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星の降る夜に、僕は何を願うのだろうか  作者: 大澤陸斗
星の降る夜に僕は何を願うのだろうか・上(幼少編)
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第三章「見送り人」5

 朝食の時間、僕は今まで生きてきた中で一度もしたことがないくらいの大あくびをした。


「ふぁ〜……」


「すごく眠たそうだね」


 いつの間にか、僕の前の席が特等席になっているエミリーは、怪訝そうな目をして言った。


「昨日、テレパシーを使って遅くまでリオラと話しちゃったんだよね」


 そう言うと、エミリーが訝しげに僕を睨む。


「あんた、まさかそのために私で練習してたんじゃないでしょうね」


「そのまさかだよ。おかげでうまくいったよ」


「あんた、貸しにしといてあげるから絶対に返しなさいよ」


「もちろんそうするつもりさ」


 僕が野菜と豆のスープを食べ終えて、食器を持って立とうとしたとき使用人の一人が僕に近づいてくる。


「ラルフ・ロドリゲス。頼みたい仕事がある。食後に正門まで来てくれ」


「僕、今日非番ですけど?」


「どこかのタイミングで埋め合わせはする。報奨金も出るから頼まれなさい」


「まあいいですけど……」


(頼みたいことってなんだろう……?)と思いつつも、僕は言われた通り、正門へ向かった。行くと、門の片隅にシャベルとバケツを持った老人が立っている。顎に白髭を蓄え髪も白髪まじりでところどころ毛量も薄くなっていた。その老人は、僕の姿を見ると歩み寄ってくる。


「君がラルフかい」


「はい、そうですけど」


「ついて来なさい」


 老人は僕に背を向け門の方へ歩き出した。内門を潜ると跳ね橋を渡り外門も潜るのかと思いきや、脇に外れ、外門側の彫りの縁を歩き始める。城壁と堀との間には僅かに平らな面があるが、その幅はひと一人分もない。堀の底へ落ちたらと思うとゾッとして足がすくんだ。


「体の向きを横にしろ。両手で壁に手をついて足で体を壁側に押しながら進め」


「はい……」


 僕は力のない声で返事をし、言われた通り、足で体を壁に押し付けるように進んだ。


 しばらく震える足をなんとか動かして老人についていくと、下へ続く階段が見えてくる。階段は岩壁を削ってできたみたいで、落ちないように反対側にも壁があった。なんともありがたい造りだ。


 その階段を降りていくと、申し訳程度に岸が迫り出している場所につく。どうやら目的の場所らしい。階段を全て降りると老人は口を開いた。


「ついたぞ」


「はあ……、ここで何を?」


「堀の水替えだ。ずっと溜めておくと腐って匂いの素になるからな。年に一回水を抜くんだよ」


「普通に抜くんじゃダメなんですか? ここ下水通ってますよね?」


「そうだ。だが、排水口付近には泥が溜まっている。そのまま蓋を開けても水は流れんし、下水が詰まるかもしれないからな、事前に泥を取り除く必要がある」


 事前に取り除くという言葉にまさかと思いながらも、僕は老人に尋ねる。


「えっと……、どうやってですか?」


 老人はシャベルと桶を僕に渡し、にやりと笑った。


「潜ってただ掘る。君は魔法が使えるから、水中でも呼吸ができるし、視界も確保できるだろ?」


 そういうことだったのか——。この老人は僕が魔法を使えることを知っていてそれで依頼をしたのだ。


 確かに空気の層を体の周りに発生させれば水中でも呼吸はできるし掘ることも可能だ。けれど、水質は最悪。濁ってるし、繁茂してるし、変な匂いもする。


「報奨金はどのくらいですか?」


 僕が聞くと、老人は不適にも笑顔になる。


「通常の金額に紹介料を抜いても君の給与の半年分くらいは出るぞ」


「半年分⁉」


 僕らの一日の報酬は銀貨三枚。それが半年分となると、五〇〇枚はかるくこえる。金貨一枚当たりの価値は銀貨一〇〇枚と同じくらいだから、金貨五枚はくだらない。


 五枚の金貨が自分の手の中にある情景を頭に思い浮かべてしまう。勝手に頬が吊り上がってしまった。


「わかりました。やります」


 僕は岸辺に近づくと桶とシャベルを置く。縁に腰掛け、足だけを入水させると、近くにある空気を動かし、風を起こす。旋風のように回転させ、それを頭からかぶるように纏うと、僕は意を決して水の中へ降りた。


 堀は思っていた以上に深く、頭までもがすっぽりと水面下に収る。風にのって漂う生臭い匂いが異常に不快で僕は鼻を手で覆った。


 僕は岸に近づき、手探りでシャベルと桶を水中に引き入れ、作業を開始する。


 濁った水の中を堀の外側へ進むと、金属の板が地面から飛び出ているのが見えた。そこの手前にシャベルを差し込み、泥を掘り返していく。掘った泥は桶に入れ、上で見ている老人に手渡す。少しすると空になった桶が返ってきて、そこへまた泥を入れる。


 排水口は相当大きいらしく、金属製の蓋は幅だけでも僕の身長と同じくらいはあった。作業は午前中だけでは終わらず、昼休憩を挟んで夕方まで続いた。


 作業がおおかた終わって僕は岸に上がった。老人は水面に手をかざし、黙り込む。どうやらこの老人も魔法が使えるらしい。探りが終わったのか老人は口を開いた。


「このくらいどければ水を抜けるだろう。もう戻っていいぞ」


 と、お前など用済みだと言わんばかりの口調で言われ、僕は来た道を戻り始める。


 岩の階段を登り、橋を渡って城内に戻ると、どっと疲れを感じた。力仕事をしたこともそうだろうが、魔法を使いすぎたのか頭の奥がズキーンと痛んだ。


 その後、湯浴みをした時も、頭が痛く意識がぼうっとした感じがした。いつもはスッキリ、さっぱりするのに、その後の晩食中のエミリーとの会話も全く覚えていない。


 晩食を終え、僕は自室に戻るとベッドに倒れ込んだ。モゾモゾと枕を求めて這いずりまわり、寝る体勢になるとベッドに吸い込まれるように眠った。

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