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星の降る夜に、僕は何を願うのだろうか  作者: 大澤陸斗
星の降る夜に僕は何を願うのだろうか・下(少年編)
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第七章「願いごと」1

 ロタ山脈を越えてから、僕らがヨサ王国の最初の町に着くのに半日もかからなかった。最初の町は、山のふもとの小さな町で落ち着きがあった。その街の衛兵に取り合ってもらい至急王都へ遣いを送ってもらえた。王都の兵隊が迎えに来たのはその翌日の朝だった。


 護送用の馬車に揺られながら僕は窓の外を眺め考え事をしていた。


 今乗っている馬車は客室付きの大きな馬車だ。下等の身分の人間が乗れるようなものではない。二人掛けの椅子が前後に向かい合うように設置され、四人が座れるようになっている。


 座面には綿がぎっしりと詰められ、底板の感触が全く感じられなかった。


 窓にはガラスがはめられ、その手前には陽の光を和らげる薄い布がかけられている。


 あまりに手厚すぎるもてなしだと思った。


 それはヨサ人から待遇されているという証拠でもある。ここがバーバスカムならこれほど接待されることはないだろう。


 突然、押しかけたというのに、すぐに遣いを出してくれた。しかも王に向けて。他の国ならこんなことあり得ない。これが長い年月をかけて友好関係を築いてきた証なのだろうか。


 だが、十五歳になった僕はもう知っている。およそ八百年前に起こったことを。


 テトフス帝国を舞台にしたバーバスカム王国対ヨサ王国の魔法大戦が起こったのだ。両國とも国土の約半分ほどが焼かれた。元の状態になるまで何十年とかかったという。しかし、それ以上にテトフス帝国の被害の方が大きかったという。


 その戦争を招いたのは、言うまでもなくゼルフィーだろう。


 ゼルフィーがなぜ、あんな戦争を起こしたのか僕にはわからない。


 もしかしたら星見の台座を手中に収めたかったのかもしれないし、ただ単にバーバスカムを大国にしたかったのかもしれない。いくら考えたってわかるわけがなかった。


「しかし、バーバスカムのロドリゲス家がまだ残っていたとは驚きですな」


 向かいに座る付人のスバルが言った。初老を迎えるくらいの年齢に見えるが、きっちりと整えられた髭と丸い眼鏡から勤勉さが見て取れる。


「それだけの罪を犯したのですか……。ロドリゲス家は」


「ええ。あなた方の国でどういうふうに歴史を教えているのか知りませぬが」


「もしかして僕の家の家紋が蛇の尻尾を持つ獅子である理由も知っているのですか」


「存じています」


「教えていただけませんか」


 スバルは一つ深く息をついた。


「こっちの歴史書では、ゼルフは三カ国の国の発展を遅らせるために戦争を仕掛けたと供述したと書かれています。五十年にも渡る戦争は三カ国それぞれの国土を破壊し、土壌を汚染しました。戦争による犠牲者もさることながら、飢餓によっても多くの人が亡くなりました。あまりに大きすぎる犠牲でした。あの戦争がなければ、我々は蒸気機関をとっくに手に入れ、空を飛ぶ乗り物さえ手に入れていたと言われています」


「待ってくれ。それはあと一千年ほどかかる技術ではないのか」


「はい。普通に時代が移り変わればそうなのでしょう。ただ、我が国には未来書というものがあります。もとよりロドリゲスは未来視ができる一族でした。今はその力を発現することはできませぬが、その力で急速に国を発展させて来たのも事実。魔法によって城を築き、街を築き、水不足解消のためダムを築き短期間でバーバスカム王国は大国となった。 


 そして、近隣のテトフス帝国もヨサ王国も、それぞれの資源を提供する代わりに魔法を使える人物を派遣してもらい国の発展に役立てた。そうやって三カ国はあまり時間をかけずに大国になったのです。国と呼べない村の集まりからたった二十年で現在のような発展をとげたと言います」


「それだけの速度で国が発展すれば人の数の増加も莫迦にならない。次の星滅の厄災が来る時に星の子及び、その見送り人を探し出すのが困難になってしまうとゼルフは考えた」


 僕が頭の中で思ったことを口にすると、スバルは頷く。


「そういうことです。あの大戦がなければ現代の人口は三カ国それぞれ現在の百倍以上にもなっていたと言われています」


「百倍!? つまり、ゼルフが魔法大戦を起こさなければそれぞれの国が一億人を超える民を抱えていたと……」


「はい。いくら魔法が使えるとはいえ、その人数から星の子を探すことは困難です。だからこそ、独裁王として君臨していたゼルフは、それぞれの国の破壊のために大戦を起こした。それは民を裏切る行為です。王の象徴である獅子に裏切りの象徴である蛇。裏切りの王の一族という印があなた様の家紋なのです」


「魔法大戦後、テトフスは魔法を放棄した。それは大きすぎる争いの火種になるからでした。しかし、ヨサ、バーバスカムの両国は、ゼルフが大戦で死ななかったことを危惧して魔法を捨てなかったのです。


 あの悪魔はどこかで必ず生き残っている。次の星滅の日に必ず災いをもたらす。その悪魔を止めるために我が国は準備して来たのです」


 スバルの話が終わると隣に座るリオラがコテっと僕の肩にもたれた。目を瞑っていて穏やかな寝息をたてる。


「退屈な歴史の話で眠くなってしまったのですな。王都まではまだ時間がかかります。どうぞ、ゆっくりとお休みさせてあげてください」


 リオラの向かいに座るエミリーはカーテンを開けて、窓の外をぶっきらぼうに眺めていた。やけに機嫌が悪そうだ。


 僕も窓の外を眺める。外は森だ。大きく切り開かれた道なので、明るくて見晴らしはそれなりによかった。


 奥の方の木々の上に枝々を渡り歩く人の姿が目に映った。


「スバル。風渡も派遣しているのか」


「ええ、警備は徹底しております」


 警戒のための風渡。王の護衛でしか使わないと聞いていたが、まさかここで使ってくるとは……。それだけヨサ王国がゼルフィーのことを脅威だと認識しているということなのか。


 風渡というのは、森の中で偵察をこなす特殊訓練をした兵だ。木々の上を風のように渡る姿からその名がつけられた。風渡は一隊十人ほどで形成され、辺りに離散する。全員がテレパシーを使え連絡を取り合いながら警備網を作るのだ。


「ちなみにあとどれだけの護衛がいる」


「ウィザードが五十ほど」


 魔法兵が五十。大抵の魔物は駆逐できる人数だ。


「これでも足りないくらいなのですがね。ゼルフは底知れぬ魔力を秘めておりますゆえ」


「いや。こちらが警戒しなくていいのは助かる。感謝するよ」


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