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第五十二話 邪神討伐

 邪神ナグツェリアート。絶氷のクリスコフィンにより呼び起こされた邪神だ。そして邪神の中に見える文字通り無数の負の感情。怒り、憎しみ、恨み、妬み……そう、この邪神が内に秘める負の感情には、死者の怨恨すら含まれる。


 ナグツェリアートとの名が関するのは、恐らくナグツェリア王国の滅亡と処刑された王侯貴族の意思が強いからと推測出来る。叶う事なら、今すぐこの場から逃げ去りたい。人の恐怖を根源から呼び起こすその姿に、俺は純粋に悪寒を覚える。


「……神の使徒が聞いて呆れる、全力で逃げたい位だ」

「……それを言うなら、俺もだ。デーモンロード級より以上の力を持つ俺でさえ、後退りたい気持ちだ」

「……あなた方でそれ、ですからね。只の人に過ぎない俺は……正気を保つので精一杯、ですよ……きもちわるい、でも」


 俺の言葉に肯定と同意を示すヴァルとマコト。今は大賢者マコトによる隠蔽結界を展開しているので気付かれていないが、何故か邪神の無数の瞳が俺を睨みつけた様な気がした。


「気付かれた!? 不味い、来るぞ!」


 俺の言葉にヴァルとマコトは全力で防御魔法を展開しつつ回避行動に移る。直後、四天王を喰らい尽くした邪悪な触手が俺達が居た場所を貫く。辛うじて回避したかと思えば、邪神から無数の靄が飛び散り俺達に襲い掛かる。


「あれは!? 魔剣カタストロフ、能力開放! ユウキ、マコト! あれは魂を喰らう地獄の亡者だ、気を強く持てば呑まれはしない!」


 そう言って魔剣カタストロフを神速で振り抜くヴァル。直後俺達の周囲にフォースフィールドの様な結界が構築されて行く。地獄の亡者はその結界に阻まれるが、一部が擦りぬけて俺達へ急接近する。


「聖剣シンフォニア!」


 俺は迫り来る亡者に聖剣による迎撃を試みる。一刀の元に切り伏せ消滅し一安心したが、瞬時に再構築され俺に纏わり付く。大賢者マコトもフォースフィールドを展開し浄化魔法を放つが、瞬時に再生されてしまう。


「せ、聖剣の攻撃を受けたのに再構築した!? う、うぐ、纏わり付いて来る……ぐあぁぁぁぁ!?」

「嘘だろ!? 悪霊がどうして浄化魔法を……払いきれない、来るな……来るな! ああ、ああああ!?」


 気持ち悪い、気持ち悪い気持ち悪い。訳の分からない不快感に全身が覆われて行く。意識が飛びそうになる、ヴァルは気を強く持てと言ったがこれは想像を絶する辛さだ。死にたい、死にたい、死ねば楽になる?


「獄炎烈火、ヘルフレイムスフィア!!」


 飛びそうになる意識の中で、ヴァルが何か必殺技を発動した。同時に俺達の体に纏わり付く亡者が消滅していく。今度は再生せず、絶叫を上げながら消滅していった。


「気を強く持てと言った! アレはほんの僅かな恐怖を増幅し、精神を蝕むモノだ。弱い心に付け込んで死に至らせる最上位の悪霊。耐性の低い異世界人には辛いかも知れないが、堪えてくれ」

「く、すまん助かった」

「……」


 俺は何とか正気を取り戻したが、大賢者マコトは未だ虚ろなままだ。


「リチャード、マコト君を後方に下げろ! 安芸とカエデさんの元に届けろ、このままでは危険だ!」

「御意、ご武運を」

 

 俺はリチャードを呼び寄せ、彼を安全な後方へ退避させるように命じる。直後空間転移で現れたリチャードは、マコト君を抱えて更に転移を行い後方へ下がった。


「ノーラ、勇者パーティを連れて距離を取れ。長距離攻撃の用意を頼む」


 更に念話で離れた場所に居たノーラへ連絡を取り、長距離攻撃の指示を出す。ノーラを始め勇者パーティは長距離攻撃も豊富に揃えており、火力も高いので一種の砲撃を行う事も可能だ。


「……嫌です。私もお傍で戦います。ムラマサさん、指揮を頼みます」

「ノーラ嬢、ここはユウキ殿に従うべきだと思うが?」


 俺の指示に従わずノーラは前線に来ようとする。竜騎士、超魔導と共にいたムラマサ殿に諫められるが、首を振り否定の意を示す。


「……私は妻で彼が夫です。妻として夫を支えるのは夫婦として当然の事。彼が私を守りたいのと同じく、私も彼を失いたくありませんので。頼みます」


 そう言ってノーラは神速で俺の傍に現れる。ケットシー種へ進化した事で様々な耐性も得ている彼女だが、それでもこの邪神の相手は辛いと思い遠ざけようとした。しかし彼女の意思は決して変わらない。


「マコトさんの分までフォローします。それとも私では、貴方の傍に立つ事を許せませんか?」

「……分かった。だが危険だと思ったらお前は有無を言わさず下げる、それが条件だ」

「はい」


 短い返答を返すノーラは、マコト君と同等の強力な能力補助と支援魔法を惜しみなく行使する。結果としてステータスの底上げと各種耐性を得た事で邪神からの圧力が減った。


 俺達異世界人はそもそも精神耐性が総じて低い。これは霊的存在に対して潜在的な恐怖を覚えているからに他ならない。しかしこの世界の住人であるノーラ達にとっては、霊的存在はゴーストやレイスの延長であり討伐対象だ。


 結果的に精神耐性も高く、この様な邪神による精神攻撃に対しても高い耐性を持っているのだが、種族進化によりその効果が更に高められているそうだ。実質ほぼ無効に近い効果があるらしい。


「……すまないなノーラ、俺は」

「大丈夫です、行きましょう……アレは、私にとっても倒すべき敵、です。視えます、最奥に眠りしあの悪意の塊が」


 そう、邪神ナグツェリアートの名からも分かる様に、ナグツェリア王国に深い関わりを持つ者の魂が宿っている。当然その中には俺達が倒した宿敵、元勇者も含まれている。最初に視線に気付かれたのも、深層心理に居る元勇者の物であると推測出来る。


「お話も良いがそろそろ攻めないか? ヘルフレイムスフィアも長くは持たんぞ」


 そう言って少々苦しげな表情をするヴァル。確かに地獄の業火で亡者を消滅させる事に成功させているが、その分ヴァルへの負担も大きい。


「済まないヴァル、直ぐに攻勢に転じる。ノーラ、まずは遠距離火力を叩き込む、支援頼むぞ」

「お任せを」

「よし……来い、アースオーガ!」


 そう言って俺は重機召喚からアースオーガを召喚。超重機融合にて左腕に巨大なドリルユニットを装備する。現状俺の持ち得る最大の遠距離火力が、戦闘車両を重機外装として使った際の地対艦誘導弾、次点として120ミリ滑空砲だ。


 しかしこの二点には重大なデメリットがある。コストの問題だ。確かに強力な火力を叩き出せるが一発一発が金貨数万枚レベルの運用資金が必要であり、そう簡単に乱射出来るものではない。


 その点重機なら本体のリース価格のみで運用出来るので低コストで済む。但し純粋な火力は戦闘車両には遠く及ばない。尤も、威力自体は精霊騎士の折り紙付き。邪神に対しても一定の効果は認められるだろう。


「悪霊相手には不覚を取った。そもそも超常殺しはパッシブスキルじゃなくて、アクティブスキルなんだよな……起動確認、アースオーガ出力上昇。ヴァル、ヘルフレイムスフィア解放と同時に一撃打ち込む! 追撃、頼むぜ!」

「おっそいんだよ、ったくもう。俺も守りだけってのは性に合わないんだ。任せて置け、全力で行くぜ!」


 魔剣カタストロフによる結界を維持するヴァルの横で、俺の左腕に装備されたアースオーガが唸りを上げる。時折走る閃光と稲妻、驚異の暴風圏を纏いし黒鉄の螺旋が超常殺しの効果を収束増幅させていく。


「ユウキ!」

「開放! ギガント、ドリルゥゥゥゥ……ブレイカァァァァ!!」


 ヴァルの掛け声と共に俺は左腕を正拳突きの要領で突き出し、アースオーガに貯められた破壊の暴風を開放した。放たれる極大螺旋が邪神ナグツェリアートへ一直線に向かう。


 途中無数の触手が迎撃に繰り出されるが、それらを物ともせず破壊の暴風が吹き抜ける。空中から打ち下ろす感じで放たれたので、着弾すれば地上は大損害を受けるだろう。しかし今は考えても始まらない。壊れた物はまた作り直せば良いだけだ。


「グギャアアアア!!」


 アースオーガによる攻撃が直撃した邪神ナグツェリアートは悲鳴の様な咆哮を上げる。しかし直撃したその傍から失われた肉体が再生されて行く。恐るべき再生速度であり、一発の威力は大きいがチャージが必要な俺の一撃では焼け石に水程度の打撃しか与えれない。


 しかしそれは、俺が一人である事が前提となる。今の俺は一人ではない、背中を任せる頼もしい仲間達がいる。俺は一人じゃない。人と魔人も分かり合える、支え合える!


「ユウキ、お前の光の力を借りるぞ。生と死、光と闇、相反する力を今ここに。聖魔混合波動撃、カオスティックブラスター!!」

「続きます。全てはこの星の未来を紡ぐ為、精霊よ、天使よ、その力を我に示せ……セラフィックエレメントカノン!!」


 再生する邪神ナグツェリアート目掛けてヴァルとノーラの必殺技が炸裂する。ヴァルは魔界、魔族の頂点たるデーモンロード級と同等以上の力を持つ。それに加えて俺の光の力を混合させた攻撃、白と黒の螺旋が。


 ノーラはケットシー種へと進化、一種の先祖返りでありその身なら天使の最高位たる熾天使級の力の一片を行使する事が出来る。元々が地の高位精霊騎士。天上の力を行使する土台は出来上がっていた。


 この世界でも最強、上位勢の攻撃が邪神ナグツェリアートへ吸い込まれて行く。


「ゴアァァァァ!! 許サンゾ!! 愚カナル人間風情ガァァァァ!!」


 全身が崩壊する傍から再生する邪神ナグツェリアート。しかしヴァルとノーラの攻撃の隙に俺は第二波を放つ。同時に後方から三つの極大攻撃が降り注ぐ。剣聖ムラマサ殿、竜騎士カズヤ君、超魔導サツキさんの遠距離攻撃だ。


「馬鹿ナ、バカナ、人間風情ガァ……我ハ、神ナル者ゾ!!」


 邪神ナグツェリアートは呪詛の声を上げながら瘴気を巻き散らし、地獄の亡者を四方八方へと無差別攻撃を加えるが、それらの攻撃はガルーダを始めとする四聖獣により防がれた。


『主よ!』

「ユウキ、この機を逃すな! 行け!!」

『若武者よ、後顧の憂いは我が断つ。往け!!』


 ガルーダの声に俺は右手の聖剣に力を籠める。ヴァルの言葉に全魔力を聖剣に注ぎ込む。ムラマサ殿の念話に、俺は一気に上空から邪神ナグツェリアートへと距離を詰める。


 アースオーガによる攻撃で出来た道を一直線に伝い、全力で突き進む。大賢者マコトから受けた能力バフの効果はまだ残っている。ノーラから受けた能力補助のバフが上乗せされ、文字通り一瞬で邪神に迫る。


「異世界人ンンンン!!」


 聖剣シンフォニアを振るうと巨大な光剣が顕現し、邪神ナグツェリアートへと振り下ろす。真っ向から両断された邪神ナグツェリアートは、遂に動きも再生も止める。一拍の空白の後、禍々しいその巨体は体の末端から光の粒子となりジワジワと消滅していく。


「何故、何故ダ……我ハ、我ハ……」


 邪神ナグツェリアートは虚ろな表情で俺を睨むが、その眼にはもう力は残されていない。俺は再び聖剣シンフォニアを構え、薙ぎ払う様に一閃。縦と横、聖なる十字架が刻まれ、邪神の巨体は完全に消滅した。


「……まぁ、そんな気はしてたさ」


 そう『巨大邪神』は消滅した。間違いなくこの世から消え去った。しかし消滅した邪神の中心部に、真っ黒な人型の存在が佇む。身の丈よりもある巨剣を携えて。


 人型が巨剣を構えると同時に、周囲に漆黒の結界が張り巡らされて行く。その光景に彼から念話が届いた。俺はその言葉に了解とだけ返し念話が閉ざされる。


「……終わらない悪夢とでも言うつもりか。ならば、今度こそ終わらせる」


 俺は聖剣シンフォニアを真っ向に構え、再び奴と向かい合う。勇者と呼ばれた者、世界に反旗を翻し、愚者と呼ばれた最強最悪の存在と――。





閲覧ありがとう御座います。一応明日で、遠方の現場は終了の予定となっています。

まぁ、緊急出動が無い訳ではありませんが……皆様も、災害には十分注意して下さいね。

我々も民間ではありますが、復旧復興には携わりますので(*'▽')b

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