特別編 新たなる門出
ここは、精霊首都シンフォニア。ナグツェリア王国の崩壊と共に誕生した新国家だ。誕生したばかりの国家であり、その歴史は始まったばかりである。その歴史の一ページとして、新たなる歴史が刻まれる。
この日、俺と最愛の二人との結婚式が執り行われた。まだ精霊首都シンフォニアが樹立して数日であるので、国を挙げての大々的な結婚式ではなく、身内だけで固めた質素なものである。
後日国を挙げて盛大に結婚披露宴を、という意見もあったらしいがこれは俺が否決した。新国家として歩むとは言え、俺達は国を奪った簒奪者だと思っている。元国民が良い顔をする筈も無い。
だから出席者は、火の精霊騎士アリシア、水の精霊騎士マリン、新たに就任した風の精霊騎士フィリア、同じく地の精霊騎士ノルン。剣聖ムラマサ殿、大賢者マコト君、上位僧侶カエデさん、竜騎士カズヤ君、超魔導サツキさんだけである。
結婚式場は精霊首都シンフォニア内にある小さな教会で執り行われた。新郎の俺と、新婦の二人。白のタキシードに身を包んだ俺。国主と言う立場故に、装飾が多めの白いタキシードだ。ちょっとコスプレ感が漂うが、これも悪くない。
そして純白のドレスに包まれた安芸とノーラ。古今東西、純白と言う色は心が洗われる。思わず息を呑むその神々しさに、俺は見惚れてしまった。本当に、綺麗だ。彼女たちが、俺の妻になる。幸せ過ぎて後の反動が怖いな。
「どう、かな?」
そう言って軽く一回りする安芸。スカートがふわりと舞い綺麗な脚が映し出される。安芸のドレスはマーメイドラインと呼ばれる物。大人びた雰囲気のドレスから醸し出される、妖艶な雰囲気が凄まじい。
精霊騎士レオナとしてこの世界に転生した安芸。この世界最初に出会った時に見えた面影。俺は心の奥底から思った。彼女を迎え入れたいと。義理の兄妹としてではなく、本当の家族として。
「兄さん?」
「……ああ、すまん。現世での安芸のドレス姿が見えた気がしてな……綺麗だよ、本当に。愛してるよ、安芸」
「っ」
俺の言葉に安芸は感極まってしまう。そう、何時か見ると思って居た安芸のウェディングドレス姿。まさかこの様な形で、俺が貰い受けるとは思っても居なかった。そう、現世では義理とは言え兄妹という間柄。決して結ばれる事は無かったのだから。
例え血の繋がりなくても、兄と妹と言う立場なのに変わりはない。正直言えば、両親の死から安芸の俺への見方が変わっていたのには、気付いていた。けれど、倫理観の問題で俺達はその一線だけは超えなかった。
一度本気で誘惑された事もある。けれど、俺は頑なに断った。思えば拒絶とも取られたかも知れないが、あの判断は間違って居なかったと思う。一時の感情に身を任せ、と言うのは後々悪影響を及ぼす可能性があるのだから。
情けないと言われても良い。据え膳食わぬは男の恥かもしれない。けれど、それを安芸は受け入れてくれた。親類身内も無く残された俺達だから、支え合おうと誓ったんだ。
だからこそ、今この場で安芸と結ばれる事に、本当に感謝しかない。既に心身共に深く繋がり合っている俺達が、真の意味で結ばれるのだ。嬉しくない訳がないだろう。
「ユ、ユウキさん……そ、その……」
そんな考えを巡らせる俺に、涙ぐむ安芸の隣で、少しだけ恥ずかしそうに告げるノーラ。恐らくドレス姿の感想を聞きたいのだろう。控え気味なノーラが自ら主張してくれているので、答えない訳には行くまい。
ノーラとの最初の出会いは、傷だらけで今にも生命の灯が消える寸前と言う姿。余りの痛々しさに、俺は迷う事無く使徒としての力を使った。思えばあれが彼女、ノーラに取って俺への想いを募らせる要因になったと言う事だ。
安芸は現世でもこの世界でも俺を愛してくれた。故に、安芸を裏切る訳には行かないと、苦渋の決断を下した。一度は拒否をしたのがノーラだった。あの時俺は固定概念に囚われ過ぎていたのだと思う。こんなに想われているのにな。
ノーラ自身も、不貞と思われても仕方ないと引き下がろうとしたけど、安芸の協力もあり彼女を受け入れる事が出来た。だからこそ答えよう、彼女が望む答えを。
「とても可憐で素敵だよ。ノーラの可愛らしさが惜しげなく出ていてさ、思わず見惚れちまった。本当に、俺を慕ってくれてありがとうな。愛してるよ、ノーラ」
「ぁ、ありがとう……御座います……」
ノーラが着ているドレスは、Aラインと呼ばれる物だ。シンプルイズベストとは言うが、各所に惜しげもなく飾られる華やかなレースがノーラの可愛さと可憐さを引き立たせている。
恥ずかしがっていたノーラであるが、俺の感想により一層俯いてしまった。でもその感情は悲しさから来るものではないだろう。間違いなく顔を真っ赤にしているのが手に取る様に分かる。ああもう、二人とも可愛過ぎだろ!
「……安芸、ノーラ。ありがとうな、本当に」
「兄さん?」
「ユウキさん?」
俺の言葉に、俯いていた二人が顔を上げ、少し首を傾げる。今この場でだから言いたい、感謝の言葉。これから夫婦として支え合っていく中でも、決して感謝は忘れない様にして行きたいと思ったから。
「何度でも言いたい。安芸、ノーラ。俺は二人が大好きだ。現世日本から見れば最低と思われようが、知ったこっちゃない。二人が居るから今の俺がある」
『……』
その言葉に、真剣な眼差しを向ける安芸とノーラ。俺は心の底から彼女たちを愛している。だから恥ずかしがる事も無い。共に歩んで行く彼女らに、誇れる俺で居れる様に。
「結婚はゴールじゃない、俺達の始まり。新しい未来の始まりなんだ。二人とならどんな困難だって超えて行ける。人は様々な困難を超えて来たんだ、俺達に出来ない道理は無い」
臭い台詞と言われようが、知った事か。彼女たちが俺を守る様に、俺も彼女達を守る。支え合ってこその人間であり、夫婦なんだ。この出会いと運命に感謝を。
「さ、行こうぜ」
『はい!』
そう言って二人に手を差し出す。涙を目尻に浮かべながらも、笑顔を返してくれる安芸とノーラを伴い、俺は教会の扉を潜る。
式の形式は、現代日本で言う所謂チャペルウエディングに近い物となっているが、同時に二人を娶る事も含め、色々形式や手順はぶっ飛ばしている。
扉を潜り真っ赤なバージンロードをゆっくり歩き、祭壇の前へと進む。神父役を務めてくれるのは、風の精霊都市で聖セラフィーナ教会の教皇を務めるオリバー教皇だ。この日の為に、わざわざ精霊首都シンフォニアまで出向いてくれた。
「この日、この時。神の使徒様の門出を心より祝福致します……風の女神セラフィーナ様の名の下に、アキ、ノーラを妻とし永遠の契りをここに結ぶ事を誓いますか?」
この日の為に、精霊騎士レオナは引退と同時に、アキと名乗る事とした。俺と紡ぐ新しい未来を目指す為に。サクラアキ。今度は義妹としてではなく、正真正銘妻として、その名を名乗る。
「誓います」
神父の言葉に、俺は強くはっきりと答えを返す。絶対に二人は離さない。未来永劫、俺が守り抜くと言う決意と共に。
「新たに結ばれる新婦達よ、風の女神セラフィーナ様の名の下に、この者を夫とし永遠の契りをここに結ぶ事を誓いますか?」
『誓います』
重なる安芸とノーラの誓いの言葉。安芸達の返事に、オリバー教皇は深く頷く。オリバー教皇に取っては、レオナ、じゃなくて安芸は孫の様な存在でもある。そんな彼女を見送る事が出来る事に、感銘を受けているのだろう。
「……今ここに、女神セラフィーナ様の名の下に、婚姻は結ばれました。皆さん、使徒様達の新たなる門出に祝福を!」
小さな教会内に響く拍手。俺達は女神セラフィーナ様の名の下に、俺達の婚姻は成された。俺は創世神ゼフィロス様から授かった加護の力で、不老と言う力を持っている。
そして、妻となり俺の眷属としての権能として、安芸とノーラも不老となっているのだ。これから永遠に続く二人との生活。二人とならどんな苦難辛苦も乗り越えて行ける。
もし、俺があの時諦めて居たら。もし、安芸がこの世界に転生して居なかったら。もし、ノーラが俺を慕ってくれなかったら。今この幸せは掴み取れなかっただろう。
「さぁここからだ、俺達の新たな物語をここから刻んでいく。安芸、ノーラ、付いてきてくれるな?」
「勿論だよ!」
「はい!」
俺の言葉に、拍手と共に教会が光に包まれる。降り注ぐのは四つの光。とても大きくて温かい。火の女神アンジェリナ様の祝福、地の女神チェルシア様の祝福、水の女神メルヴィア様の祝福。
そして、俺をこの運命へと導いてくれた、風の女神セラフィーナ様の祝福。四大女神の祝福の下に、俺達は永遠の契りを結んだ。この幸せは絶対に離さない。最期の時まで、支え合っていく。今までも、これからも。そして永遠にだ。
閲覧、ありがとう御座います。特別編として主人公の結婚式の様子を書いてみました。
今後追加の嫁さんが増える展開は、現段階のプロットにはありませんが、読者様の希望があれば、と言う感じで変更するかもしれません。
そう言えば、昔からバージンロードと覚えていましたが、これ和製英語なんだそうで。
英語圏ではウェディングアイル、と言うそうです(Wikipediaから抜粋)。




