「だめよ」とお前は泣くんだ。
「おーおー。今日も今日とて騒がしいね、イケメン君の周りは」
一条がこの学校に転校してから5日。つまり私とこいつが同棲をし始めて5日。
相変わらず席は隣だけど、いたって普通。
会話は極力しない。近付かない。‥というか、近付けない。
悠世の言葉通り、転校初日から、一条の周りには常に女の子がいる。そりゃあもうべったりですよね。春にはまったく似つかわしくないくらいの。
「一条君、部活はなに入るの~?」
「良かったらサッカー部来ない?私マネージャーしてるんだけど、」
「ねぇ今日一緒に帰ろうよ」
ひっぱりだこだ。
そんな会話、というか女子からの一方的な誘いを一条は笑顔で何とかかわしているようだった。それを面白そうに悠世はみている。本当に、人の不幸が好きなやつ。
「そういえば今朝もいなかったけど、また告白?」
「まぁねー‥」
「にしては遅かったよね。迷子?」
‥なるか!
「今日は朝は立て込んでてねー」
「え、なに、朝だけでそんなに告白されんの?なんであんたみたいなのがそんなにモテるの?」
わけわかんない、という風に言うが、それは僻みなんだろうか。それとも単につまらないだけだろうか。こいつ、本当にわかんない。
「1つはそうだけど、もう1つはありがたくない告白よね」
「ありがたくない?」
「なんならはた迷惑な」
「‥一条絡みと見た」
「ご名答」
そういう勘が鋭いとこ好きよ。何も話さなくて済むし、だいたいのこと察してくれるし。
「呼び出されてたんだけどさ、面倒だし行くのやめようと思ってたんだけど、2年の教室棟の前で待ち伏せされちゃって。行くしかなったんだよね」
ため息まじりに切り出せば、ふんふんと興味あり気に首を振って聞いているが、本当に聞く気があるのかは怪しい。だってたいていのこと聞き流してるような奴だし。
「一条に近づくなって?」
「まぁ大体そんな感じ。私自分から近づいた覚え微塵もないんだけどね」
勘違いもほんと甚だしいよね。って言ってやったらすっごい顔で睨まれた。つーか、私だけ呼び出されて、この群がってる女の子たちが対象から外されるってどういう理屈よ。
思えば思うほど理不尽に思えてきて、仏頂面で次の授業の英語の教科書を睨みつける。
「やだ、私の教科書に穴開けないでよ」
「…目からビームとか出ないから」
「嘘、あんた今出そうなくらい人の教科書睨んでくれたわよ」
「‥あー、まぁ、英語を見ると無性にイラッとするんだよね、今」
「なにそれ」
「いや、わかってくれなくていいんだけど」
わかってくれなくていいし、わかってもらいたくもないんだけど。
ただ英語を見るといろいろと思い出すものがあるからイラッとする。
「意味もなくイラつかれる英語が可哀想だよね」
「柄にもなく英語の気持ちにならなくていいから」
つーか英語の気持ちって何よ。
「千歳」
ふいに名前を呼ばれて振り向くと、黒い髪をポニーテールにした背の高めの女の子がいた。言葉の代わりに顔だけを向けて「どうした?」と目だけで問うと、女の子は周りを見てから少しだけ小声で話し始めた。
「今日の放課後なんだけど、球技大会の練習するから体育館に来て、だって」
「は?やだよ、めんどくさい」
と、言い切ったところでタイミングよく頭にぽかりと衝撃が走った。別に何か声を発するほど痛かったわけじゃないけど、それなりに痛かったから、叩いた本人の方を見ると、丸めた英語の教科書を持った富樫君が立っていた。
「げ、」
「人の顔見てその反応とはいい度胸じゃねぇか、神崎」
なんだか最近苦手キャラになりつつある富樫君。
去年よりも私の扱いがグレードアップしてうまくなっているのは気のせいだろうか。
「時任が遠慮気味に言いやぁんな反応すると思って見てたんだよ。したら案の定だしよ。今日の放課後、体育館」
「‥練習着ない」
「生憎な、今日はバスケ部練習が急きょ無くなったらしくてな。練習着を持て余してる女子バスケ部員がうようよいるんだわ」
‥なんて日だっ‥!
「貸してもらってもいいんだよな?」
「うん。ていうか、バスケ選択してる子の半分がバスケ部だし、何の問題もないよ」
富樫君の言葉に時任さんはにこやかに答える。ていうか、今思ったけどなんで女子の練習に富樫君が口出してるわけ?
「体育館が放課後に使える日とかまずないからな。今日は男女一緒に練習」
「え、なにそれ」
「まぁ別々にする必要もあんまりなんだけどな」
「てか、バスケ部が半分占めてるなら練習とかいらなくない?」
うん、いらないよ。いらない、いらない。
だから私を家に帰らせてよ。
「お前みたいなド素人が半分いれば別だろうが」
「‥失礼な。私をド素人と一緒のくくりにしないでよ」
これでもずっとバスケはやってきたのだ。でもって運動神経もそこそこいいんだよ。けっこういい線いってんだよ。
「お前だけの話じゃないだろ」
「じゃあそのド素人だけを集めて練習すればよくない?」
「バスケは5人でするスポーツだろうが」
「私が抜けたとしても数は足りるじゃん」
ああいえばこういう、という口論を続けていたら、富樫君は深い深い、それはそれはふっかいため息をついて私を睨みつけた。
「とにかく、今日の放課後、体育館に来い。や、もう来いっつーか連れてくわ、俺が」
「うわ、一番遠慮する」
「問答無用。言っただろ、その宝の持ち腐れとしか言いようのない運動神経を存分に発揮しろって」
そういった富樫君はそれはそれは鬼ようなあくどい笑みを見せてくれた。
あーもう、絶対悠世が私の取扱説明書とか渡したでしょ。




