第五十一話 共闘と真なる敵
俺とヴァルがそれぞれ剣を召喚した所で、四天王が動き出す。四天王の号令に合わせて魔族がそれぞれ相手を見据える。どうやら俺とヴァルの相手が四天王三名の様だ。
残りの魔族三万はその数の暴挙を以て、ノーラ、リチャード、バモス、ジュリアへと向かう。彼女らの援護にはガルーダとケートスが入って居るので、一方的な嬲り殺しになる事はないだろう。
三万の魔族は平均で50台のレベルしかないが、中には強力な個体もいる。しかしこちらで迎撃に当たる四名は間違いなく強者と言える陣容だ。
俺が貰った加護により、守護星騎士の称号を得て進化を果たしたノーラは、純戦力で言えば高位精霊騎士数名に匹敵する力を有する。リチャードもヴァンパイアロードと言う、吸血鬼族が自然進化した最上位の個体。単騎で魔王種と同等の戦闘力を有する。
そして聖獣であるガルーダとケートス。彼等の補助効果によって俺達のステータスは大幅に向上している。それだけではない、彼等自身の戦闘能力も現在は魔王種級を遥かに凌駕する。何より聖獣達の攻撃は本来広域殲滅に適している。大軍相手には最適な能力を有する。
最初に接敵したのがガルーダ、そしてケートス。魔族達も聖獣の危険性を十分把握しているのか、広域攻撃を恐れて少数の編成に別れて進撃してくるが、それでも見立てが甘いとしか言えない。本気の、本来の力を最大限に解放出来る、彼らの力を。
「ガルーダ、ケートス! 遠慮はいらない、全力で行け!」
『任せよ! 少々離れた所で、我が暴風圏から逃れられると思うな……喰らうが良い。テンペストストーム!!』
『出し惜しみする余地はありませんからね、任せておきなさい。誘うのは大海の調べ……眠るが良いさ。シルバーウェーブ!!』
それは破滅の大嵐。それは白銀の津波。ガルーダとケートスが誇る必殺技が炸裂する。二つの必殺技がお互いに相乗効果を催し、その破壊力が極限まで高められる。同時に広範囲に散って居た筈の魔族の半数がその力の奔流に巻き込まれる。
『む?』
『……厄介な』
本来ならガルーダとケートスの攻撃で、約半数が巻き込まれ消滅する範囲だったが……消し炭となったのはわずかに一割程度。
その他の魔族は無傷、とまでは行かないが中程度のダメージを受けている様だ。そしてケートスは攻撃を防いだ正体に感付き、俺に念話を送って来る。
『あれは、古代魔法に数えられる究極の防御障壁魔法、フォースフィールド。だけどあれはその劣化版とも言うべき、マイナスフィールドと言う魔法だね……アレを張られると、広域攻撃は極端に減衰させられる。気を付けて、多分その四天王も耐久値は桁外れの筈だよ』
ガルーダにケートスが広域殲滅型と言う話は聞いていたが、それ以上に魔族全体に張られている防御障壁に俺は驚きを隠せない。いや、驚く余地は無かったのだろう。何せ相手には元大賢者だった男、クリスコフィンが居るのだ。
「ヴァル、厳しい戦いになりそうだ。何とか耐えよう」
「済まない、俺が早期に仕留める事が出来て居れば……」
ガルーダ達の戦闘を横目に、俺とヴァルは四天王を相手取りながらそんな会話を交わす。四天王、神雷のケリュケイオスが抜けて三人になって居るが、非常に連携が上手い。
俺の相手が獄炎のインフェルナグ。ヴァルの相手が地神グランゲイル。お互いに神速の剣舞で打ちあっているその後方から、援護の魔法を唱えるのは絶氷のクリスコフィン。元人間の大賢者だ。
そして元人間であっただけに、人型である俺達の相手、インフェルナグとグランゲイルの援護が絶妙に噛み合い、俺達の攻撃が決定打になり得て居ない。
そう、クリスコフィンは魔族全体に障壁を張りながらも、インフェルナグとグランゲイルに能力補助のバフを与えつつ、要所要所で俺達の決定打を撃たせない。例えるなら早期警戒管制機と言った役割だろう。
「っち、中々厄介な……ヴァル、まだ大丈夫か?」
「そっちこそ、息切れしてないか? さて、どうしたもんかね……」
俺とヴァルがお互いの背中合わせに、インフェルナグとグランゲイルに向かい合う。インフェルナグの武器は、超巨大な大剣。にも拘らず神速での攻防を可能とするのは、その鍛え上げられた肉体とダークドラゴン本来の力があってこそだろう。
そしてグランゲイル。元々天使であり地上で堕天使として、アースドラゴンと融合した堕天竜種と言える新種である彼は、白と黒の対になる双剣でヴァルと対峙している。その剣舞は正真正銘絶技と言っても良い。
「強い、な。こちらも援護が欲しい所だ」
「全くだ。それに後衛のクリスコフィンの立ち回りが上手過ぎる、このままでは少々分が悪いぞ」
そんな会話をしながら更に攻防を繰り広げる。ちらりと視線をノーラ達に向ければ、乱戦になりつつも確実に魔族を撃破していく様子だ。しかし相当分が悪い。ガルーダにケートスも敵が接近し過ぎて広域攻撃が安易に放てず単体攻撃に留めて居る。
しかし、この不利を一変させる流星雨が降り注ぎ、更に別の方角から黄色と赤色の極大閃光が戦場を貫く。マイナスフィールドに護られている筈の魔族の軍勢は、その勢力を半減させた。
『待たせたな、あんちゃん。真打登場だぜ』
黄色い閃光を放った方角に目をやれば、その大きさに錯覚を起こす巨体を震わせ、大地の怒りを発現させる聖獣ベヒーモスが。
『魔族、久しぶりに心が躍る戦いが出来る事を切に願う』
赤色の閃光が放たれた方角から伝わる強烈な熱気。紅蓮に燃える巨人、聖獣イフリートが。そして――。
「遅くなりました。大賢者マコト、戦線に加わります!」
そう言って空間転移で俺達の真横に現れた、俺達勇者パーティの中核にして人類が誇る希望の一人、大賢者マコトが援護に入る。ベヒーモスとイフリートに先駆けた彼の極大魔法、テンペストミーティアによって魔族の軍勢は大幅に弱体化したのだ。
更に言えば彼が到着したと言う事は、勇者パーティがこの戦場に到達したと言う事だ。慌てふためく魔族に強力な攻撃が次々と振り注ぐ。そう、竜騎士によるドラゴンのブレス攻撃と、超魔導による広域魔法が炸裂。そして遂に魔族三万の軍勢は消滅した。
大賢者の話では、念の為にムラマサ殿が竜騎士と超魔導の直掩に付いているとの事。どうしても広域攻撃は隙が大きく、竜騎士はともかく超魔導は接近されれば脆い。
「凄まじいな。しかし一体どうやって……マイナスフィールドは広域攻撃を軽減すると聞いたが」
しかしクリスコフィンのマイナスフィールドに守られている筈の魔族が何故こんな簡単に沈んだのか。俺の疑問はマコト君が答えてくれた。
「ああ、マイナスフィールドですが……これは本来究極の防御障壁魔法、フォースフィールドを広域防御に転用した物です。文字通りマイナス方向での力場を成形し障壁を張るものですが、俺のユニークスキルにより解析し、本当のフォースフィールドで相殺した。それだけです」
簡単に言うがそれは容易に出来る事ではない。古代魔法、究極の防御障壁魔法であるフォースフィールドを、マコト君は完全に解析し制御可能だと言う事実に驚愕する。確かに彼のユニークスキルなら可能だろう。
何より、あの元勇者討伐から約半年が経過している。その間も研究、鍛錬を欠かす事無く日々精進し続けた大賢者だからこそ、古代魔法すらをも制御していると言え様。
「そうだ、念の為カエデは後方の陣地の支援に回していますが、アキさんが護衛に回って居ます。そんな彼女からの伝言です……必ず無事に帰って来て下さい、また留守番な分は夜に返して貰います。だそうです。愛されてますね、ユウキさん」
マコト君が伝えてくれた安芸からの伝言に、俺は少しばかり冷や汗を覚えたのは内緒だ。マジで容赦ないんだよ。話が逸れた。安芸からこの転移門の話を聞いたマコト君は、独自に作戦を練りこの様な対策を立ててくれたのだ。こちらの司令塔は間違いなく彼だろう。
そんな訳で、上位僧侶のカエデさんは安芸が護衛の下で後方の陣地で待機している。万が一魔族の軍勢が突破した際、都市防衛部隊の援護と回復に努める予定だと言うが、それも杞憂に終わった様だ。それでも油断は出来ないので現状は維持らしい。
しかし、この魔族の軍勢殲滅は大きい。初手から数的不利であったが、これでそれぞれタイマンを張るとしても状況は三対三。今こそ反転攻勢の時だ。
「絶妙なタイミングだ。マコト君、援護に感謝をする。状況は把握しているな?」
「ええ、ヴァーミリオン殿も敵ではない事は分かって居ます。そして、俺が戦うべき相手が元大賢者です……止めて見せる、絶対に」
俺の言葉に静かに頷く大賢者マコト。そう、彼も文献に辛うじて残された微かな情報により、クリスコフィンが元人間の大賢者と言う事を知っている。現役の大賢者として、かつての英雄を止めるのも大賢者である自分だと考えて居るのだろう。
「……成程、ユウキは仲間にも恵まれているようだな。マコトと言ったか? 詳しくは後程説明するが、俺の事はヴァルと呼んでくれて良い……相手は元大賢者だが、任せて良いんだな?」
「はい。だからこそ、俺の手で終止符を打ちます……分かるんです、あの人が何故堕ちたのか。出し惜しみは無しです! ユウキさん、ヴァルさん、全力で行って下さい!」
そう言ってマコト君が無数に魔法陣を展開し、迎撃の構えを取る。俺とヴァルはその言葉に呼応し、再びインフェルナグとグランゲイルに向かい合う。
「応! ここで全ての決着を付ける!!」
「任された! 往くぞ!!」
そう言って俺達は各々の獲物に神速で飛び掛かる。俺はインフェルナグに、ヴァルはグランゲイルにだ。大賢者マコトによる能力補助により、一瞬の内に距離を詰めて斬り掛かる。
インフェルナグに対して俺の聖剣による一撃は、避けられるか受け流されるかしていたが、今なら当たると確信している。何故なら……。
「ぬぐっ!? ぬ、おおおお!!」
インフェルナグは俺の斬撃を、捕らえ切れず辛うじて巨剣で受け止めるのみ。俺は軽く振り落としただけだが、インフェルナグは必死に歯を食い縛る。
そう、こちらの能力補助が勝ったのと、相手の能力補助が打ち消されて居るのが影響しているのである。大賢者マコトが複数の魔法陣を同時に発動したのは、各種能力補助、敵方の能力補助解除と言った支援魔法を行う為。
「……」
その光景に絶氷のクリスコフィンは顔を顰める。大賢者マコトは俺達が敵対する四天王への能力制限に加え、四天王を支援するクリスコフィンからの支援魔法の妨害も行っている。大賢者対元大賢者。それは俺の想像の遥か上を行く驚異の攻防戦。
「でやぁぁぁぁ!!」
「チィッ!?」
時を同じく、攻め切れなかったヴァルもグランゲイルに喰らい付き離さない。恐るべき事に大賢者マコトの支援は俺、ヴァルへの個々の支援。四天王全員に対しての弱体化に妨害。
魔族の軍勢が消滅したので、味方陣営、敵陣営全体への支援と妨害を抜いたとしても、驚異のマルチタスク。魔法の並列起動なら俺でもそれなりに可能だが、ここまで驚異的な制御と威力は恐らくノーラ、超魔導サツキでも不可能だろう。
「……さぁ、行きますよ。絶氷のクリスコフィン、いや……大賢者クリストフ! 過去の貴方の栄光、そして嫉妬に苛まれての人生には同情するが、それで世界を滅ぼす理由にはなり得ない!」
「貴様……良かろう、来い若造。格の違いを教えてやろう。尤も……手遅れ、だがな」
そう言って言葉を交わす大賢者マコトと絶氷のクリスコフィン。彼らの間には文字通り無数の魔法陣が展開され、超高密度、超高精度の魔法の打ち合いが繰り広げられる。
「手遅れだと!? 何をする気か知らないが、その前に貴方を倒す!!」
「……愚かな。手遅れと言った。全てが、な」
その言葉を放った絶氷のクリスコフィンには、大賢者マコトが放った無数の光の刃によって全身をズタズタに切り裂かれ、地上へ落下していく。
想像以上の呆気なさに俺とヴァルも思わず動きを止めるが、それはインフェルナグとグランゲイルも同様だったようで困惑の色が隠せていない。
「経験値取得を確認……でも、何故だ……何故この邪悪な気配が消えない? しまった!? そう言う事か!!」
経験値の取得。敵対対象の死亡時に得られる死亡を確定させる告知だ。しかし、大賢者マコトの焦り具合から推測出来た事。この経験値取得が、恐らくトリガーになって居たのだろう。
地上へ墜落し赤い模様となった絶氷のクリスコフィン。しかしその模様は禍々しい程に邪悪な、敵意や悪意と言った負の集合体が寄せ集まった、とにかく不快な物である。
「くそ……そこの四天王、死にたくなければ今直ぐそこから離れろ! アレは、敵味方の区別なく……」
「なに――」
「人間風情――」
大賢者マコトの呼びかけに苛立ちの反応を示すインフェルナグとグランゲイルは、墜落したクリスコフィンから一番近くに居た。補助の切れた状態でクリスコフィンを失ったので、無意識に彼に近付いたのだろう。それが彼らの最後の言葉だった。
魔法陣から延びる禍々しい触手の様な物に捕縛されると、一瞬にして純粋な魔力へと分解される。補助が切れても強者であった彼らが何の抵抗も無く、一瞬でこの世から消え去った事実に、俺の頬を一滴の汗が伝う。
「……アレは、不味い」
「……同感だ。しかし、どうする?」
「……やるしか、ありませんよ。ここでアレを放つ事は……それ即ち、世界の終わりと言う事ですから……」
名状し難き産声を上げながら、この世に産み落とされた悪意の集合体。俺達は戦わなければならない。俺達しかアレを止めれない。アレは、間違いなく神の系譜に紡がれる物。邪悪にして恐怖の根源たる、邪な神。
「オオオオオオ……我ハ、邪神。邪神ナグツェリアート。愚カナルネズミ共ヨ、捧ゲヨ……ソノ魂ヲ我ニ捧ゲヨォォォォ!!」
魔族三万の魂にて呼び起こされ、過去の大英雄の魂にて意識を取り戻し、魔界最強の四天王の魔力を喰らい。この世に破滅を齎す存在が現れた。
その名は、邪神ナグツェリアート。嘗て俺をこの世界に呼び出したナグツェリア王国の因縁が今ここに再来する。史上最大の悪夢として――。
遅くなりまして申し訳ございません。閲覧ありがとう御座います。
業務上の都合で、投稿間隔を少々開けさせて頂きました。
頑張って更新を続けてまいりますので、引き続きよろしくお願い致します(ペコリ




