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第六十三話 ザイン伯爵救出作戦

気持ち長めです(約6千文字程度)

 クラーケンを撃破した戦艦ヤエザクラは、魔界の大海原を突き進む。目的地は、ヴァルの支援者の一人でザイン伯爵の所だ。ザイン伯爵には、マイヤと言う一人娘がおり、ジュリア伯爵令嬢と同じく、ヴァルの婚約者であると言う。


 若くしてロードクラヴィス家の当主となったヴァル。元々父の派閥は穏健派、人類との共存を目指した一派であり、ザイン伯爵もその一人だと言う。そして本来貴族の子女と言うのは、政治の道具として用いられる。


 例外なくマイヤ嬢もヴァルとの政略結婚の為に表舞台に立ったが、マイヤ嬢自身がヴァルに惚れると言う事態になったそうだ。

 

 無理も無い、長身金髪のイケメンで、文武両道。仁義を併せ持つ魔界最高峰の武人でもある。男の俺から見ても男前だ。故に心から愛した事で本当の婚約を結ぶ事が出来たのだと言う。


 いや、現代日本に生きた身としては、ハーレムと言うのに少々抵抗が無い訳では無い。まぁ、今となっては安芸、ノーラと言う二人の素敵な妻を迎え入れているので、若干抵抗は薄れている。


 そんな事をヴァルに話せば、若干呆れた感じで俺に返事を返してくる。


「……いや、正直王侯貴族レベルでは俺やユウキは少ない方だぞ? 王家、王族と言うのは血族を残さなきゃならない。その為には多くの妻を娶る必要があるんだよ」

「えぇ……」


 因みに、もう一人の支援者の娘もヴァルの婚約者で、こちらはジュリア嬢、マイヤ嬢より爵位が上になる、侯爵家の令嬢だと言う事を知った。


「……そんな顔すんなよ。ユウキも国主ならもっと娶るべきだぞ」

「そんな日が来るとは思えんけどな。俺にとっては安芸、ノーラだけで十分だよ……無用な血筋争いなんかも、見たくないしな」


 俺自身は肯定するつもりも否定するつもりもない。ただし娶るのは良いが、それが元で子孫が争うと言う未来を見たくないと言うのも本当の気持ちだ。


 何故、愛し合った者の子供が、争う必要があるのか。血族を残すと言うのは分かる、しかしこの一点だけは譲れん。万一安芸とノーラの子が王位継承権のような争いをする位なら、子供を設ける事すら――。


「兄さん、心配しなくても大丈夫だよ」


 そう言って震える拳を、安芸がそっと包み込んでくれる。その隣ではノーラも、うんうんと頷いている様子だ。


「私とノーラの意見は一致しているよ。もしそんな事態になるなら、全身全霊を掛けて私たちが止める。子を利用しようとする輩がいるなら――私が斬るよ」

「アキさんと同じく。確かに王位争いが無い訳ではありません。ですが、あなたを愛するからこそ、その様な事態は引き起こさせません」


 二人の目に灯る光は、確たる決意を秘めた物。本当に、彼女達を迎え入れて良かったな。


「ふ、本当に慕われているな……ジュリア、お前はどうだ?」


 そう言ってヴァルがジュリア嬢に確認すると、また何時ぞやと同じく、そっと手を重ねて頷くのみ。


 延々とお互いに甘々な空間を作っている訳にも行かず、ヤエの咳払いで空気が締まる。さて、作戦会議だ。


「……んじゃま、作戦会議だ。先んじてヤエに、偵察機を飛ばして貰った。これが現在の、ザイン伯爵の領地の航空写真だ」

「な、なんだこれ? いや、待て……確かにこれは、ザイン伯爵邸とその周囲と同じ地形だな」


 ザイン伯爵と懇意にあるヴァルは、航空写真をみて驚くが直ぐに意図を理解した。宅邸の配置からヴァルも知るザイン伯爵の領地と言う事で確認が取れた訳だ。


「写真と言う技術だよ。ヤエ、戦艦ヤエザクラに搭載されている、艦載機による航空偵察を行ったんだ」


 もう驚かないと決めた。ぶっちゃけると、戦艦ヤエザクラに搭載されている艦載機、正確には戦艦の様な艦種には、水上機と言う分類の機体が搭載可能だ。


 艦載機が一般的に言う、空母に搭載運用される物で、水上機は主にフロートと言う水上滑走用の装備が付いた物を指す。旧軍の軍艦には、索敵、偵察用にこの様な水上機を搭載していた。

 

「……ま、もう驚かない。例えその水上機がF-35Bだとしてもな……って、んな訳ねーよ!! 何で最新鋭の垂直離着陸機積んでんだよ!?」

「仕様ですので」


 そんな風にヤエに言葉を返される。そうなのだ。この水上機のカテゴリーには、VTOL機。つまり、垂直離着陸能力を持つ航空機も含まれる。


 代表的な物と言えば、米国で運用しているAV-8BハリアーⅡ、ロシアが開発したYak-141フリースタイル等が上げられる。


 そしてF-35BライトニングⅡ。最新鋭のステルス戦闘機、F-35シリーズの中でも、垂直離着陸能力を有しているのがB型だ。


 無茶苦茶と思うが、これは俺が昔やったゲームの内容そのままであり、ヤエもその理屈に従い運用している。もう何でもありだが、正直高解像度の航空写真は本気で助かる。


「ああ、分かった。あれだろ? 俺が昔やったゲームそのまま、重機召喚スキルがやったんだろ?」

「はい」

「……もう、どうにでもなれだ」


 俺は乾いた笑いを浮かべながら、航空写真を見ながら作戦を立てる。現状のザイン伯爵の状況であるが、状況としては相当に不味い。伯爵領は海岸線を有しているが、海からの攻撃は無い。代わりに陸空からの軍勢が迫っている。


 写真上での判断だが、所々赤く焼け焦げた様子からしても、かなり攻めたられている状況だろう。ヴァルの話では、旧ナグツェリア王国貴族とは違い、魔界貴族は独自に兵力、防衛能力を有しているそうだ。


「取り合えず、まだ陥落はしていないが……相当厳しいだろう」

「うむ。この兵力で粘っているザイン伯爵の采配だろうな……ユウキ、無茶を承知で頼みたい。伯爵を――」


 ザイン伯爵の状況に焦りを隠せないヴァルだが俺はその言葉を遮り応える。


「当然だ。ヤエ、両舷全速。有効射程に捉え次第、艦砲射撃。航空写真、識別鑑定も終わっているんだろ?」

「はい。お任せ下さい主様」


 先に言ったが、ザイン伯爵の領地は大規模な海岸線を有する。現状海からの攻撃は無い。ならば戦艦ヤエザクラを前進させ、陸空の目標を叩くのが一番だろう。


 少なくとも航空偵察による、弾着観測射撃を行えば508ミリ主砲の最大射程も生かせるはずである。まぁ、F-35Bに航空爆弾を装備しても良いが、艦砲射撃を対地、対空戦闘は艦載機に任せると言う戦法でも良いかも知れない。


「……しかし、これで本当にやる事が無くなるな。こうして考えると、現代兵器は洗練され過ぎだな。もうこれだけで魔王も倒せんじゃね?」


 そんな風に、思わず愚痴が出てしまう。確かに超アウトレンジの砲撃、最新のステルス戦闘機、これだけで中世レベルの軍隊、モンスター等意に介さない存在に成り下がるだけに。


 まぁ、同じ理屈で言えば、俺の重機召喚、重機外装も似た様な物だ。基本的に重機は作業でしか使わないし、戦闘レベルになれば重機外装として纏う方が効率が良いのである。


「僭越ながら主様。私には魔王なる存在を討つ事は叶いません」

「……ま、何となく分かって居たがね。超常殺しの効果が、ヤエに付与出来なかった辺りでな」


 そうなのだ。確かにアウトレンジ攻撃は可能と言っても、相手は超常の存在たる魔王。超常殺しの力を持つか、勇者級の称号を持たないと討つ事が叶わない存在。


 例えば砲撃や爆撃で城は落とせても、兵力は削げても、肝心の魔王に関してはダメージが与えられないと言う事だ。俺のスキルの範囲内、と言っても自律制御なコアであるヤエには、効果が及ばない。


「ともかく今は、やれる事を。ザイン伯爵の救援が最優先だ。ヴァル、伯爵に連絡は?」

「ああ、一応使い魔による秘匿用会話の回路を送っている。もう直ぐ繋がる頃だ……繋がった。ご無沙汰しております、ザイン伯爵。ヴァーミリオンです」

『……ロードクラヴィス公爵、ですか? まさか、本当に、本当にご無事で……? 良かった、よくぞご無事で……!!』


 秘匿会話を俺達にも聞こえる様にしてくれて居るヴァル。そのお陰でザイン伯爵の肉声が確認できた。どうにも疲れ果てている様子であるが、やはりヴァルの支援者であるのか、今まで音信不通となって居た為だろう。安堵の声が聞こえてくる。


「間違いなく生きていますよ。尤も、俺の力だけでは死んでいましたけどね。それも人界の英雄、サクラユウキ殿のお陰です。彼の力を借りてこの場に舞い戻って来ました」

『……兼ねてから言っていた、人界との和平ですな。しかし、どうやら私はこれまでの様です……どうか、我々の分まで魔界を――』


 鬼気迫ると言う様子のザインは伯爵。既に死兵として戦う覚悟をしているのだろう。それを察したヴァルは速攻で伯爵に応援の言葉を送る。


「伯爵、諦めるのはまだ早い! もう直ぐ救援に駆け付ける、あと少しで良いから持ち堪えてくれ!」

『……ロードクラヴィス公爵。貴方様のその言葉だけで十分です。娘は秘かに沖合の孤島へ逃がしておりますので、娘を頼みますぞ』


 その言葉を告げると同時に、伯爵の居る屋敷へ侵入したであろう兵士が踏み込む音。複数名の兵士の足音が使い魔を介して木霊する。


『来るが良い、私は逃げも隠れもせぬ! ロードクラヴィス公爵の掲げた理想は、潰えさせぬ!』


 疲れ果てて居ながらも、大貴族として威厳のある発言は、秘匿会話越しにも伝わって来る。正に不退転、武人の様な誇り高き声。

 しかし――恐らく多勢に無勢。ヴァルの話ではザイン伯爵は、アークデーモン級の能力を兼ね備える最上位の魔人だと聞いているが、あの戦況から疲弊し続けていると推測出来る。


『ぐっ! まだだ、まだ終わらんよ! ぬ、ぐあっ! ええい、砕け散れぃ!!』


 映像は無いが、剣と剣がぶつかり合い激しい剣戟が繰り返されている。室内と言う狭い場所での戦闘になっているのは、恐らく野外なら数で押し切られるのが目に見えているからだろう。


 ザイン伯爵は、最後の最後まで兵士として戦う道を選択をした。ヴァルや俺に未来を託すと言う結果を残しながら。


『がふっ……く、来るが良い……死出の道連れだ……掛かって来るが、良い……!!』


 その鬼気迫る声に、思わず敵兵士達が後ずさる様な光景が視えた気がする。同時に、ザイン伯爵が咆哮を上げる。


『来ぬのなら、往くぞ雑兵共ォォォォォォォォ!!』

「……ザイン伯爵、伏せろ!」


 咆哮を上げ、敵兵士に吶喊しようとしたザイン伯爵に、ヴァルの怒号が響き渡る。直後――。


『う、うおおおお!?』


 ザイン伯爵の屋敷の周囲で、凄まじい轟音が響き、爆音が屋敷を揺るがす。既にザイン伯爵家はその付近も含めて、戦艦ヤエザクラの主砲の射程範囲内。既に敵味方の識別も終えており、屋敷を包囲する魔族の軍勢を殲滅する為の初弾は放たれていた。


 かなり遠距離からの砲撃になるが、既に航空偵察により標的の選定が完了している。本来電波探信儀、レーダーは直線状にしか進まず索敵範囲は広いが、惑星特有の球体構造に対しては余り効果が見込めない。


 そこで現代では、衛星や早期警戒機と連携して攻撃を行うが、現状戦艦ヤエザクラにその様な設備は搭載されていない。この砲撃は、航空写真を基にヤエの演算で砲撃を行っている。


 先に航空偵察による、弾着観測射撃をすればと言う発言をしたが、幾ら無人航空機とは言え高価なF-35Bを失うのは手痛い。ステルス機はレーダーから見え難いだけで、完全に姿を消せる訳では無いのだ。


「ザイン、機を逃すな!」

『!! オオオオ!!』


 そう言って使い魔越しにザイン伯爵へ発破を掛けるヴァル。ザイン伯爵も瞬時に敵兵士へ斬り掛かる。使い魔越しに、敵兵士が太刀の様な物で鎧ごとぶった切られる音が聞こえる。


『ロードクラヴィス公爵!』

「話しは後だ、今は生き残る事のみ考えろ……ザイン、今から数分の間に幾度か今と同じ轟音が響く。決して外に出るなよ」


 そう、射程圏内とは言え超長距離砲撃。着弾まで時間があるので、念の為第二段、第三段と斉射を掛けていた。初弾は敵兵力の弱体化に加え、第二斉射以降の弾着修正を兼ねた物だ。結果――。


『グッ、これは……腹に堪えます、な』


 そう言うザイン伯爵。恐らく第二斉射以降の砲撃が着弾しているのだろう。少なくともヤエの計算では、この砲撃で大多数の敵兵力を削れると言う事らしいが、最後まで油断は出来ない。


「ヴァル、恐らく敵の戦力は激減している。今の内に救出作戦を実行するべきだ」

「ああ。ザイン伯爵、今から救援に向かう……領民は、無事なのか?」


 これから救援、救出に向かう訳だが、実を言うと、俺はその答えを既に知っている。だからと言う訳では無いが、戦艦ヤエザクラによる艦砲射撃も許可して居た。


 航空偵察の結果も併せて、少なくとも伯爵家から領民達の住まいは離れている事もあった故に。そして、如何に戦艦ヤエザクラが巨大とは言っても、定員は約3000名と言った所だ。仮に難民の類が居たとしても、全てを収容できる訳では無い。


 ヴァルの問いは、答えを知る俺とは違い、貴族として民を想っての、そんな事を考えての言葉だ。暫くの沈黙の後、ザイン伯爵は力なく答えた。


『…………我が力及ばず……申し訳、御座いません……』

「……良い。大儀であった……だが今は、彼らの為にも生き延びてくれ。俺に力を貸せ、ザイン!!」

『御意。我が魂は、貴方様と共にあり!!』


 ヴァルに答えるザイン伯爵は、大きなケガを負いつつも何とか救援に成功した。本来なら領民も助け出したかったが、止むを得まい。


「よし、ザイン伯爵を収容に向かう。両舷全速、進路そのまま」

「いや、済まないユウキ。待ってくれ」 


 このままザイン伯爵が保有する港湾施設へ接舷し、収容をと考えたがそれを慌ててヴァルに引き留められる。


「すまん。距離的には……地図の、ここだ。ザイン伯爵が保有する島の一つで、有事に備えた秘密施設的な物がある。マイヤが先に避難をしていると聞いている、何とかこちらを優先してくれ」

「構わんが、良いのか? ザイン伯爵も大怪我を負っている。敵兵力は虫の息だろうが……」


 俺個人としては、先に傷病者であるザイン伯爵を救出し、その帰り足でマイヤ嬢の回収をと思っていたが、本当に良いのだろうかと思って居たら、使い魔越しに深みのある言葉が届く。


『……貴方が、サクラユウキ様ですね? 申し遅れました、フィルブレイズ伯爵家当主。ザイン・フィルブレイズです。此度の援護に感謝を。そして、身勝手ではありますが……先に我が娘の回収をお願いします』

「っと、失礼しました。神の使徒兼勇者、精霊首都シンフォニア国主。サクラユウキと申します。ザイン伯爵、状況は油断なりませんが、宜しいのですね?」


 相手は貴族、それも伯爵位を持つ貴族だ。俺は貴族では無いが、国の代表と言う立場なので、挨拶が遅れたのは俺の不手際だと思いつつ、返答を返していた。


『ええ。私は替わりが効きますが、娘マイヤの替わりは御座いません。貴族としてではなく、一人の女として、幸せになって欲しいのです。自分本位でありますが――』

「承りました。俺にも守るべき最愛が居ます。伯爵のお気持ちは理解出来ますので、お気になさらず。後で娘さんと合流する形になります。今暫く辛抱を」

『御意。国主サクラユウキ様、ロードクラヴィス公爵、娘をお願いしますぞ』


 ザイン伯爵の言葉に、俺達は頷くと使い魔との連絡が途切れる。使い魔との接続時間に限界が訪れたらしい。


「ヤエ!」

「はい、進路変更。左舷回頭、目標地を変更しました」


 こうして一先ずザイン伯爵は窮地を脱した。しかしまだ救出対象は存在する。ヴァルの婚約者の一人、マイヤ伯爵令嬢を救出すべく、戦艦ヤエザクラは全速力で目標地である孤島へ向かう事になった。





閲覧ありがとう御座います。明日は休みなので、朝晩の二回投稿を予定でした。

予定して居ましたが、家業で田植えを行う為、夜の一回のみとなります。

楽しみにして居て下さる方々には、大変申し訳ない思いです。

引き続き、宜しくお願い致します(*'▽')

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