第四十九話 魔界事変
少々短いですが、防衛拠点での一幕になります。
ユウキが体験試乗会の会場で四苦八苦している頃、この世界と魔界を隔てる転移門には異変が起こって居た。魔界転移門と呼ばれるこの転移門からは、小規模な魔族の軍勢が這い出てくる。
この為に世界の各国は、転移門に一番近い国家に、防備の為に強固な要塞都市を建造。建造に当たり多額の援助金、支援物資、人員を捻出していた。
この要塞都市こそが、今回の勇者騒動を起こした旧ナグツェリア王国、現在の精霊首都シンフォニアである。転移門に一番近いのが南門と呼ばれる対魔族最前線の都市で、大規模な対空兵器、大型のバリスタ、魔導砲が備えられている。
兵士も選りすぐりのエリート、高レベル保有者が大隊規模で、総数が旅団規模で配備されているが、精霊首都シンフォニアになってからはその様相が変化。緊張を強いられ続けていた兵士達に加え、各精霊都市から派遣されてくる下位精霊騎士も戦線に加わった。
実際問題として、物理的攻撃、防御は何とかなって居たのだが、魔法攻撃力はともかく、魔法防御力が低いのがこの要塞都市の欠点である。動員できる魔導士の数には限りがあり、加えて高レベル保有者は数が少ない。
戦力比率からしても、兵士が8に対して魔導士は2と言うのが現状であり、更にこの中から高レベルとなると極端に人口が減る。損耗率も極めて高く、補充の余地も無く危険な任務に進んで加わる者も居ないのが現状だった。
しかし、各精霊都市で鍛え上げた下位精霊騎士……実力的には高位精霊騎士候補に近い、魔法戦闘に長ける精霊騎士が派遣された事により、この現状が打破。兵士達は士気を取り戻し、魔導士も背水の陣で挑んで居た緊張感から解放される。
「しかも、補給物資や食事の質、量ともに上がって来ている。本当に新国主、サクラユウキ様には感謝しかないな」
そんな事を言う彼は、この南門を守護する総司令官その人だ。ナグツェリア王国時代は悪辣な環境であった。それでも優先度の高い支援が得られていたが、今程のものではない。
兵力に関しても、レベル50の壁を超える方法が公開されてからと言う物、補充の滞っていた魔導士も増えつつある。先にも述べた、補給物資には質の良い武器防具も含まれているし、回復ポーション、回復魔法スクロール等も上質な物が用意されている。
「加えて、各精霊都市から派遣される精霊騎士。これなら、人類は魔族に十分太刀打ち出来る。国が変われば、ここまで変わるのか……」
そう、今までの環境は劣悪と言っても良い。旧ナグツェリア王国での彼らは、所謂捨て駒にしか過ぎない存在。各国からの援助に関しても、国王及び側近が贅を尽くす為に使われていた。
一応、それなりの配給などはあったが、最前線で有り一番消耗する部署であろうとも、補給、補充もままならない状況も多々存在していた。
辛うじてやり繰りしている背景には、聖獣達の影の支援があった事を、国が変わりユウキが国主となった事で知った事実でもあった。
そんな南門にて、未だかつて無い程に強力な転移反応を検知する。その規模はなんと測定不能と言う物。過去にも大規模な魔族の侵攻はあったのだが、いずれもこれほどに強力な反応は無かったのだ。
「伝令! 至急北門で活動中の使徒様への報告を。全部隊戦闘配置、兵装使用準備! 点検を怠るなよ!」
南門を預かる司令官の怒号で、北門へと通信が飛ばされる。この通信も精霊都市由来の新技術である、精霊通信網を利用した緊急通信用の回線を用いて、北門司令部へと送信された。
そこからユウキの居る広場へと伝令が走る。精霊通信網によって、遠距離感での連絡が非常に楽になったが、欠点は大規模な通信のみである。個々への精密な連絡方法が確立されておらず、最後は人の手と言う事になる。
因みに南門司令官は知る由もないのだが、ユウキと側近、新生勇者パーティは、この個々の通信連絡手段を備えて居る。数が少ないが、少数精鋭、一騎当千の実力者なので、各種戦線への対応にと用意されたのだ。
なので、念話に準ずるものはユウキ達が装備しているネックレス型のアクセサリーのみ。念話スキルは取得が難しく、取得しても相手が念話の許可を降ろさない限り使えないと言う欠点がある。現代の様に携帯電話、スマートフォンでもあれば話は別なのだが。
伝令を飛ばし他所でもう一度魔力反応を確認、検知不能の魔力反応のままだ。しかしその中で四つの巨大な魔力反応が辛うじて表示され、司令官は冷や汗を流す。
「で、デーモンロード級がこんなに……!?」
デーモンロード。悪魔族が自然進化にて到達する進化系にして、魔王種としても資格十分の規格外の存在である。純粋な戦力として戦うならば、それこそ勇者パーティの様な超越者の存在が居なければ太刀打ちする事も出来ない存在だ。
この都市、南門には派遣の精霊騎士を筆頭として旅団規模の人員を要するが、恐らくそれでも太刀打ち出来るのは一体までが限度だろう。一応対抗可能なのは、精霊騎士の存在があるからであり、一般の兵士では文字通り有象無象でしかない。
北門、東門、西門の兵力を合わせれば、恐らく撃退は可能だろうと思われる。南門以外にも精霊騎士が派遣されているので、集まる事が出来れば対抗可能だろう。尤も、集結し迎撃が間に合えばの話ではある。
「くっそ……どうする、どうする!?」
「司令官、落ち着くんだ。今守護聖獣のガルーダ様から念話が届いた。現在転移門付近にガルーダ様と、ケートス様がおられる。時間は稼ぐから焦る事の無い様に、と」
守護聖獣。風の聖獣ガルーダ、火の聖獣イフリート、水の聖獣ケートス、土の聖獣ベヒーモス。この四体が守護するのは、各精霊都市とされていた。しかし、勇者騒動の一環でその制約が解除され、この精霊首都は四体全ての守護の対象となっている。
悪逆非道の勇者を討った代償として、世界の守りが薄くなった。これを埋める為に神々が聖獣の制約を外し、世界を保護する為に遣わしたとされている。そして、その聖獣を束ねるのが神の使徒、国主サクラユウキだ。
「……ふぅ、済まない焦り過ぎたな。っと、伝令が帰って来たか」
司令官も聖獣の強さは、国主サクラユウキによって公開されたので知って居る。相性や能力によって強弱はあるが、基本聖獣の能力は魔王種と同格とされている。しかし現在の四聖獣はその更に上を行く存在となっている。
聖獣達は創世神ゼフィロス直々に加護が与えられた、神の使徒サクラユウキの庇護下にある事で、全てのステータスが数倍に膨れ上がって居る。聖獣自体にレベルの概念は無いが、ステータスの概念は存在するので上乗せが可能だったのだ。
「早いですね。使徒様はなんと?」
「はい、伝令を受け取った使徒様は即時現場へ急行したそうです」
『……はぁ!?』
伝令の言葉に、思わず司令官と精霊騎士の声がハモる。それ程までに想定外の事態だ。いや、確かに理には適っている、国主と言う立場ではあるが、神の使徒兼勇者パーティのリーダーを務めるのもユウキの仕事だ。
しかし、司令官達にとっては指示を仰ぐ上司であり、国の代表である存在だ。本当なら後方から指揮を執り、国民の不安を取り除くのが仕事だ。総大将自ら最前線など、軍団を預かる者として看過は出来ないのであろう。
「いつかはこんな時が来るんじゃないかと思っていたけど、想像以上に胃に効くな……いや、確かにユウキ様を勇者に、国主に、と選んだのが俺達や国民であるのは間違いないんだが……」
そう、ユウキ本人は辞退するつもりでいた職種を、無理やり押し付けたのも国民であり、民意、総意であったのも事実。今後もこの様な事態が多々起こると思うと、司令官達の前途は多難であった。
閲覧ありがとう御座います。次回は新キャラ登場と、展開が動き始めます。




