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星の降る夜に、僕は何を願うのだろうか  作者: 大澤陸斗
星の降る夜に僕は何を願うのだろうか・下(少年編)
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第七章「願いごと」3

「やっときた。ラルフ、こっちこっち」


 エミリーが僕に向かって手を招く。僕はさっきまでの曇り顔を無理やり笑顔に変えて向かった。


「ごめん。遅くなった」


 僕は辺りを見回した。リオラの姿が見えないのだが。どこにいるのだろう。


「リオラは?」


 エミリーがこっち、と言って自分の後ろを指差す。彼女の後ろを覗き込むと背中に一生懸命隠れようとしているリオラがいた。しかも頭を布で覆っている。


「何してんだ。リオラ」


 リオラはチラリチラリとこちらを見ては恥ずかしげに顔をエミリーの背中に押し付ける。


「ほら、早く出てきて、ラルフに見せなさいよ」


 エミリーが横にどいて、リオラのかぶっていた布をバット素早くとる。リオラは身を隠すものを失い慌てて頭を手で隠そうとする。しかし、そのほとんどが隠せてない。


 どうやらどこかの店で髪を切ってもらったらしい。


 だいぶ短く切ってもらったみたいだ。伸びっぱなしだった時よりも清潔感が増して見える。腰の辺りまで伸びていた後ろ髪は肩よりも上のところで切り揃えられ、顎の前まで垂れていた前髪は、目にかからない程度にまで短くなっていた。


「変じゃない?」


 震える声で訊いてくる。


「別に変じゃないと思うけど」


 むしろ可愛いくらいだ。


「だから言ったじゃない。大丈夫だって」


「だって、こんな短くしたの、初めてなんだもん」


「もう、このくらい短い方がリオラは可愛いのよ。ほら、横の髪を耳にかけて、髪留めでとめてっと……。ねえ、ラルフ。リオラ可愛いでしょう」


 リオラがこっちに向く。その瞬間、僕の心は高揚した。


 だって、今まで見たことがないくらいリオラが可憐に見えてしまったのだから。


 僕は、心臓が高鳴り声が揺らぎそうになるのをなんとか抑え、言葉を絞り出す。


「……ああ、すごく可愛いよ。今まで出会った誰よりも可愛い」


 とびきりの笑顔を見せるリオラ。今までで一番明るい、心からの笑顔だったのだろう。


 僕も自然と笑顔になる。お互いが自然と引き寄せられそっと抱きあった。


 喜び合っているとそこへ申し訳なさそうにスバルが話しかけてくる。


「あの……、ラルフ様……」


「ああ、すまない。案内をしてくれ」


「では、ご案内いたします。今宵の晩餐は舌が唸りますぞ」


 スバルが案内したお店の料理は本当に舌が唸るほど美味かった。


 肉と野菜の餡を小麦の皮で包み蒸したもの。卵とネギの入った香り高い焼き飯。 収穫祭の時に食べたコルシャも出された。


 柔らかな肉の塊を幸せそうに頬張るリオラを見ていると、嬉しさが込み上げてきて、なぜだか肩の荷が少しだけ降りた気がした。


 


 出発までの期間、僕らは街で精一杯楽しんだ。旅人が唄う民衆に向けて綴った詩を聞いたり、魔法を使った大迫力の芸を見たり、劇を見たり。たくさんの時間を彼女と一緒に過ごした。


 ある時、茶屋の長椅子で休憩を取っていると隣に座るリオラが話しかけてきた。


「ねえ、ラルフ。私ね。最後の時は笑顔で見送ってほしいな。別れは辛くない。ちゃんと理由のある別れだから。…………だからお願いね」


「わかったよ。約束する」


 胸の内に悲しみがじんわりとにじみ出てくる。僕はリオラの手に自分のを重ねた。彼女もそれに応えるように肩を少しだけ寄せた。


 





 出発の知らせが届いたのは王都ラッカルに到着してから一週間がたった頃だった。その時には彗星もはっきりと見えるようになり、月よりも明るく夜の街を照らすようになっていた。


 魔道士たちが言うにはもう三日もしないうちに衝突ということらしい。翌朝、隊をつくり出発するという知らせを、僕はスバルから聞いた。


 いよいよ正念場だというのに僕はまだ腹を括れていなかった。


 リオラを失いたくないという思いが日に日に増している。そのせいで僕は気が狂いそうだったのだ。


 リオラを星見の台座に連れて行かなかったら彗星の衝突でみんな死ぬ。どうせ死ぬならリオラの犠牲だけで済む方がいいに決まっているのに、僕はその選択を素直に受け入れることができずにいた。


 当然だ。星が降る降らないに関わらず、大切な人を失いたくないという気持ちは万人に共通するはずだ。


「こいつが降ってこなければ、リオラは生きられるのにな」


 夜。一人宿場の客室から彗星を眺めていた。三人で浴場に向かったが、エミリーとリオラがなかなか出てこなかったので、リオラにテレパシーを飛ばして先に帰ってきたのだ。


 一人静かに考え込む時間なんてリオラが眠っている間にいくらでもあったはずなのに、今の僕には時間が足りない。


 何か物にあたればこのどうしようもなく込み上げてくる思いは、消えてくれるだろうか。もし、そうなら僕は間違いなくそうしただろう。


 でも、理性がそうさせてくれない。代わりに僕は壁を軽く殴る程度に止めた。軽く当てたはずなのに拳が痛い。そして、勝手に湧いてくる感情は収まらなかった。


 こんな自傷行為、まったく意味がない。


 その事実を突きつけられているみたいで虚しさが込み上げてくる。


「ラルフは私にいなくなって欲しくないんだね」


 いつの間にか部屋の扉が開いていて、リオラがそこにいた。


「当たり前だろ。僕はどれだけリオラに救われたか」


「ありがとう。そのことが聞けただけで十分だよ」


 僕は何もかもが虚しくなってベッドに腰掛ける。


「どうせもう、僕が何を願おうとしているのかわかっているんだろ?」


 リオラは近寄ると、僕を抱きしめ静かに頷いた。


「なあ、神様は許してくれるかな?」


「それはわからないよ。もう、リュザクはいない。私が未来を見ることができたのはリュザクが私に見せてくれたおかげなの。だからどうなるかなんてわからない。


 私を蘇らせてもその後に何が起こるかなんて、もう誰にもわからない。もしかしたら運命は変わらないかもしれないし、余計ひどい未来を引き寄せるかもしれない。


 だから、どんなことが起こっても後悔しないっていうならそのお願いをすればいいと思う」


 星の子の存在は世界に大きく影響を及ぼす。一千年前、星の子に子供ができその後、魔法によって国が急速に発展した。その後で、魔法大戦のような大きな戦争も起こった。つまり、その選択でガラッと未来が大きく変わってしまったのだ。


 僕がもし、リオラの生存を願えば、世界にまったく想定できない変化をもたらす可能性だってある。それは身近な人が死んでしまう未来かもしれない。


 だからといってリオラに死んでほしくない。もしかしたらリオラが生き残っても、何も変化がないのかもしれない。そもそも、神様は星の子の生存を許してくれるのかもわからない。


 もう時が止まって欲しかった。


 僕の目からこぼれた雫がリオラの服の肩の辺りを濡らした。それなのに、リオラは嫌がることなく僕を抱きしめ、頭を撫でてくれた。



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