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第六十四話 孤島の姫君

無事、田植えが終わりました。

 ザイン伯爵からの使命を帯び、戦艦ヤエザクラは絶海の孤島、マイヤ嬢が隠れていると言う、秘密施設を保有する島へと進路を取る。


 ヴァルの話では、只の無人島にしか見えない様に偽装されているが、有事の際には数カ月単位で、数百人が生活、籠城できるだけの地下施設と物資、迎撃兵器を保有する孤島要塞と言う代物だと言う。


 尤もこの値は、魔界にて生活する人々、魔人族の生活に必要な物であり、人界側の人類種が生活するには不向きであるとされる。魔人族の主なエネルギー源は、食料品よりも魔力を含有する物。


 長期保存が可能で、ごく少量を得られれば活動出来る魔人族、魔族だからこそ可能な物資であるので、この点は仕方がないと言える。そもそも要塞は強固とは言え、規模的には人界の小規模な砦と大差がないのだ。


「視えて来たな……本当にただの無人島にしか見えないが、成程な。あの入江が地下要塞に繋がっていると言う訳か」

「ああ。偽装魔法も俺とマイヤで考案した物だ。魔力操作の力が、俺達と同等かそれ以上の存在でもなければ、見破れないと言う自負もある」


 と言う話を聞く所から推測するに、やはり魔人族でも貴族家に連なる者。マイヤ嬢も例に漏れず魔力操作に長け、その独創性と天才性は群を抜いていると言う。


 一瞬惚気かな、と思ったが事実完璧に偽装が施されており、戦艦ヤエザクラの電波探信儀にもレーダー波の反射が得られない。今はヴァルが同席しているから、俺達にも視認できると言う事だろう。


 本当に凄まじい魔法技術。言い換えるなら、現代に於ける敵味方識別装置準ずる物になるだろう。人界側の魔力操作に長ける者達、エルフ族や吸血鬼族も舌を巻くレベルの完成度に驚嘆の声しか出てこない。


「……よし、使い魔の再配置が完了した。マイヤ、聞こえるか? 俺だ」

『…………え。ヴァル!? え、ちょっと本当にヴァルなの!?』


 そして使い魔越しに聞こえてくる、明るく朗らかそうな声。驚きの色が混じって居るが、間違いなくヴァルの無事を喜ぶ類のものだろう。


「ああ。人界の英雄、サクラユウキ殿に助力を得てな……マイヤ、先程ザイン伯爵からお前の救出を承った。こちらの巨大な船を確認出来るか?」

『ええーと。あ、ちょ……ナニコレ!? 何、これ船なの!? ちょちょちょ、何か凄い技術力を感じるんだけど、ばらしても良いの?』


 使い魔越しに聞こえてくる声から、何となくマイヤ嬢がどんな娘なのか想像が付いてしまった。多分、科学者。それもマッドに近い部類と思われる。と言うか、初見でバラすと言う発想に至るなよ。


「良い訳ないだろ!? 仮に良いとして、バラしたらお前の救出、ザイン伯爵の回収も出来なくなるって分かってるよな!?」

『えぇー……まぁ、うん。そうだよねーごめんね、ヴァル』


 なんとまぁ。思わず呆けてしまう俺の横で、ヤエは微かに身震いをしている。本気でバラされる事は無いだろうとは思うが、ヤエにとっては自分の体その物と言っても良い。怖がるのは無理も無い事だ。


「大丈夫だヤエ、好き勝手にはさせん……さて、初めまして、マイヤ・フィルブレイズ伯爵令嬢。精霊首都シンフォニア、国主サクラユウキと申します」


 先程のザイン伯爵と同じく、使い魔による秘匿会話の回路は繋がっている。これで繋がって居なかったら、ただ独り言を言う悲しい人にしか見えないと言う罠が待っている。


『お初にお目にかかります。フィルブレイズ伯爵家子女、マイヤと申します。此度はヴァル……ロードクラヴィス公爵の救出、父の救出に感謝致します』


 先程のマッド発言が嘘の様に、清く正しい貴族の令嬢としての返礼を返すマイヤ嬢。正直意外と思ったが、間違いなく高貴の出と言う感じか。その佇まいと気品は、ジュリア嬢にも勝るとも劣らないものだ。


「申し訳ない、まだザイン伯爵の回収には至ってません。伯爵から、貴女を先にとの事で承って居ます。緊急を要しますので、急ぎこちらへ移って頂きたい」

『畏まりました。私の侍女や護衛等も一緒に、総勢で十名程ですが、宜しいですか?』

「その程度の数なら問題ありません。移動に関してですが、こちらから回収用の船を出しますか?」

『出来るのであればお願いします。私達の乗って来た船は、避難する際に少々破損がありまして』


 そんな端的な受け答えをしつつ、ヤエに回収用の小舟を出して貰う。ヤエは自律制御が可能なユニットであり、俺と同じく小型の船を遠隔操作する事が可能だ。


「ユウキ、ジュリアとバモスを連れて迎えに行く。お前の能力は知ってるが、流石に無人で動く船等、怖がられ……いや、バラされる危険性があるのでな」

「……そうだな。ヤエ、ヴァル達を載せて行け。大丈夫だな?」


 ヤエは、お任せを。とだけ言ってその姿を消す。行先は戦艦ヤエザクラのコアユニットだろう。ここからヤエは様々な遠隔操作を行っている。砲撃然り、操艦然りである。


「済まないユウキ。ちょっと行って来る」


 そうして艦橋からヤエが出した小舟へと向かうヴァル達。俺は双眼鏡を片手に、周囲の状況を見渡す。時折電波探信儀に目を落とし、俺たち以外の脅威の索敵も行う。


 救出活動と言うのは、一刻を争う物が多い。しかし急激な動きを取る訳にも行かず、特に緊張する一瞬だ。そしてここは、魔界と呼ばれる場所。あのようなクラーケンに準ずるモンスターも存在するので、油断は出来ない。


「……何事もなく終われば良いが」

「兄さん、それ、フラグって言うんだよ?」


 俺の独り言に、安芸が答えてくれる。まぁ、そうなんだよな。俺、この戦争が終わったら結婚するんだ。とか、大量の攻撃を打ち込み、舞い上がる砂煙に、やったか!? とか。


「俺が立てたフラグは、安芸の好感度だけだと思っていた訳だが……ノーラも、いつの間にかフラグ立ってたしな」

「そりゃね。死の淵にある人を、一瞬で救い上げてる訳だし。実際私も、何度惚れ直したか分かんないよ?」

「安芸の場合はギリギリ過ぎて心臓に悪いわ……手遅れになる前で、助かってるよ…………さて、安芸。残念なお知らせだ」


 俺は一つため息を付き、水中探信儀に映る反応を確認する。クラーケンには及ばないが、大型の海生モンスターがこの島に接近しつつある。


「フラグ立っちゃったねー……じゃなくて! 兄さん、ヴァルさん達の回収は!?」

「ヤエからの情報に寄れば、今小舟に乗り込んだ所だ。まぁ距離的に回収は間に合う。が、モンスターはザイン伯爵の回収前に仕留めて置きたい」


 水中探信儀から把握出来る距離、一応戦艦ヤエザクラに搭載される水中探信儀の探知距離は、50海里となっている。


「ヤエ、行けるか?」

『はい、主様。主砲の射程距離は、約31海里です。そこまで来れば迎撃可能です』


 戦艦ヤエザクラの主砲、508ミリ主砲の最大射程は約58キロメートル。海里に直せば約31海里と言う訳だ。この間距離を詰められれば砲撃可能だし、詰められなければ逃げ切る事も可能だろう。


「……ヴァル達の収容には?」

『あと、数分もあれば』

「分かった。ヴァル達を収容後、両舷全速。ザイン伯爵の回収へ向かう。対象モンスターが追って来るなら迎撃。時間的に救出後に接敵する可能性もある、急ごう」


 ヤエは、了解との返答をして戦艦ヤエザクラのコアからヴァル達の回収を急ぐ。途中の映像を見ると、小舟でワイワイと騒いでいるマイヤ嬢に、必死に諫めるヴァルとマイヤ嬢の侍従と言う光景が繰り広げられている。


「本当に大丈夫なのか? ノーラ、ヴァル達の収容後マイヤ嬢、及び随伴者の識別を頼む。大丈夫だとは思うが……念には念を入れてだな。少なくともゲリラが居たら洒落にならん」

「お任せ下さい。そんな事は決してさせませんよ。っと、来ましたね。甲板へ行きましょう」


 念には念を。これから魔王を倒しに行くのに、内部から攻撃崩壊も恐ろしい。そんな事を思いつつノーラを伴い甲板へ移動する。


 俺達が甲板に到着すると同じくして、ヴァル達も甲板へと上がって来る。ヴァルには念話でノーラによる鑑定の事は伝えてある。嫌な気分になるかも知れんが、仕方ないと理解をしてくれた。


「わー! 何よこれ大きいし、えーもしかして全てが鋼鉄製? ちょっと人界の冶金技術どうなってんのよ!?」


 と、真剣に悩んで居る所に大はしゃぎするご令嬢が一人。サラサラとした美しい銀髪セミロング、エメラルドグリーンの瞳。精霊騎士マリンにも言える事だが、私見全開で見るなら、黙って居れば深層の令嬢そのものだと思う。


「マイヤ! 済まないユウキ、俺の婚約者が……」

「気にするな……仕方あるまいよ。技術者なんだろ、彼女」


 少々草臥れているヴァルに俺は同意を示す。俺が現世で仕事をしていた時も、理詰めの技術者が居て良く衝突を起こしていた物だ。


「おいマイヤ!」

「ヴァル、構わない。それより全員で艦橋に上がるぞ。敵が迫っている」

「な、なんだと!?」

 

 そう、今は時間が惜しい。彼女も貴族の娘であるなら、この事態を飲み込めると信じて艦橋へ上がる。その間にノーラから報告を受けた結果、マイヤ嬢の侍従、護衛達は完全に白と言う事も判明。


 これからの事態を考え、早急にザイン伯爵を救助し、もう一人のヴァル支援者の元へ向かう事を決定した。


 しかしそれに追い縋る海生モンスター。速力こそ戦艦ヤエザクラが上回って居るが、ヤエ曰くこちらを完全に捕捉しているので逃げきれないと言う事だ。


「やはり海生モンスターの知覚能力は群を抜いて居るか……振り切れないんだな?」

「……申し訳ありません」

「良い、責めている訳では無いさ。一応引き離しては居るんだろ? ならこのまま突っ切ろう。多分ザイン伯爵の回収をしてからでも迎撃は間に合うだろう」


 少なくともあの海生モンスターの移動速度を考慮すれば、接敵する頃にはザイン伯爵の回収も終わって居ると推測出来る。無事とは言えザイン伯爵は傷病者になる、急がなければ。


 そんな感じで少々焦っている俺に、やっと落ち着きを取り戻したマイヤ嬢が問い掛けてくる。


「ユウキ様、宜しいでしょうか?」

「マイヤ嬢ですか、申し訳ありませんが艦の検分は……」

「いえ、それは……後程。状況は把握しました、あの海生モンスターですが、恐らく……シーサーペントと言う蛇のモンスターです」


 シーサーペントと言えば、クラーケンと並ぶ大航海時代の化け物の一つで、巨大なウミヘビの様な物だ。確かに水中探信儀の反応からすれば、クラーケンと同等クラスの大きさになる。


「ふむ。もしかしてマイヤ嬢は――」

「お察しの通り、海洋モンスターの研究に努めておりました。私の知識で良ければお貸し致します」


 マイヤ嬢曰く、シーサーペントはクラーケンと違い比較的温厚な性格のモンスターと言う事だが、知覚が鋭い為か極端に振動や騒音を嫌うとの事だ。


「……成程な。戦艦ヤエザクラの立てる波飛沫、スクリュー音、砲撃による衝撃波。これらがシーサーペントを刺激したと言う訳だ」

「はい。ですので、この船の動力を落とせばやり過ごす事が可能です。戦いに関しては、お勧めしません。幾ら頑丈な鋼鉄製とは言え、巻き付かれたら一巻の終わりです」


 シーサーペントは蛇のモンスター。蛇と言う生き物は、全身が筋肉の塊と言っても良い生物であり、現実に置いても巻き付き獲物を絞め殺すと言う戦法を取る物が多い。


 特に南米アマゾンに存在する、アナコンダ等は例外なく人間すらも絞め殺し、丸呑みにする事例も少なくはない。


「分かった。ならばこのまま全速でザイン伯爵領の港湾施設に向かい、寄港した状態で動力を落とす。ザイン伯爵の回収後に一戦交える事になるが……」

「私は海の専門家として長いので言わせて貰いますが、戦う事は本気でお薦めしません。全力のヴァルでさえ、捕らえられたら一瞬で殺されます。そんなのは、婚約者として看過出来ません」


 そう言われると確かに弱いな。俺も安芸、ノーラが死の危険に晒されると言うのであれば、全力で回避するだろう。


 だが、ヴァルを心配するマイヤに苦言を呈したのは、他ならぬ――。


「マイヤ、確かに死の危険性はある。だが、ここで立ち止まる訳には行かない。俺は、宰相として、魔王様の親友として、彼の真意を確かめなければならない」

「で、ですが……」


 ヴァルの誠意ある言葉に、言い淀むマイヤ嬢。ヴァルの本心も理解して居るからこそ、心からヴァルを心配して居るからこそなのだろう。


「それにな、ユウキ達は……この戦艦ヤエザクラは、既にクラーケンをも撃破している。大きいとは言え、ウミヘビ如きに後れを取るとは思えない、違うか?」

「く、クラーケンを!? あの、荒ぶる海の王者を、ですか!?」


 ヴァルの言葉にマイヤ嬢が驚愕の視線をこちらに向けてくるので、俺は答えた。


「ええ。確かに我々はクラーケンと交戦、撃破しております。だからと驕り昂るつもりはありませんが、人魔の未来の為には進むしかありません。例えそれが茨の道であったとしても」

「っ……わかり、ました。ですが、貴方を信じる訳ではありません。私が信じるのは、愛するヴァルのみですので、お間違えの無いよう」


 俺はマイヤ嬢の言葉を深く受け止め、ヴァルと視線を交わす。もう間もなく、ザイン伯爵領の保有する港湾施設へ到着する。


 その後、ヴァルが陣頭指揮を取りつつ、ヤエに救助隊を編成させ、ザイン伯爵を始めとする生き残りを受け入れた所で、夜の帳が落ちてくる。


 現在戦艦ヤエザクラの動力は落としているので、シーサーペントの索敵範囲内だが攻撃を加えてくる様子はない。明日が、勝負だな。





閲覧ありがとう御座います。休日なのに、朝更新が出来なくて申し訳ございませんorz

趣味で好きなように書いている故、本当に応援に感謝ですよ。

見て下さる方々のご期待に添える様に、なるべく更新は頑張りたい所です(;´・ω・)

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