のようだな。それでは待ち受ける戦いに対応できないだろう。兵は幾つぐらい欲しい?」


 自分の力をどうせこの程度だろうと非難されているみたいな気がした。思わず僕は煽るような問いを返す。


「この国の兵はディアトロスとまともに戦えるのですか?」


「ヨサ王国では星の子の血を薄めないための政策を何代も前から行っている。其方らの魔法兵とは比べ物にならないくらい使える。ディアトロスだって倒せるだろう」


「では聖魔道士ならどうでしょうか?」


 訊いた途端、ヨサ王が押し黙る。流石に王国最強の魔法使いの称号が与えられる聖魔道士の力は計り知れない部分があるのだろう。


「では必要な兵は百といったところでしょう」


「百? たった一人の男を殺すのに兵が百人も必要だというのか?」


「ゼルフは何をしてくるのかわかりません。ディアトロスを何体も呼び寄せ、さらに自身もディアトロスになる可能性も秘めております。百でも足りないくらいです」


「しかし、百の魔法兵となると……」


「わかっております。国の兵力を大きく占める魔法兵が百人も王都を離れるとなると防衛に支障が出ます。


 しかし、テトフス帝国は我が国との戦争で敗戦したばかりです。こちら側に攻めてくる余裕などありません。他の周辺諸国は小国ばかりですし、心配に及ばないかと」


「わかった。なるべく集めよう。こちらの準備が出来次第、星見の台座に出発する。出発の刻は決まり次第伝えよう。それまで自由に過ごすと良い。心を安らかにしておけば来たる試練にも立ち向かえるだろう」


「この街は安全なのでしょうか」


「この街には強力な結界が張ってある。魔物がこの街で出現したことは有史以来一度だってないのだ。万が一結界を破られたとしても、そのときは衛兵が気がつけるようになっている。無警戒のところをいきなり襲われるという事態にはなり得ぬ」


「わかりました。お言葉に甘え、此処にとどまるうちは気を休めることにします。では、これで失礼いたします」


 僕は王室を出た。







 王室の外ではスバルが待機していた。来た廊下を通って庭園に出て城門をくぐると街の繁華街の方へ歩く。


 バーバスカムとは違って空気が生暖かい気がする。もう、ひと月もしないうちに冬が来るというのにその兆しを全く感じさせない。


「待ち合わせ場所は決まっているのか」


「はい。あなた方にはヨサ王国の料理を堪能していただきたいので、一番の腕利きの食事処を用意しております」


「そうか…………」


「暗い面持ちですな」


「…………わかるか?」


「ええ」


 この国の人たちには、簡単に見透かされるな。僕は自嘲する。


「あと、十日もしないうちに星滅の日が来るんだ。あの二人がいないところでは、許してくれ」


「随分と鬱屈としているのですね。でも気を付けてください。そういう時は自分でもわからないうちに表情に出てしまうものです」


 スバルの指摘は正しかった。でも、だからこそ腹が立った。僕は声を荒げてしまった。


「じゃあ、どうしろっていうのだ。愛する人がもうすぐ逝ってしまうというのに、どうやったら笑顔になれるっていうんだ」


 男は柔らかな笑顔を見せ応える。


「ラルフ様の人生は星滅の日が過ぎても続いていきます。そうなるように、リオラ様は星の子としての使命を全うしようとしているのです。なのに、ラルフ様がずっと暗い面持ちでいたら、リオラ様はどう思われるでしょうか?」


「簡単に言ってくれるな」


「ええ簡単です。ただ笑えばいいのですから。笑うことに犠牲は伴いません」


「それが難しいと言っている」


「それなら残された日々を慈しんでください。リオラ様のために。そうすれば、きっと後悔なく旅立てると思いますよ」


 勝手なことを言わないで欲しい。当事者ではないからそんなことが言えるんだ。


 でも、リオラに尽くしたいとも思っている。彼女の最後を悲しみに染めてはいけないとも。だから、苦しい。どうしようもなく胸が締め付けられた。




 僕は表情をより暗くしてしまっていたと思う。繁華街のにぎやかさが耳障りな気がした。するとジョセフが突然、上を見上げて止まった。


 「ラルフ様、上をご覧ください」


 言われた通り僕は空を見た。すっかり暗くなった夜空には星々が煌めき、月が控えめにも僕らを優しく照らしている。そして、うっすらと白い帯が見えていた。


「もう、尾が見えてますね。これからさらに、はっきり見えるようになるでしょう」


「ねえ、あれなあに?」


 突然の子供の声に僕はふりむいた。歳七つくらいの男の子が彗星の方を真っ直ぐ指差していた。そばにいる母親と思しき女性がその子に対して優しく答える。


「箒星っていうのよ。あの光、箒に見えるでしょ」


「本当だ。箒みたいだ」


 僕も此処に住む子供だったらあんなふうに嬉しそうに空を見上げるのだろうか。今まで全く知らなかった——、知ることも見ることすら叶わなかった不思議な現象を自分の目で見て、心を躍らせるのだろうか。


 僕がうつむき考え込んでいるとスバルが話しかけてくる。


「ラルフ様は、なぜ星の子が命を落とさなければいけないのだと思いますか?」


「いったいどういう意味だ」


「神様は星の子に彗星を破壊する力を与えています。ですが、疑問に思いませんか。そんな能力あたえるのなら自分で彗星を破壊すれば良いのです。全知全能の神ならばわざわざ星の子の命を奪う必要なんてありません」


 そうかもしれないな……、という言葉が口から漏れた。だけど、僕には存在すら怪しい神様について真面目に考えることなんてできない。だけど、スバルは真剣に考えているのだ。きっとこの男は自分の頭に湧いた疑問を取り払うまで考えることをやめないのだろう。


 スバルは僕がだまりこくったのを見て、勝手に語りだす。


「これは私の勝手な見解ですが、星の子は、この星を浄化するためにいるのだと思います。


 だって、この世の奇跡を目の当たりにして争いをしようなんて思いますか?


 私はそんなくだらない争いなんてしようとは思えないでしょう。たとえ国が飢饉に見舞われていたとしても、私だったら目の前の奇跡に心を躍らせてしまうと思います」


 そう笑うスバルの顔は子供のように無邪気に見えた。この男もまたあの彗星という脅威に心を躍らせているのだろう。でも、それが自然なのかもしれない。当事者でない人間がこの美しい箒星のせいで誰が苦しみ、悲しむのか。そんなこと知ったことではないのだ。


 だからこの男は、この一連の出来事で失うことよりも、民衆に何を与えられるのかを考えた方が気が楽だと言っているのだ。


 スバルは上に向けていた顔をこちらに向け付け足す。


「そう考えたら少しは前向きになれるのではありませんか?」


「なかなか無茶を言うな」


「ええ。無茶ですとも。ですが、リオラ様は、あなたには前向きでいて欲しいはずです。星滅の日までも、その先もずっと」


 そうだな。確かにリオラならそう思っていてもおかしくないだろう。だけど、今の僕にはやっぱり無茶な話だ。

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