第四十四話 アリシアとの模擬戦
ナグツェリア王国制圧戦から既に一月が経過して居る。その間我が国、精霊首都シンフォニアは様々な問題に直面し、次々と解決していった。これは現代人と言うアドバンテージが物を言った。余り勉強が好きでは無かったけど、それなりに勉強して、覚えて置いて良かったと思った。
そんな目まぐるしく移り変わる日常の中で、戦闘の消化不良を起こした二名の残念美人、火と水の精霊騎士が現れた。まずはアリシアと模擬戦と言う事だそうだ。俺は現在執務中。安芸、ノーラと共に書類漬けの日々であり、現在進行形で仕事中。流石に安芸もノーラもキレた。
が、それでも引かない残念美人の二人。唸り声を上げる四名の女性。入口でカリカリと頭を掻いているムラマサ殿。貴方でも手に負えませんか。そんな折、マリンが思い付いたように、俺の分の書類は私が片付けますと立候補。
俺しか決定権を持たない案件も多いのだが、安芸とノーラは仕方ないと引き下がった。おいおい、どう言う事だよ。と聞いてみれば簡単な答えが返って来た。
『マリンなら書類も平気。何より、凛々しく戦うあなたの姿を久し振りに見たい』
この、可愛い嫁共め。素敵な嫁達にそんな事言われたら、ちょっと俺は断れないじゃないか。まぁ確かに、後で模擬戦をすると言ったのは俺だし、一月も放置しておくんだから仕方もあるまい。俺は諦めて訓練場へと足を運んだ。
因みにマリンだが、宣言通り書類作業を行っている。処理速度は俺以上で安芸未満。秘かに戦力として欲しいと思ってしまったのは内緒にしておく。尚、余りの不憫さにムラマサ殿が書類を手伝っていた。で、その筆何処から出したんですか?
「それじゃあ、思いっ切り戦いましょうか! 精霊武装、解放ッ!!」
訓練場に来るや否や、そう言って精霊武装を展開する精霊騎士アリシアさん。ちょっと、模擬戦やろ? なんでそんな全力武装なん?
「全力でやるつもりなのか?」
「じゃなきゃ意味がないでしょ? 手加減したら、本気で許さないから!」
「……わーったよ。泣いても知らんからな? 来い、アースオーガ!!」
挑発的な笑みを浮かべるアリシアに対し、俺はアースオーガを召喚。重機外装にてその身に纏う。一応右腕側は聖剣を装備。ドリルユニットは左腕で運用する事にした。
その様相を見てアリシアの顔が引き攣る。ギガントドリルブレイカーはアリシアの部下、下位精霊騎士とのレベリングでも見せていた。初見でその威力に絶句していただけに、まさか使うの!? と言う表情を隠せない。
「……え、えーっと……あの、ね?」
「行くぞ」
冷や汗を流すアリシアに、俺は構えを取る。後は開始の合図を待つだけ。アリシアは安芸とノーラに必死に視線を送るが、返されるのは微笑みだけ。
なんだろう、俺には安芸とノーラの笑顔が『一回地獄を見て来いやコラ』と視えなくもない。いやいやちょっと待て、俺の戦う姿が見たいって言ったの君達だよね!?
「こ、後悔なんてしてないんだからぁぁぁぁ!!」
『始め!』
涙目のアリシア。無情にも開始の合図が告げられる。二人の合図と同時に俺は地を蹴りアリシアに肉薄。ドリルはバチバチと電撃が迸って居る。既に確殺距離。さぁどう出る?
あとは腕を振り抜くだけ、と思ったら上空から高熱源体が接近。いや、これは魔法か!?
「ッ!」
アリシアは魔剣レーヴァテインで俺のドリルを受け止める。普通なら打ち砕かれるが、流石に魔剣と呼ばれる物だ。俺の一撃は辛うじて食い止められる。そして、高熱源体が俺に着弾。ピンポイントの狙撃を受けた気分だ。
それは炎のレーザーとも言うべき、恐るべき熱源体。この訓練場では聖剣シンフォニアによる特殊結界が張り巡らされており、実戦と同じ戦闘結果を得る事が出来る。
その上で致死のダメージを受けても無効となって居るので、大規模な術式や戦闘訓練に用いているのだ。一応喰らった感じとしては、これに致死の威力は無い、が。
「うぐ、中々効くな……ハァ!!」
「ちょ!?」
俺は気合を入れて炎を吹き飛ばす。アリシアは何で無傷なのよ、と悲壮の表情。そもそも、だ。俺は普段からこの結婚指輪を付けている。魔法攻撃自体が利く筈も無い。のだが、俺はダメージを受けていた。理由は簡単。物理と魔法の混合攻撃だったのだ。
なので、ダメージとしては通り、魔法効果のみを打ち消し。後は気合で炎を飛ばしたと言う形だ。
「流石に魔法レジストには対策済みか。油断したぜ……俺自身あまり得意じゃねえんだが、剣技でやるか? 流石にコイツはまだ怖いだろう?」
「あー……う、うん。その、宜しくお願いします……」
何時もの強気は何処に行ったのか。ともあれ仕切り直しだ。俺も我流で剣技を収めているが、殆ど付け焼刃。安芸、ノーラによる指導。時折やって来るムラマサ殿との訓練で、一応それなりの形にはなっている。
対してアリシアは、間違いなくこの世の頂点の一角。純粋な剣技は未だ見た事は無いが、一筋縄で行く相手ではないだろう。
「今度はこっちが挑戦者だ、胸を借りるぞ!」
「え、えぇ!? ちょ、ちょっとそれって!!」
そう言って、その豊満なバストを両腕で隠す仕草。両腕でこう、ギュっとする感じで隠すので、所謂胸の谷間が滅茶苦茶強調されている。
「胸を借りるってそう言う意味じゃねぇよ!? 稽古だろこれ、何でそうなる!?」
「え、え? あ、え?」
俺の言葉に混乱するアリシア。同時に、強調された谷間があるので、自然と嫁達の視線が厳しくなる。俺に対しても、アリシアに対しても。
「アリシア?」
「あなた?」
安芸はアリシアに、なに人の旦那誘惑してんのよ! と言う言葉を。ノーラは、私達が居て何で他の女の胸を見て居るの? と言う言葉が含まれた声を掛けられた。
アリシアがどんだけなのかと言うと、正直F以上と言う位しか分からん。因みに安芸もノーラも、平均以上にはある。具体的に言えば、安芸がDでノーラがCと言う位。
なので、二人に不満などない。んだが……こいつばっかりは、男の性。マジで勘弁してくれ、俺はお前たちだけだよ……。
「行くぞ、アリシア!」
「はっ!? え、あ……き、来なさい!!」
流石に俺もヤバイと思ったので、この空気を払拭すべくアリシアに声を掛ける。アリシアもこのままでは不味いと思ったようで、俺の言葉に我に返り剣を構えた。
『…………』
ヤバイ。嫁二人の目が笑ってねぇ。あかん、こいつはヤベェ。ちょっとマジでやるぞ。と言っても今の俺はアースオーガの鎧を纏っているだけで、超重機融合状態からすれば微々たる馬力しか発揮出来ない。
俺の基本的な攻撃は、重機外装による近接格闘。対超常の存在に対しては聖剣を振るう。その為純粋な剣技に関しては、ムラマサ殿から基本を習っているだけで、殆ど我流に近い物だ。
信じられない事に、あの超絶技量を誇るムラマサ殿も我流なのだと言う。何れはあの頂きに届きたい物だ、と思いながら俺は一気に踏み込んだ。
「ふっ!」
「はぁ!!」
踏み込みの勢いそのままに、聖剣シンフォニアを手に全力で突撃。アリシアも魔剣レーヴァテインで打ち返す。聖剣と魔剣。異なる二つの神器がぶつかり合う。
「さ、流石神の使徒様……これだけ凄まじい鍔迫り合いは、正直初めて……よ!」
そう言って鍔競り合いをしながらも、腕が震えているのは俺の方である。魔剣レーヴァテインの効果なのかも知れないが、アリシアの言葉と裏腹にその腕は微動だにしない。
「謙遜すんなよ。俺はこれで全開も全開だぜ……やっぱ、この世界の頂点の一角はすげぇわ……っとぉ!」
「逃がすと思って?」
「上等!」
そんな会話をしながらバックステップを踏む俺にアリシアが肉薄する。咄嗟に光の斬撃を繰り出して、闇と炎の斬撃が弾く。
「受け流すか!」
「柔は剛を制す、よ……はッ!」
「チィッ!?」
魔剣レーヴァテインは複数属性を持つ神器。闇の力と火の力を兼ね備える、煉獄の魔剣。古来より生き血を吸い、生命を喰らい尽くした魔剣である。
対する俺の聖剣は光属性単独ではあるが、神気によって鍛え上げられた神聖属性が重なり、純粋に光属性火力が倍加されている。通常の闇属性に対し、二倍の所が四倍の攻撃力で攻撃出来るのだ。
「やっべぇわ、ムラマサ殿の言う通り。これは本気で心が滾る」
「ふふ、正直私と同等の剣技と言えば、アキ位だったからね。ムラマサにマリン、使徒様だって本当に強いわ……でも!」
そんな会話をしながら、幾度も幾度も剣を交える。打ち付け、切り返し。薙ぎ払い、切り払う。どんどん速度が上がっていく。加速対加速、時折、超重打撃を織り交ぜ、切り結ぶ。更に攻防は加速する。超加速対超加速。
正直言えば、この域まで俺が付いて行けるとは思っていなかった。どんなに打ち込んでも、アリシアは冷静に的確に切り返してくる。間違いなく、強い。技量も間違いなく超一流。
「強い、な」
「当然、です。私にも、精霊騎士としての……矜持があるんだから!」
そして加速は止まらない。素人が視たら俺達の剣劇の状況は、目で追う事が出来ない次元での高速戦闘となって居る。俺自身はまだまだ余力があり、ギアを上げる事も可能だ。
レベル向上とムラマサ殿との訓練により、この段階的な加速にも慣れて来た。今の引き出しなら、若干息を切らせているアリシアを押し込む事も可能だが、それでは訓練にならない。
あくまで同格、格上との戦闘経験が技術を昇華させるとは、ムラマサ殿の格言だ。実際その通りだと思う。圧倒的力でねじ伏せるのは簡単だ。そもそも俺は異世界人で、神の使徒。ステータスだけなら精霊騎士では逆立ちしても届かないのだ。
「くっ……」
明らかにアリシアの動きに精彩さが欠けている。無理も無い。確かにアリシアの技量は凄まじいが、純粋なステータスでは俺の方が高い。故にスタミナや集中力に関しても、大分俺の方が有利である。
逆にここまで戦えるアリシアが強過ぎるのだ。しかし、その無理が祟ったのだろう。それでも、ここを踏ん張れば更に高みへ行けるのだ。俺は敢えてギアをそのままに、アリシアと剣を切り結び続ける。
「くぅっ!?」
しかし、その均衡は遂に破られる。呼吸の乱れた一瞬の隙を突き、魔剣レーヴァテインを弾き飛ばし――ビタリ、と聖剣シンフォニアをアリシアの首の直前で止める。
「……降参よ。本当に信じられない速度で成長しているのね」
その言葉に俺は剣を降ろす。アリシアはその場にペタリと座り込んで、大きい溜息を付く。
「でも、次は負けないんだから! 首を洗って待ってなさいよ!」
そう言ってビシィと俺を指さすアリシア。余程悔しかったんだな。まぁ見た目も去る事ながら、性格も負けず嫌いを体現している子だ。ならばと俺は再戦を挑んでみた。
「……んじゃ、二回戦と行こうか。大丈夫出来る出来る。苦しい時に更に負荷を掛ければ、もっと強くなれるんだぜ」
「…………」
だがその一言に、アリシアはパタリと俯せに倒れ込む。慌てて状態を確認するが、良くマンガやアニメで見るグルグル目になって居た。ああ、限界を超えて戦っていたもんな。気付かずにごめんよ。
「きゅぅ……」
ワザとなのか自然となのか、可愛い声を出してダウンしたアリシアを、安芸が医務室へと運んで行った。何時ものムラマサ殿との訓練の癖が出てしまった。気を付けなきゃな。
明日以降、投稿時間を遅らせます。具体的には20時か21時か……
楽しみに待っていて下さる皆さまには、ご不便をお掛けします。
精一杯書いて行くので、応援よろしくお願い致します。




