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第七十一話 暴走する闇の力

 安芸を弄び、殺した犯人の一人は、魔王として転生を果たしていた。それでも俺は、俺達は魔王を打ち取り、勝利を収めた。その筈だった。


 何故か消えない、嫌な予感に警戒を強めて居た時。魔王城が突如として揺れ始める。それはまるで、巨大地震の様に。


「く、魔王城が崩壊している? このまま生き埋めにするつもりか! 急いで外に……」

「待って、兄さん! 彼女たちを連れて、急ぐのは難しいよ!?」


 そんな安芸の声に我に返る。そうだ、俺達だけならどうと言う事はないが、今は魔王の被害女性達を保護している状況だ、放って置く訳には行かない。


「まさか、これすら見越しての、置き土産とでもしたと言うのか? 魔王め、死んで尚……女性の尊厳を踏み躙るか。女性を一体なんだと思ってやがる!?」


 ふざけるなと言いたい。幾ら魔王と言う権力を持っているとしても、あんな風になるまでとは、とてもじゃないが許せる訳が無い。


「兄さん、落ち着いてよ!? 気持ちはわかるけど、今は!」

「っ、すまん、安芸……バモスさん、転移はまだ阻害されていますか?」


 危ない、安芸の一声が無かったら怒り狂ったままに行動する所だった。とにかく今は移動の方法を探すのが先決、と言う事でバモスさんに転移魔法の可否を問い掛ける。


「少々お待ちを…………確認しました。転移の術式は、現在進行形で改竄中。転移は不可能、ですな」


 バモスさんの言葉に内心で舌を打つ。確かに魔王は倒した。だから解放されるかと思ったがそうは問屋が卸さないらしい。ならば、物理で何とかするしかないか。


「ノーラ、ガイアフォートレスを使用。マコト君はフォースフィールドを展開、ノーラの援護、ガイアフォートレスの補強を頼む!」

『了解!』


 俺の言葉にスキルを発動するノーラとマコト君。ノーラのガイアフォートレスは、強力な物理防御の壁。それをマコト君が操る、フォースフィールドで補強してやれば、簡易防壁の完成となる。


「よし、一先ずこれで……ヴァル、魔王城の内壁は、叩き割る事が可能だろうか?」

「か、壁をか? 一応壊せはするが、即時修復される様な術式が組まれているな」

「……分かった。全力で壁をぶち抜く」


 ヴァルの言葉に俺は壁を壊す決断を下す。即座に塞がれるとは言っても、コンマ数秒の誤差はある筈だ。


「いや、だから修復される――」

「確かにな、だが……こいつならどうよ?」


 そう言って俺が瞬間換装したのが、アースオーガ。俺の持つ重機の中では、最大級の火力と広範囲攻撃能力を持ち、進化した俺によって、完全制御可能な破壊の暴風を巻き起こせる。


「そうか! 確かにその武器を使えば、修復術式を妨害しつつ、破壊個所の維持が可能と言う訳か」


 流石は魔界公爵。既に何度も俺の戦いを見て居るヴァルだからこそ、俺に意図に気付けたと言う訳だ。


「ご名答。やる前から無理と決めつけちゃダメだろうしな。一応付近にヤエが待機しているのは把握している。ヤエ、聞こえて居るな?」

『はい。現在魔王城からの攻撃は小康状態となっておりますので、以前より接近している状態です』


 と、念話による回答を得た俺は、即時行動に移る。確かに上からの瓦礫は抑えられているとは言え、何時底が抜けるか分からない。一刻を争う事態に変わりはないのだ。


「んじゃ行くぜ。ノーラ、ヴァルの婚約者さん達。被害女性達を頼む。一応内壁破壊後、飛行手段は用意するが、それまで頼む」

『はい!』


 そう言って被害女性達を、嫁達に任せる。女性は女性に任せるのが一番だろう。俺やヴァルが、下手に女性を抱き上げれば、間違いなく冷ややかな視線を送られる事間違いなしだ。


「っしゃ、エネルギーチャージ開始。アースオーガ、出力リミッター解除……開放。ギガントドリル……ブレイカァァァァ!!」


 本来ならもう少しチャージ時間を要するのだが、重機超強化スキルにより、アースオーガもパワーアップして居る。結果として、元勇者のスキル程では無いが、比較的ロスなく全力攻撃を掛けられるようになっている。


「ぶちぬけぇぇぇぇ!!」


 正拳突きの要領で繰り出した、破壊の暴風を一点集中にて内壁へ打ち込む。ビキリ、ビキリと亀裂が広がって行き、遂に内壁の一部の破壊に成功した。


 内壁を貫いたギガントドリルブレイカーの余波により、迸る電撃が、内壁修復の為の魔法を阻害。俺の見立て通りぽっかりと大穴を開け、その維持が成功したのだ。 


「皆、行け!!」


 俺が内壁に穴をあけた光景に、一同が唖然としているので発破を掛ける。確かに破壊には成功したが、永遠に開いていると言う保証はない。その事に全員が次々と大穴を潜り外へ出る。


 ヴァルの婚約者たちは、全員が飛翔系魔法を使用可能であるので、外に出てもしばらく飛行をする事が可能なので、被害女性達を運んで貰っている訳である。


 だたし、それでも彼女らは三人とも女性。一般的な人間よりは遥かに強いが、一人で二人の意識の無い女性を抱えているので、魔力の消耗も大きい筈だ。なので、ここで俺の頼れる相棒を呼び出す事にした。


「コール、ガルーダ! 来たれ我が友よ!!」

『ふ、待ちわびたぞ主よ。皆の者、我が背に乗るが良い!』


 頼れる相棒。風の聖獣ガルーダ。俺を最初に救い上げてくれた最強の相棒が、荒々しい風の渦を巻き起こしながら、空間を引き裂き――今ここに降臨した。


 ガルーダは最初から巨大な状態に変化しているので、全員が乗っても問題ないレベルである。被弾面積も広くなるが、既に攻撃はマコト君の張るフォースフィールドによって阻害され、ガルーダ自身の風障壁も相まって、無敵に近い防御力を弾き出す。


「良し、後は……ユウキ、アキ、お前達も急げ!」


 全員の脱出を確認したヴァルが、大穴の維持に努める俺へと声を掛ける。半神半人となり、精密制御が可能になったとは言え、制御の為に俺は一時的に無防備になって居る。そこで護衛として安芸が俺の傍に控えてくれている訳だ。


「よし、行こう安芸。こんな所、さっさとおさらばだ」

「うん。最後まで油断なく行こう」


 そして俺は安芸の手を取り、一気に内壁に空いた大穴を突破。直後、修復の維持に割かれたエネルギーが拡散し、瞬く間に内壁が修復されて行く。こう、傷がジュクジュクと盛り上がって行くような光景に、少々引き気味になった。


『主よ!』


 そんな光景を見つつ、ガルーダの背中に着地。ガルーダは俺達の収容を確認すると、防護の魔法を張り急旋回からの急降下で海面へと向かう。凄まじい速度のジェットコースター、と言う感じか。


「はは! こいつは爽快だな!」

「ちょ、ちょっと兄さん暴れないでよ!?」


 実を言うと俺は、まだ小さい頃に連れて行かれた遊園地で、それはもうジェットコースターの虜になったという過去がある。都度両親を困らせてたし、大きくなってからは色々あり、遠のいて居たっけな。


「悪い悪い。怖けりゃ……ほれ。放さんから安心しとけ」

「あ、ありがと……」


 少し照れ気味の安芸を、腕に抱き止めた所でガルーダの急降下が一時停止。一瞬出来た無重力空間に、ふわっと舞う感覚。直後、海面すれすれを高速飛行。衝撃波で凄まじい水飛沫が立ち上る。


「ガルーダ、視えてるな? 戦艦ヤエザクラに着艦、上の奴らが援護してくれる」

『分かっておるよ。しかし、主の世界のモノは面妖であるな。翼を羽ばたかせなくとも飛べるとはな』 

「俺も詳しくは覚えてないんだが、エンジンって奴のパワー、推力っていったかな。それが、機体の重量を超える……確か、推力重量比とか言う数値が、一定の数値を超えれば飛べるらしいぞ」


 実は俺。ミリオタ、ミリタリーオタクに片足を突っ込んでいたので、全てを完全に覚えている訳では無いが、部分的にこんな単語も出てくるのである。もっとも、ガルーダにはそれが理解出来た様で。


『まぁ、我々鳥獣も同じではあるな。自分の体を支えるだけの、揚力を生み出さなければならぬ。当然軽量化もな。成程、良く分かった』


 そんな会話を行いつつ、F-35Bの直掩を受けながら、戦艦ヤエザクラの後部甲板にガルーダが着地。魔王の被害女性達を、早急に医務室に運び込む事になる。


「ヴァルさん、医務室へ移動します。緊急事態ですので、私も同行します……そうだ、カエデさんも一緒にお願いします」

「ええ、彼女達の意識回復ですよね? 今度は大丈夫、あの時の二の舞は踏みませんよ」


 ノーラの言葉に答えるカエデさん。それは、地の精霊都市での出来事だ。廃人同然だった少女を救い出したカエデさんは、その魔法の反動で倒れたのだ。けれど、今はレベルも技量も上がっており、万全の態勢でスキルを行使出来ると、言う自信に満ち溢れている様だ。


「分かりました。ノーラさん、お願いします。ジュリア、マイヤ、ヘカテリーナ、彼女らを休ませるんだ。お前たちに任せたい、頼む」

『お任せ下さい』

 

 ここまで連れて来た被害女性達は、合計六名。全員出身も身分もバラバラであり、その中の一人はとある国のお姫様だとか。ただ共通するのは、魔王の号令より拉致された、と言う一点のみ。


「では、あなた。彼女達を医務室に案内します。皆様、こちらへ」


 それらの作業は、ノーラを筆頭に、ヴァルの婚約者達に行って貰っている。ノーラは万が一の時の為の保険。魔眼による真意を確かめる役割で、ヴァルの婚約者達は、魔界の貴族のご令嬢である。


 なので、被害女性達が目を覚ました時、見知らぬ天井で混乱が起きた時の為に、と言う考えてこのメンバーが移動する事になったのだ。


「ともかく、これで一安心……さて、問題はあれか。魔王城、いや……言うなれば、空中要塞って所か」


 そう言って戦艦ヤエザクラの甲板から上空を眺めれば、崩壊と共に魔王城内部から現れた、空に浮かぶ魔王城。


 508ミリ砲の斉射に耐え、俺の三段構えの超スキルで、やっと打ち砕く事が出来た障壁。それを維持する出力を発揮していたのだ。出力先が、魔王城と言う形で再利用されたのだろう。だからこそ、あの質量を空中に浮かせる事など、造作もないと見た。


「……転移魔法の妨害解除は無し、そしてあの要塞。生きてるな、魔王」


 思い返せば、巨大邪神を撃破した時も経験値の取得は確認出来た。多分、油断を誘う感じで存在感を消した。あの時の勇者の様に。そして第二形態、もしくは霊的な存在として魔王城に宿ったとかそんな感じと推測する。


「どちらにしても、あの要塞をこのまま放って置く訳には行かない。ヴァル、皆、倒すぞ。力を貸してくれ!」


 俺の言葉に、全員が闘志を漲らせる。さて、対魔王戦、第二幕の始まりだ。






閲覧ありがとう御座います。嫌な予感と言うのは、大抵的中する物です。

何度か書いてるかも知れませんが、主人公ユウキの直感的な勘の元ネタは、紛れもなく作者だったりします。

え、ちょ! 嘘じゃないです、石を投げないでくだs(ゴンッ

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