第七十四話 帰路にて
遂に魔王を討伐し、魔界の平定に努める為、俺達は一路ティタニス侯爵領へと移動し、そこでヴァル、バモスさん、ジュリア嬢達を降ろす。グラニート・ティタニス侯爵、ザイン・フィルブレイズ伯爵と、魔界の今後に付いて協議を重ねるとの事だ。
戦闘により、ティタニス侯爵領の備蓄食料等も少なくなっているそうなので、先にヴァルと話していた通り、クラーケンのゲソの切り身を置いて行く事にした。約半分程度は収納から減ったが、それでも未だに大量である。
「本当に、世話になった……一刻も早く魔界を平定し、改めて人界との和平交渉に臨みたいと思う」
「ああ。俺も魔界との窓口となる為、世界に働き掛けるよ。改めて、お疲れ様。今度は二人だけで、酒でも酌み交わそうぜ」
俺達は人界へ戻る為、転移門へと移動する。別れ際に、ヴァーミリオン公爵と、今一度強く握手を交わす。人魔の未来を願い、ヴァルを始めとする、ティタニス侯爵領の人民に見送られながら、戦艦ヤエザクラは大海原へと繰り出した。
「……これで、無益な争いも無くなると思う。さて、ここからが大変だぞ。安芸、ノーラ、また書類漬けの日々になるぜ、覚悟しとけよ?」
「ふふ、そうだね。でも、私は兄さんが傍にいてくれるなら何でもいいよ」
「あ、アキさんずるい! 私だって、同じ位一緒に居たいです……」
そんな二人の嫁を、俺は両腕でがっしりと抱き止める。二人とも笑顔で、本当に嬉しそうで良かった。長く苦しい戦いだったが、これで平和の第一歩を踏み出せたと思うと、正直感慨深いものだ。
「こほん」
と、咳払いをするヤエ。俺達の夫婦漫才、と言うか惚気を見てついついと言う感じだろう。だが、これは非常に重要な案件である。それは、あの戦いで救い出した、魔王被害者の女性達の事だ。
「失礼。改めて自己紹介をして置く。精霊首都シンフォニア、国主。サクラユウキ。異世界人にして、神の使徒、兼勇者。面倒な肩書だが、気軽にユウキと呼んでくれて良い」
そう言ってこの戦艦ヤエザクラに備えられる、会議室に着席する六名の女性へと視線を移す。彼女らは、人界、天界と言った場所から、無理やり魔界へと拉致された為、俺達の帰還に合わせて付いて来る事となって居る。
「この度は、本当に感謝の意しか御座いません。ハイエルフ国、第一王女。ミスティスと申します。もしも、ユウキ様達が来られなかったらと思うと、今でも震えが止まりません。新緑の姫騎士と呼ばれた私が、情けない事です」
俺の自己紹介に対し、初めに応じてくれたのが、ハイエルフ族の美女、ミスティス嬢。実を言うと半信半疑ではあるが、ノーラの鑑定の結果間違いなくハイエルフ国の第一王女だと確認が取れた。
と言うのも、ハイエルフの国。これは実在するのかすら怪しいと思われている。文献上には確かに存在する。と言う記述はあるが、少なくとも地図等にハイエルフの国は乗って居ないし、辿り着いたという証言も殆ど見受けられないのである。
「……次は、私? えーっと、天使族で、名前はラファエルって言うの。かの四大天使、ラファエル様と同じ名前を貰ったけど、名前負けしちゃってるよね。ラフィって呼んでくれたら嬉しいな! よろしくね、おにいちゃん、おねえちゃん達!」
ミスティス嬢との会話が終わると、次に名乗りを上げてくれたのが、背中に可愛らしい天使の羽を備えた女の子。あんな状況であったにも拘らず、明るく振る舞ってくれる少女。天使でラファエルと言えば、俺でも知っている有名処の一角。辛かったろうに、撫でてあげたい。こう、物凄い庇護欲に駆られる少女だと思う。
「次は私だな。竜人族、族長の娘。名をティナと言う。この度は迷惑を掛けた。どの様なお礼をしたらいいか、皆目見当も付かず……済まない、口下手で」
ラフィに続いて話してくれたのは、竜人族で、族長の娘であるティナ嬢。人竜一体となったカズヤ君よりも、よりドラゴンらしい風格を備える長身の美人さんである。何と言うか、武人の様な佇まい、歴戦の猛者的な印象を覚える。
「あ、あの……この度は、本当にありがとう御座いました。狐獣人のサクヤと言います。こっちは幼馴染で、狼獣人のミリアって言います。ほら、ミリアもお礼を言わないと!」
「……感謝、します。この、ご恩は……我が身を差し出してでも、お返ししたいと、考えて居ます」
そんな話をする狐獣人のサクヤ嬢と、狼獣人のミリア嬢。と言うか話が変な方向に行きつつあるので、咄嗟に俺は否定の意を述べる。
「待て待て、そんな重苦しい事言うんじゃない! と、ともかく無事で良かったよ。まぁ、感謝はこっちの、上位僧侶カエデさんに言ってくれ。彼女のスキルが無ければ、廃人のままだったんだ」
俺は視線をカエデさんに向けつつ言葉を紡ぐ。以前地の精霊都市で、廃人同然だった少女を救い出した功績もあったので、彼女にミスティス嬢達の事を託したのだ。
「いえ、私は……じゃないわね。私は、異世界人です。あちらの世界で、医療。人や怪我、病気を治す為の職業を目指していました。ですので、貴女達をみて、放って置けなかったんです」
その言葉を受けて、ミスティス嬢を始めとする全員が、深々と頭を下げる。やはり、彼女らも知って居るのだろう。異世界から呼び出された者たちの事を。
「ともかく、一先ず人界へ帰ろう。その時色々決めて行けばいいさ。俺達が責任を持って送り届ける。もう少し海上を進むから、それまでしっかり休んで置いてくれ。皆もな」
「ありがとう御座います。それでは、一旦外させて頂きます。国に戻りましたら、必ず御礼を……」
俺の一言で、ミスティス嬢達をマコト君達がエスコートしていく。最後までミスティス嬢が先頭で、謝辞を繰り返していた。まぁ、あのまま魔王城に囚われたままであれば、それこそ悲惨な運命であったのは間違いない。
「……ありがと。でも、何でもっと早く来てくれなかったの。何て言ったら殺されるかしら? 冗談よ、助かったわ。私の名前……そう、ね。アンナとでも呼んで頂戴」
ミスティス嬢達が出て行った後、たった一人だけ残った女性。人族の女性で、旧ナグツェリア王国民だと言う彼女だが、俺の目には別の人物に見える。
マコト君達が出た後、俺の嫁である安芸とノーラ、そして艦魂であるヤエのみがこの場に残され、アンナと名乗る女性と対峙する。一応ノーラからの念話で、危険はないと言う事である。
「その点に関しては、済まない。予想外の事だったと言う他ない。それにしても、本当にこの世界は……アンナさん、君も――」
「ええ。私は、貴方が倒した魔王と同じで、転生者。公務の帰りに、無謀運転の車に巻き込まれてね。気付いたらこんな世界だった、と言う訳よ……所で、そちらのお嬢さん方、マジで殺気当てるの止めて欲しいのだけど」
よく見ると若干冷や汗を浮かべているアンナさん。まぁ確かに俺に対し挑発的ではあるが、そこまで目くじらを立てる程では無い。それに、可能なら彼女を政務官として迎え入れたいと考えて居るのでな。
「すまんな。安芸もノーラも、抑えろ。取り合えず、もうナグツェリア王国は存在しません。今は……」
「精霊首都シンフォニア。でしょう? 断罪されたのが、悪意を持つ貴族のみ。ホント、良くやると感心するわ。無能であっても、政治は一日にして成らない物だもの。それと、私に敬語は不要よ」
「そう、か。まぁ俺も元から一般人だし、そもそも敬語もそんなに使えてた訳でもないしな」
と言う一点でお互いに笑みが浮かぶ。聴けばアンナさんは、所謂官僚に属する仕事をしていたそうで。本当に運の悪い事に、交通事故に巻き込まれ転生したと言うのである。
「……ま、こんな所よ。にしても物凄い不思議な感覚だったわ。赤ちゃんなのに、意識はあっちで官僚仕事をしている時と変わらないんだもの。所で、ユウキさんは召喚されたって事だけど、もしかしてあっちに帰る方法は――」
「今の所無いな。まぁ、アンナさんと違って、俺はあっちに未練はないし、何よりこんな素敵な嫁を得たんだ。わざわざ、雁字搦めの場所に帰るのも、な」
そんな言葉に、少々肩を落とすアンナさん。まぁ、確かに現代日本に生きて居た以上、あの生活圏、政治経済レベルを経験して居れば、この時代がどれだけ過酷かは、俺でも理解出来る。
「……でもま、この艦船にお風呂があって本当に助かってるわ。魔王城での扱いと来たら、もう酷いもんだったわ……一日中――」
「いいよ、話さなくて。君達六人は、間違いなく世界でも『上位者』と呼ぶに相応しい実力を持っていた。今回は相手が悪過ぎた、それだけの事だ」
「そう、かしら。まぁ確かに転生者だから、レベルもステータスも、他人と比べて凄まじかったけど、そこまでのものだと言えるの?」
「勿論だ。彼女、俺の嫁でノーラと言うんだが……彼女には、真実を見抜く特殊な力がある。君達が意識を失って居る時、治療の為鑑定をしているんだ。その結果、上位精霊騎士に匹敵する力を持っていると判明したんだ」
俺の言葉に、アンナさんがノーラへと視線を向ける。ノーラも軽く会釈を行うだけに留めて居る。まぁ、同意なくステータスを視られている訳だし、良い気分では無いだろう。
「……命を救われる事に比べたら、気にする程ではないけどね」
「む」
「顔に出ているわ、分かり易過ぎよ。国主なんでしょう? 腹芸も覚えなさい……いえ、そうね。うん、よし。何となく察してはいるけど、手伝うわ。元、だけどこれでも官僚だったのよ?」
それは非常に助かる申し出。俺から頼みこもうと思って居たが、これで政務関連も相当落ち着く事だろう。
「ああ、宜しく頼む。それじゃあ、アンナさんも休んでいてくれ。転移門付近まではこの船で移動するから、まぁ少しだけでも羽を伸ばして欲しい」
「ええ、そうさせて貰うわ。改めて、ありがとう。そして、宜しくね」
アンナさんはそれはもう、綺麗なお辞儀をして退出していく。流石に官僚と言うだけあり、その動作も洗練された物であった。
「よし、俺達も少し休もうか……ヤエ、済まんが後は頼む」
「御意。激戦の後です、しっかりお休みください」
ヤエの言葉に、俺達も会議室を後にして個室へ向かう。安芸もノーラも、個室を割り当てられているが、さも当然の様に俺の個室へと転がり込む。
「……じゅるり」
「あ、安芸さーん?」
まるで肉食の猛獣の様に、涎を垂らす擬音を使いながら、安芸はハンターの如く素早い動きで、俺を獲物として捉えている。不味い。ヤラレる!? 咄嗟に逃げようと思ったら、超可愛い猫妖精、ノーラが俺の往く手を遮る。
「逃がしませんよー」
「の、ノーラさーん?」
ジリジリと迫り来る、最愛の嫁二人。俺は蛇に睨まれたカエルの如く動けない。だからか、そこから先、俺の記憶はない。ただ確実に言える事は、俺は絶対嫁さん達に敵わないと言う事だ。もう直ぐ人界に戻る。さて、凱旋と行こうか。
閲覧ありがとう御座います。魔王戦終結、そして人界への帰路のお話。
そして最後の最後で、相変わらず、主人公は嫁に襲われております(´▽`)
ガチガチの純愛系ストーリーも、書きたい所ではあります。
まぁ、当時は二次創作でその手の作品書いてたんですけどね。今は、出来るかなー?
完全オリジナルで純愛ストーリー……ううーん。ま、候補の一つにでもして置こうか。




