第四十八話 講習会兼試乗会の目的
新築家屋用の建材の確保を終え首都へ帰還した俺は、その夜留守番であったノーラに普段以上のサービスをする事になった。夫たる者、妻を最高に悦ばせるのも役目の内だ。
と思っていた俺が甘かった。もう、これでもかと言う程愛され、がっつり搾り取られてしまったのは仕方のない事だ。朝起きたノーラはツヤツヤ。俺は創世神の加護のお陰で軽くやつれた程度で済んでいる。
「あ、あの……その」
「気にするな。俺は幸せだから問題無いよ。今日も政務頑張ろうな」
「はい!」
そんな風に元気に返事を返してくれるノーラ。因みに今夜は安芸の番だ。交代でほぼ毎日、何かもう現世での俺では考えられない生活だな。
しかしノーラが進化して本当に助かった。気兼ねなく、と言うと怒られるが、進化前のノーラは何処からどう見ても、十代前半の、身長で言えば130センチ程度の少女にしか見えないのだ。
進化した今でこそ、身長が150センチ弱と言う所だ。が、現世の人達からすれば、間違いなくロリコンと言われても可笑しくない状況だっただろう。
「ん、どうしました?」
「あぁ。進化してより一層、綺麗になったなぁと思ってたんだ。今までは可愛い系だったからな」
「あ、う……ありがとう、御座います……」
いやー俺も言うようになったもんだ。チョロいヒロイン、チョロインと言われそうなノーラだが、実際死の淵に居たのを、俺が救い上げたのは間違いない。
だからと己惚れるつもりは無いが、こうして俺を好いてくれているので、ついつい嬉しくて歯が浮くようなセリフが出てくるのだ。
いやまぁそれでも、仮に進化してなくてもノーラを受け入れた以上、責任を持つがな。あそこまで純粋に俺を愛してくれたのは、他には安芸以外に居なかった訳だし。何よりあの少女に母性を感じた俺も相当だよな。もう最低野郎と言われても良いや。
「と、さて気を入れ直すか。ノーラ、補佐宜しくな」
「お任せを!」
等と考えながら、体験試乗会会場に重機を並べて行く。バックホー、ブルドーザー、ロードローラー、次々と重機を並べて行く。この会場は首都郊外の広場を使用し、一般開放もする。
今この場には、俺、ノーラ、そして一連のやり取りを見ていた安芸しかいない。安芸は昨日の採取に付きっ切りだったが、時折『休憩』を挟んでいた為、安芸の血色も良い。
それでも、頭では分かっていても安芸も女の子。俺の妻であるとは言え、ノーラだけ構って居れば少々不機嫌な感情が見えなくもない。
「と、悪いな安芸」
「良いよ。でも、今夜はちょっと、ね」
「お、お手柔らかにな……」
俺自身彼女達とする事に抵抗はない。が、時折これ以上は勘弁してくれと言う状態が無い訳では無い。まぁ片方を構い過ぎた結果と言う、自業自得とも言えるのだが仕方あるまい。
そして現在の状況だが、一応安芸、ノーラ協力の下、広範囲の隠蔽魔法を行使しているが、これはあくまでお披露目する為であり、隠し通す為の物ではない。時間が来たら会場開放と共に魔法も解除して、驚かせるつもりだ。
「よーし、こんなもんだろ。安芸、民への告知関係はどんなもんだ?」
「識字率はあまり高くないから、これを機に識字率向上もして行かなきゃ、と言う感じ。まぁ口頭でのみ宣伝したから、興味があれば来るんじゃないかな? と言うレベルだよ」
十分と言える。一般的な市民は重機自体にそう縁があるものではない。俺が呼び込みたいのは技術者や開発関係者、工業部門の人達だ。
勿論農業関係者も大歓迎。風の精霊都市での噂も広まっており、最初は関係者に告知したが情報公開はよ! と言う意見も多々あった。やはり、疲れ知らずの機械と言う存在は大きいのだろう。
そう言えば情報公開を求められている重機だが、実は農業用機械の情報開示は、各精霊都市とこの精霊首都でのみ公開している。今回新たに公開するのが建設用重機と言う事で期待感が高まっているのである。
「農業用機械であの熱狂っぷりだったんだ、工業用重機が世に出たらまたお祭り騒ぎだろうよ」
と、俺は確信を持ちながら準備を進めた。今回の体験試乗会には各精霊都市の代表格、種族の代表と言った面々も参加する。特に工業力を欲している地の精霊都市からは、ドワーフ達が大挙で押し寄せる予感がする。
まぁ、解析鑑定を良しとしているので、地の精霊都市に限らずエルフ、ドワーフと言った技術や知識を持つ者は挙って参加するだろう。一応裏目標として、人類種以外の知性を持つ種族なら可能な限り参加して貰うと言うのが俺の目標だ。
「来てくれれば良いのだが。国主権限で呼び出すのは違う気がするだけに」
実の所、魔族と言っても完全に悪しき者、と言うのは邪神の眷属としての魔族であり、過去の勇者も魔王とは対話をしていると言う記録があると、安芸から聞いている。
例えば吸血鬼族。世間的には魔族と言われるが、種族分的には亜人族に当たる。長命種でもあり、姿形も魔族に近い事から魔族と扱われる事も有る。
が、この世界の吸血鬼族は性格は極めて温厚であり、どちらかと言えば技術者、研究者的な側面が強い種族である。実際の所、この精霊首都シンフォニア内にも、無数の吸血鬼族が暮らしている。
「彼らの持つ知識、技術。そして政務官としての才覚、これほど俺達が期待する存在は、そういないだろう。頷いてくれれば良いのだが」
そんな事を考えつつ、重機の展示が終わった。この辺一帯は隠蔽魔法と、物理障壁、認識阻害の魔法で囲ってあるし、この場は国がイベントの為に使うと宣伝しているので、そうそう突破する者もいないだろう。
そういえば吸血鬼と言うと、夜にのみ活動し、人の生き血を啜ると言うイメージであるが、この精霊首都内では日中も普通に活動している。
俺達はそんな意思は無いが、本人たちは一応迫害対象であると言う事を自覚してか、見た目は人間にしか見えない様になっている。例外として気付けたのは俺と側近である安芸とノーラだけだ。
機会があれば話したいと考えて居たので、展示会場から出た所で彼等を探した。以前もこの近辺で見かけたと言う事で適当に歩いた所で、俺は彼と遭遇した。
「居たな。失礼、突然の訪問で申し訳ない。俺はユウキと言います、リチャード殿ですよね。少々お話をしたいのですが、宜しいでしょうか?」
「ええ、構いませんよ。こちらでは人目もありますので、私の屋敷へ案内致します」
そう言って安芸、ノーラを伴いリチャード殿の屋敷へと向かう。途中世間話もしてみるが、至って普通の人類としか思えない。いや、知識に関して言えばこの国の貴族と同等かそれ以上と言っても良い。
屋敷に到着後、応接間でリチャード殿を始めとする、吸血鬼族への勧誘を行った。政治関連、国政に協力を願えないかと打診してみた。断られると思っていたが、快諾されて拍子抜けしたのはここだけの話。
「使徒様の事は聞いておりますが、自らお伺いを立てるのも失礼かと思い自粛しておりました。我々で良ければ力をお貸ししますので、存分に役立てて下さい」
「済まない助かる。色々ギリギリのラインだったのでな、情けない位だ。リチャード殿達には苦労を掛けるが……」
「ユウキ様、我々は長らく主を待ち望んでおりました。ご期待に応えますのでご安心を。それと、私の事は、どうか呼び捨てでお願いします」
その言葉に俺は少し考える。確かに立場は国主だが、俺自身若輩者で一般人だったのだ。少々言い難いかも知れない。
「しかし、本当に良いのか? まず間違いなく俺の方が年下だと言うのに」
「構いませんよ。何より貴方様は間違いなく国の代表たる御方です。私如きに殿呼びをして、周囲に侮られる事もありますまい」
そう言って吸血鬼族の男性、リチャードは恭しく俺に忠誠を誓ってくれた。今回は彼も含めて八名程の有識者を招き入れる事に成功。この講習会でも自らの見聞を広げる一環で彼等にも参加を要請、快諾されている。
この他にも平民であろうと、俺は知識ややる気のある者は普通に受け入れる算段である。ぶっちゃけ、勇者召喚の一件で処罰した王侯貴族が多過ぎて、国政の現場が非常に厳しい事になって居る。
せめて反逆の意識さえなければ雇用したんだが、後の祭りである。まぁこの体験試乗と講習会はこの様な人材確保の側面もある。新技術に釣られて、人が来るといいなぁ。
「っし、まぁこんなもんだろ」
リチャード達吸血鬼族との協力関係を築き、体験試乗会の準備、及び会場設営も終わった。これもこの度政務官として雇用した吸血鬼族の人々のお陰である。一応は俺が国主となった時に政務官の公募も行ったのだが、この半年人員が増える事は無かった。
理由としては単純に、数多の貴族を一斉処断した事が原因と思われる。彼ら吸血鬼族は自ら伺うのが、と言っていたがこれも分からないでもない。先にも言ったが迫害対象である故に、下手に国主に陳情するのも難しかったのだろう。
俺ももっと早く出歩き、彼らにコンタクトを取れれば良かったのだが、こればかりは不運だったと言わざるを得ない。結果としては不足していた人員が補えたので良しとなるが、また別の問題も出て来たのである。
「うっぜぇ……」
この体験試乗会、講習会は精霊首都シンフォニアを始め、四大精霊都市、各種周辺諸国へ告知を行っていた。重機とはなんぞや? と言う周辺諸国は取り合えずある程度の貴族を使節として送ってきたが、これがまた問題を誘発した。
技術者であればすげーとなる者も、何の予備知識も無くこの様な機械が動けば、物を知らない貴族が大騒ぎする訳である。まぁ聖剣シンフォニアによる結界を事細かく配置しているので、暴走しても数十センチ動けば強制的に止まるのだが。
俺は頑張ったと思う。今回吸血鬼族が協力してくれなかったら、この貴族共を木っ端微塵に吹き飛ばしていたかもしれない。
神の使徒兼勇者兼国主と言う立場であるが、生粋の一般人でしかなかった俺に、ある程度勉強したとは言え貴族への対応が少々雑になってしまった。
「余りにも傍若無人過ぎだろ、これが貴族なのか」
何をしたか? まず、私は〇〇国の伯爵の息子だ、とか。この辺ならまだ分かるが、ここで安芸とノーラを側室、妾に等と宣うもんだからキレ掛けた。
「念の為に伺いますが、伯爵家の息子様ですよね。継承権はあっても、当主ではありませんよね? それにここは他国の領地になりますし……」
「平民風情が知った口を! 良いか、私が父上に云えば貴様やこの国程度……ヒィ!?」
「こんな格好で申し訳ありません。精霊首都シンフォニア国主、サクラユウキと申します。多少の無礼には目を瞑るので、この辺でやめて置きませんか?」
作業服に近い服装だったから、平民と見られたのだろう。聖剣シンフォニアを召喚した所で伯爵家の息子に威圧を掛けた。まさか俺が国主とは思わず、顔面蒼白となっている。
「た、大変申し訳御座いませんでした。どうか、何卒ご容赦願います!」
またある人は、機械の有用性を理解しその利益を独占しようと現場統括の立場にあった俺に、強硬な態度を取る訳だ。まさか相手も国主自らこの場に居るとは思ってなかったのか、やはり貴族の地位を利用し傲慢に振る舞っている。
「ふむ。これは中々に良い代物です。これは我が公爵家にて受領する。他の展示物も受け取りましょう。対価は我が公爵家での宣伝で手を打ちます」
俺の姿は一般世間には知れ渡って居ないので仕方ないだろうし、俺自身貴族としての恰好や振る舞いをしていなかったのも問題だろう。余りにも話にならないので、聖剣を召喚した所で初めて相手の貴族の顔色が変わった。
「……まぁ、聞き流すのでこの辺でやめて置きませんかね?」
「し、失礼しました……」
こうなった原因は主に二つ。汚れるからと言って国主としての正装、貴族らしい服装ではなく元の世界の作業着、所謂ツナギのような服装をしていた事だ。
もう一つは俺の容姿は余り伝わって居ないが、神の使徒は聖剣の力を行使すると言う話は独り歩きしている。この為聖剣が俺の身分証明になっているので、これを出した事で慌てて引き下がる訳だ。
聖剣自体この世界には、俺の持つこの一本しか存在しない。聖剣と同格クラスの物は存在するが、聖剣シンフォニアはこの世に一本しか存在しないのが、俺の証明となる。何とも難儀な事だ。
そんな話を何件かしている所で、吸血鬼族の一人、今回俺に協力を申し出てくれた吸血鬼族の筆頭、ヴァンパイアロードのリチャードが俺に耳打ちをしてくる。
「使徒様、一応私の方は落ち着いたので、これから補佐に入ります」
「すまん、助かる」
「……国主たる者、易々と頭を下げないで欲しい所ですが、生い立ちは聞き及んでおります。これから覚えて行きましょう」
安芸とノーラも優秀ではあるが、彼女らと同格かそれ以上に政務に強い者が加わった事で、俺も取れる動きが増える事になる。生涯勉強とはよく言ったものだ。覚えなきゃな、貴族としての振る舞いに立ち回りも。
閲覧、ありがとう御座います。
遅くなりまして申し訳ございません。平日はGW前まで20時か21時とさせて頂いております。
予約投稿も考えてはいるのですが、最後の最後まで誤字脱字等のチェックをしたいもので……。




