第六十五話 大海を統べるモノ
会話多めにしてみましたが、如何でしょうか?
一先ずヴァルの支援者であるザイン伯爵の救出作戦は成功。治療に関しても何とか間に合い、一命を取り留めている。ザイン伯爵の娘であるマイヤ嬢も、現在はザイン伯爵に宛がった部屋で看病をしている形である。
さてここからが問題だ。昨日マイヤ嬢から聞いた話からすれば、シーサーペントとの交戦は免れない。少なくともザイン伯爵の回復を待ってから行動するべきだが、それではもう一人の支援者、グラニート侯爵の救出が間に合わない可能性がある。
「ヴァル、どうするべきだと思う? 俺は強行突破をするべきと考えて居る、支援は早い方が良いと思うんだ」
「同意だ……グラニート侯爵の納める領地は、フィルブレイズ伯爵領とは比べ物にならない程広大だ。当然兵力も多いが、それでも敵対するのが交戦派の貴族の軍勢。侯爵自身も俺に匹敵する武人であるが、長くは持つまい」
やはり俺とヴァルの意見は同じだ。俺としても対魔王戦線を構築する為には、武人と呼ばれるグラニート侯爵の協力が必須となる。ならば急ぐべきなのであるが……。
「シーサーペント。勝てるとは思うが、先のマイヤ嬢の言葉もある。ザイン伯爵も、大丈夫だとは思うが……」
「俺もそう思う、しかし、万一戦闘で傷が開けばと言う懸念は捨てきれない。戦えぬもの等捨て置け、と言われるかも知れんが、俺には無理だ」
戦で死ねるなら本望。戦えないなら自害せよ、切り捨てよ。貴族はお互いの柵もある為、いつ何時も気が抜けない。だが、そんな中で恩情を捨てきれないヴァルだからこそ、支援を得れたのだろう。
俺としても、ヴァルの支援者達を無碍にすることは出来ない。八方塞がりか、と思った所でマリンから借り受けていた、海人族の軍人が提案を出してきた。
「ユウキ様、僭越ながらご意見をば。相手はシーサーペントと申されましたな? ならば、ここは一つ聖獣様の御力を借りては如何でしょうか?」
「……その手があったか!」
まさに目から鱗とはこの事だ。確かに人界、四方を守護する聖獣の一角、水の聖獣ケートスの力を借りれるならば、この問題も何とかなるだろうと思われる。
あの邪神との決戦以降、俺は意図的に聖獣達からの協力を拒んで来た。彼らに頼り切りになる事の無い様にと言う想いからだが、彼等はそれでも俺に臣下の礼を取ってくれている。
都合の良い様に使う事になるが、とにかくケートスへの協力を申し出る事にした。
「ケートス、応答できるか?」
俺はそう言ってケートスとの魔力パスを介し、念話を送る。
『どうしたんだい? 何か厄介な事でも起こったかな?』
暫くして、ケートスが念話に応じる。丁寧かつ、本当に落ち着く音階の声が念話越しに伝わって来た。正に癒し系の聖獣と言える。
「ああ、済まないがケートスの力を借りたい。実はな……」
そう言って現状の説明と、シーサーペントに対する対策をケートスへと伝える。ケートスは暫し考えた後、俺に答えを返してくれた。
『いいよ。でも、一つだけユウキに忠告しておくね。僕たちは、今まで女神様に仕えていた存在だ。だから、と言う訳では無いけど……もっと、僕たちを頼って欲しい。今は君が主なんだからね』
「……すまん」
思わず頭を下げた所で、ケートスは微笑む様に言葉を返してくれた。
『分かってるよ。僕たちが大変だからと、気を使ってくれてる事もね。心配してくれるのは嬉しいけど、無理はしていないから安心してよ』
「ああ、ありがとうな。ケートス」
そう言えば以前ガルーダにも言われたっけな。同じくヴァルにも。何でもかんでも、俺は抱え過ぎだと言う事だ。肩書、責任、その全てを一心で受け止めようとしていた。
『それで、シーサーペントだったね。こちらの海にも存在するけど、基本的に種としては変わらない。一応僕の説得で止められるとは思うけど、いざと言う時は僕も戦うよ』
と、心強い答えが返って来た。俺は直ちに出港準備を進める。途中出撃準備に、マイヤ嬢が抗議をしてきたが、ミニ召喚獣となったケートスの説得に同意し、晴れて出航の運びとなる。
「良し、シーサーペントには申し訳ないが……両舷最大戦速! 戦艦ヤエザクラ、出撃!!」
俺の号令で、豪快に汽笛を鳴らし戦艦ヤエザクラが大海原を突き進む。港湾施設を抜け、沖合に到達した辺りで水中探信儀にシーサーペントと思われる反応が現れる。
「来たな……甲板に出る、新生勇者パーティは援護に入ってくれ。ヤエ、操艦を任せる」
「御意。お気を付けて」
そのままヤエに操作を任せ、俺達はクラーケンと対峙した時と同じく甲板へと移動する。昨日はシーサーペントが追う感じであったが、今度はお互いに相対する形で進んでいるので、瞬く間に両者の距離が詰まる。
「天候の急変こそないが、感じるぞ。この肌に感じる圧力……頼むぞ、来い! 聖獣ケートス!!」
『待っていたよ、じゃあ行こうか』
俺の呼び声に、空間が裂けて神々しい光を放ちながら、聖獣ケートスがこの場に降臨する。穏やかな声とは裏腹に、その視線は厳しく、彼方から這い寄るシーサーペントへと注がれている様だ。
そして、その視線を感じたのだろう。シーサーペントの動きが鈍っていると、ヤエから念話が入って来る。俺達勇者パーティは油断する事無く、各自構えを解いてはいない。
『やぁ。僕は聖獣と呼ばれしモノ、名をケートスと言う。シーサーペントの君に話があり、この場に来たけど……話は出来るかい?』
『……』
ケートスから放たれる念話を、恐らくシーサーペントの方も理解しているだろうが、ケートスとの魔力回路を介して聞く念話には、シーサーペントの応答はない。
『少し照れ屋さんなのかな? ごめんね、煩くしてしまって……君に話と言うのは、僕の主がこの先へ行く必要があると言う事。少しの間、騒音を我慢して貰えないかと言う相談だよ』
『…………その、相談には、応じれません』
再びのケートスの呼びかけに、やっとシーサーペントが返事を返してきたが……その答えは拒絶と言う物であった。
『そう、か。どうしても、応じてくれないのかい?』
『……申し訳、ありません……貴方様の事は、知って居ます。でも、引けない、理由がある、です』
『その理由は話してくれないのかい? 僕たちで良ければ、解決策が出せるかも知れないよ?』
『……お答え、出来ません。私は、私は……』
念話を介して聞こえるケートスとシーサーペントの言葉。どうやらシーサーペントは何か理由がある様だが、その理由を話す事が出来ない。こういう場合、何者かの指示か命令。または家族や仲間が人質にと言う場合も多い物だ。
『成程ね。分かったよシーサーペント。君が引けない理由がある様に、僕たちにも引けない理由があるんだよ。力で解決はしたくないけど、ならば押し通るまでになる。本当に良いんだね?』
『……ケートス様。戦う前に、一つお願いが、あります』
『なんだろう?』
『私は、貴方に勝てません。死ぬと思います。なので、どうか、私の妻子と、仲間をお願い致します……』
そう喋るシーサーペントに、俺は思わず舌打ちをする。やはり、人質が絡んでいるか。無益な殺生、する必要も無いのにどうしてこうなる。
『君の覚悟は良く分かった。でも、僕は君を決して見捨てないし、殺さない。聞き届ける願いも、君の同族を救う為の頼みとして叶えるよ』
『し、かし……ケートス様、とは言え、相手は……』
『シーサーペント。大丈夫だよ、僕に任せて欲しい。君の思念から読み取った。僕たちは君を、君達操ろうとするものを討つ為に行動しているんだ。だから……』
『……ですが、私は抗えません。強過ぎる力に、引っ張られて、これ以上は……』
そう言うシーサーペントは、心なしか声色がどんどん震えて行く様子で、今にも何かが決壊しそうな感じに見受けられる。
何とか助けてやりたい。そんな思いを抱いた所で、不意に安芸が紡ぎ出す。
「兄さん、何とかならないのかな……多分、これって魔王の仕業だよね。こんなの、悲し過ぎるよ」
「……俺だって何とかしたいさ。けど、恐らく監視だってされているだろう。下手な行動は、シーサーペントや、仲間達の命に係わる。クソッ!」
何か手は無いかと策を練るが、状況が状況だけに即座に思い付く案など出てこない。何か、何か方法はないのか?
『……方法ならあるよ。可能性としては、博打になってしまうけどね。でも、ユウキならきっと成功させられると思うよ』
「なんだと? そんな都合の良い方法があるのか?」
ケートスの言葉に思わず反論をしてしまうが、水の聖獣であるケートスが言うのだ、恐らく本当に対策があるのだろう。
『うん。簡単では無いけどね、シーサーペントが受け入れてくれるなら、確実に成功するよ。彼を、ユウキの眷属として、創世神様の加護による庇護下で種族進化を行わせればいいんだ』
「……そうか、そう言う事か! 種族進化で、現種族に掛けられた呪いを解き放つ、と言う事だな!?」
俺の答えにケートスは、理解が早くて助かるよ。と笑みを浮かべる。しかし、問題はこれからだ。一体どうやってシーサーペントを眷属化するのか。
『問題無いよ。じゃあちょっとやってみようか……シーサーペント。君の現状、打破する手立てはある。受け入れるかは君次第だけど、どうしようか?』
『ケートス、様……私は、ぐ。可能性が、あるなら……ぐぐ……やり、ます』
その回答を引き出したケートスに、今だよと言われて俺は海上へと飛び出す。現在の状況は素のままだ。人間のままの状態なので、その光景を見た安芸とノーラが慌てて止めに入るがもう遅い。
戦艦ヤエザクラの甲板から飛び出した俺は、同時に重機召喚を行った。
「重機召喚、クレーン付き台船! 重機外装、展開!!」
そして呼び出される超大型のクレーン付き台船。一瞬の間に重機外装を展開しその身に纏う。重機外装の基本地形適正は陸。海中は辛うじて動けるが、海上での行動は不可能だ。
所がこのクレーン付き台船を使えば、脚部のキャタピラユニットに変わり、台船の様な浮力を有するユニットを装備した事で、俺は海上での行動が可能となる。
「ケートス!」
『うん、行くんだ。今なら彼を救い出せる。頼んだよ、我らが主』
ケートスの言葉に俺は全力で海上を進む。悶え苦しむシーサーペントに肉薄し、そっとその手をシーサーペントの頭に乗せる。
『っ、あ、貴方は……?』
「シーサーペントと言ったな。俺は信じなくても良い、けどケートスの言葉は信じろ。新たなる力を、今ここに……開放せよ、シーサーペント!!」
俺の言葉に、シーサーペントが頷くと……あの時、フィリアのペットであった小鳥、ピーちゃんと同等の変化、眩い光がシーサーペントを包み込む。
『うぅ……ああああぁぁぁぁ!!』
「もう少しだ、耐えろシーサーペント!!」
俺がシーサーペントに授けたのは、進化に至る為の欠片。創世神の加護。俺自身も半神半人となる際、途轍もないエネルギーに振り回された。
小さな小鳥でしかなかったピーちゃんだって耐えた。シーサーペントに耐えれない道理は無い。俺の言葉にシーサーペントが何とか頷いた瞬間、光が弾けた。そこには――。
『……え、こ、これって……』
今までは只の巨大なウミヘビでしかなかったシーサーペントが、創世神の加護による進化を経て辿り着いたその姿は、まるで東洋の龍の如く。
「やったじゃないか、シーサーペント……いや、シードラゴン」
『シー、ドラゴン……私が、ドラゴンに?』
シーサーペント自体、竜の因子が無い訳では無い。遠い祖先から枝分かれした内の一つがシーサーペント。彼が進化した結果、先祖返りしたと言う訳だ。
「これも、全てはケートスを信じたからだ。シードラゴン、恐らくお前の仲間達も、種族進化を果たしている可能性が高い」
『皆も……』
「ああ。これからは、お前の思う様に行動するんだ。今なら、お前を捕らえていた檻も消え去って居るだろう。大海を統べる海の龍として、戦えるか?」
『……ありがとう、やってみるよ。けど、その前に一つ約束を交わして欲しい』
それは、自信に満ち溢れたシードラゴンの問い掛け。ケートスにお願いをした時とは違い、凛とした佇まいで俺を見据える。
『仲間達を開放する戦いが終わったら、私を正式に貴方の配下として迎え入れて欲しい。図々しい願いだけど――っ!?』
その言葉に、俺は拳を握り……コツン、と彼の鱗を小突く。これが人型なら握手と言う手もあるのだが、な。
「勿論だ。共に戦ってくれ、シードラゴン!」
『分かったよ。仲間を助けたら必ず駆け付けるから、待ってて欲しい』
こうして、ケートス協力の元に、無益な殺生もなくシードラゴンと言う協力者を得る事も出来た。少なくとも今の彼なら、直接対峙せずとも魔王の支配下から仲間を助けれるだろう。
『上手く行ったようで何より。でも、今の彼はまだ弱い。済まないユウキ、僕も彼に付いて行くよ』
「ああ、頼んだぜケートス……だが、顕現時間は大丈夫なのか?」
『問題無いよ。ユウキの進化に合わせて僕たちも強くなっている。僕の魔力も無限に近い。自ら行動させて貰うんだ、この位はね』
そう言ってケートスも、シードラゴンと共に戦いの場に赴く事となった。これで後顧の憂いも断てるだろう。俺達は彼等を信じで前進する。次の目標地へと向けて。
閲覧ありがとう御座います。今回新登場したのが、クレーン付き台船と言う重機になります。
簡単に言ってしまえば、舟にクレーンを積んだ物で、有名処で言えば、鉄腕DASHで城嶋さんが、DASH海岸で乗ったのが、このクレーン付き台船、フローティングクレーンと言った方が良いのかな?
まぁ、クレーン船と言う物です。




