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第四十三話 滅亡と再生

 眼下に見据える精霊騎士の陣営。これに対しナグツェリア王国は、東西南北全てを守る体制で布陣。全戦力を一か所に集める方法ではなく、分散と言う方法を取って来た。確かに拠点を落とされる訳にはいかないだろうが、ここで分散するか?


 そもそもだ、戦力比では精霊騎士一人でも万軍を相手取れる。ともかくこちらとしては殲滅しか、と考えたがここでまた予想外な事が起きた。恐らく先の敗戦が伝わって居たのだろう。殆どの部隊が全面降伏。部隊指揮官ですら、地面に頭を擦り付けて懇願している。


 しかし生き残る為にはとても合理的だ。わざわざ陣地を作ったのも、私たちは戦っていますよ。と言うアピールでもあったらしい。ナグツェリア王国の資源を浪費、しかし陣地自体は強固。この先の対魔族を考えて居るとも取れる。


「ね? 一枚岩ではないと言ったでしょう。各方面には、閑職に追いやられた貴族が複数います。彼等が音頭を取り、今回の宣戦布告に合わせて反旗を翻した訳です」


 とは、大賢者の発言だ。それにしても、即興でここまで上手く行く筈も無い。恐らく示し合わせていた、意図的にこちらに協力的な貴族に情報を流した、と言う所か。


 それに加えて、実は最初から多方面に兵士は散って居た。もし国王が王都のみを守ろうと伝令した所で、そこでナグツェリア王国を切って居たと言う話を聞き、乾いた笑いしか出なかった。どんだけ信用無いんだこの国は。


「無益な殺生等しなくても良いでしょう。我々は文明人。言葉と言う立派な手段があります。力を持つ俺達が言っても説得力は皆無でしょうが、力無き正義では何も守れませんよ」


 取り分けこんな具合で各方面の制圧は完了。陣頭指揮を執るマリンとアリシアも、消化不良。戦わせろ。と俺に念話を入れて来る。君達、淑女やん? なんでそんなバトルジャンキーなん? と、似非関西弁が入る位に、俺も混乱している。


 結局殆ど無血開城で王都に突入する事になった。流石にここでは王側近と言った近衛の連中、未だに忠誠心に厚い者、純粋に精霊騎士と戦いたい、力試しがしたいバトルジャンキーと交戦する事になる。


 俺の予想では割と圧勝するかと思ったが、実際に鑑定によるステータスを教えて貰って驚いた。マリン、アリシアは特級戦力でレベルも高いが、近衛を含む国王側近の兵士達は、何とレベル150前後と、レベル50の壁ばかりではなく、レベル100の壁すら超えた猛者ばかりであった。


 これにはレベルで差が無いと思っていた精霊都市側の冒険者、傭兵は大いに苦戦。精霊都市側の戦力は、平均レベルが75前後に対し、側近兵士の平均が150前後。かなりレベル差のある戦いとなった訳だ。


 しかし精霊都市側の戦力は、下位精霊騎士を連れてきている事により、補助を受けれる分長期戦には有利である。結果として通常戦闘は精霊都市側に軍配が上がったのであった。


 一応だが、戦いたい。と意見具申していたマリン、アリシアもレベル150前後の近衛兵と戦闘した。先にも述べたが、幾ら近衛兵でレベルが150前後とは言え、相手は最強の精霊騎士マリンと、勇者パーティの魔法使いを打ち破った精霊騎士アリシアだ。


 そもそものレベル差、技量差が多過ぎたのか一瞬で決着が付いたのは言うまでもない。近衛兵も善戦したとは思うが、やはりレベルも技量も遥かに上回っている彼女らが負ける筈も無かった。


 結果として、戦い足りないのでと言う念話が俺に送られ続けている訳だ。頭が痛い。


「今度俺が模擬戦するから、ちょっとそのバトル思考止めろよ!?」


 しつこく入って来る念話に、俺はそう言って何とかマリンとアリシアを諫めた。くっそ、俺は本来戦闘向きではないんだがな。まぁ仕方ない。これも勇者の務めと言う事にしておこう。


 因みにここまで、民間人への被害は一切なし。民間人を装って襲って来る暗殺者の類も、精霊と親密に連携出来る精霊騎士の前では無力だった。俺達新生勇者パーティの出番も無いまま、軍勢は王城へ到達。


 これと言った抵抗も無く王族の捜査を開始。文官やメイドと言った者達も念の為捕縛。大賢者の予想通り、第三王子、第五王女と言った王族が紛れ込んでいた。一人でも王族を逃がせば、その者を旗印にと言う事はよくある話。取り逃がさなくて良かった。


 そんな風に安堵の息を付いている俺に、また念話による報告が入って来る。何でも王都内に隠れていた、王侯貴族、公爵家の人間等も確保との事。全員が全員とは言わんが、気が重い。まぁその為のノーラなのである、が。


「……そう、ですね。でも、多分……」


 俯きがちのノーラに俺も視線を落とす。仕方あるまい、奴らは散々民草からの搾取、異世界人の誘拐、その他諸々法外な手段も取り続けている。ここで根絶やしにしなければ、未来に遺恨を残す結果にしかならない。


 俺自身も酷い扱いを受けたが、勇者と言う悪意の塊を滅した事で溜飲が下がって居るのだろう。それから数時間の内に王城内の人員は全て確保された。ロープで縛られながら広場へ連行される王侯貴族。


 その中には、当然俺達を召喚し、俺を牢獄へと押しやったあの姫さんも存在している。泣き喚きながら無実を主張しているが、ノーラの魔眼で見通してもらった結果、更生の余地はないとされる。


「ノーラ、念の為に聞くが……私情は挟んでいないよな?」


 ノーラの持つ魔眼を疑う訳では無いが、俺への扱いを聞いたノーラが私刑に処すると言う事も、あり得ないとは言い切れない。信じているが、やはり俺に取って最愛であるように、ノーラも心から俺を愛してくれている。


 だからこそ私情を持ち出し、断罪すべしと考える事もあり得る。慕ってくれるのはありがたいが、本当に姫さんが更生の余地があるなら、と思うのは現代日本人の感覚なのだろう。

 

「私情は挟んでいますよ、当り前じゃないですか。夫を殺そうとした人間を、生かしておく理由なんてありませんよ。それとご心配なく、私情が挟まれていても、挟まれてなくても、結果は変わりません」


 しかし、そんな俺の意見をバッサリとぶった切るノーラ。どちらにしても結果変わらないのであれば、聞くだけ野暮だったかも知れない。そんなこんなで広場に集められた王侯貴族は、目の前にあるギロチンに恐怖に打ち震えている。


 その総数はなんと50人近い者であった。幼い王子や王女、貴族家の息女等も多数居るが、これも運命なのだろう。正直俺達異世界人には、直視し難い状況だ。せめて、冥福を祈ろう。眠れ、安らかに。


 こうして、ナグツェリア王国はその歴史に幕を下ろす。実際はラストダンサーも舞わなければ、カーテンコールも存在しない。ただ、歴史の闇に葬られると言う事実だけが残されただけ。


 ノーラの魔眼で見通した結果、流された血は王侯貴族と側近の者達のみ、年齢問わずであった。残念な事に処刑された貴族に、更生する余地のある人物は存在しなかった。


 反王派の人間は辛うじて難を逃れたが、監視付きで活動と言う辺りで若干の野心があったのだろう。俺としては多少の野心は仕方ないと思うが、その意見はノーラによって断ち切られる。


「気持ちは分かりますが、私達に取って最愛は何を置いてもあなただけです。不穏分子や危険の芽は摘むに限ります」


 愛が重いと思うが、仕方あるまい。逆の立場であれば俺も安芸、ノーラを守る為に行動するだろう。良い嫁たちを得たよ、現世では考えられんな。


 しかしこれだけの被害で済んだのだから、良しとする外無い。そして大変なのはこれからだ。国の中枢が空白となったのだ。可能な限り最善を尽くすべく行動したが、決定的なピースが足りない。国の代表と言う器の存在だ。


 そこで当然の如く祭り上げられたのが、俺。神の使徒と、勇者と代表を兼ねると言う訳の分からない役職になってしまった。だが、これもある意味では正解でもある。


 俺は国の代表であると同時に勇者パーティの代表でもある。結果としてこの国を拠点として、対魔族への対策や対応をするなら一番権力を振るえる立場にあると言う事だ。


 かと言って圧政をするつもりも無い。幸いにもこの世界の住人、反王派の貴族の生き残り達は優秀であった。傾きかけていた財政を立て直し、それを率いる俺の評価も急上昇。


 また、マリンを始め精霊騎士達からも政治家や協力者を得て、国家の復興は急ピッチで進んだ。因みに俺は無理に民主制を勧める気も無い。郷に入りては郷に従え。急激な変化は反発をも呼ぶ。やるなら徐々にである。まぁやる気も無いが。


 そもそも、元が一般人に、補佐を付けたからと言え国の運営が出来るわけ無いだろう。うろ覚えで改革した所で、自分が理解していない改革など無駄にしかならない。




 しかし遠い未来。この国、精霊首都シンフォニアは世界最高の国家となる。少なくとも現代地球に近い様な、近代という文明レベルと技術力を誇る、超国家として君臨し続ける事など、今の俺はまだ知らない。





閲覧ありがとう御座います。

本日は後程、特別編を上げさせて頂きますので、よろしくお願い致します。

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