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「懐かしいね」なんて笑って、

*******


まだ私が物心つく前の話。

私の家のお隣さんには、可愛らしい男の子がいた。

周りの子たちとは髪の色も目の色も違うその子は、いつもみんなから仲間外れにされていた。

いつも周りの子は「気持ち悪い」とか「ばけもの」とか、いろんなことを言って、その子を気味悪がっていた。

だけど、お隣さんだったから。

そして、親同士が異様に仲が良かったから。

その子とは必然的に仲良くなった。

これがきっと、私とその男の子、一条 旭との出会いだったと思う。

というか、私も同じような、似たような境遇に立たされていた。

日本人とロシア人を両親に持つ私の外見は、ロシア人の母親の血をどうも色濃く継いでしまったようで、茶色の瞳にダークブラウンの髪をしていた。

だからきっと、余計に仲良くなれたのだと思う。

それからというもの、私と旭はいつも一緒にいた。

小学校まで行くと、みんなわかってきたみたいで、なにも言われなくなった。その代わりに「羨ましい」とか「ずるい」なんていう言葉が聞こえるようになった。

そして、いつも隣を歩いていた旭は、歳を重ねるにつれてだんだんとかっこよくなっていった。

周りが放っておかないくらいに、かっこよくなっていった。


「悪い、千歳。俺今日一緒に帰れねぇ」


こんな言葉を中学校に入ってからよく聞くようになった。

別に約束してたわけじゃないし、1人で帰れないわけじゃないからそれでもよかった。

だけどどこかで寂しかった。

私の知らない旭になっていくみたいで。

そう感じていくほどに、私と旭との距離はどんどん離れていった。

半年も経てば、会話なんて全くしなくなった。

きっとこれがダメだったんだろう。

急に母の故郷であるロシアに帰ることになった時もなにも言えなかった。

「さよなら」も「ありがとう」もなにも言えなくて。

代わりに言った言葉を今でも覚えている。


「千歳、何の用?」


久しぶりに聞いた幼馴染の声は苛立っていたように思える。

その声に反応して幼馴染を見れば、隣には知らない女の人がいて。

別に告白するとかそういうわけじゃないけれど、どこかで傷ついた自分がいて。

悔しくて、悔しくて。


「やっぱり何でもない」

「は?呼び出しといてそれはないだろ。あ、告白かなんかだった?」


茶化すように言った旭の顏はどんなだっただろうか。今じゃはっきりとは思い出せない。ただ、そう言った旭に私は顔も見ずにこう言い放ったのだけは覚えてる。


「‥嫌いよ、あんたなんか。大嫌い」

「は?お前本気でそれ言ってんの」

「あんたの顏、見なくなるなら清々する」


その晩、旭から何通ものメールと何件もの着信が携帯に届いていたのを覚えている。

一度もそのメールを開かずに、一度もその留守電を聞かずに、私は携帯から消した。

そして忘れる努力をした。

二度と日本には帰るまいと誓って。

なのに高校生に上がる前に日本に強制送還されてしまった。

そして知ったのは、旭がドイツに留学して日本にいないということだった。



*********************




喧嘩別れをして4年が経った今、こうして会ってしまうなんて。

思いもよらぬアクシデント。

しかもその幼馴染がこんなイケメンに化けて帰って来るなんて。

ドイツで整形でもしたのか、こいつは。

いや、確かに元から顔はよかったけどさ。


「久しぶり、千歳」


もう唖然だ。

二度と会うまいとしていた人に、たった4年の月日で会うことになるなんて。

神様も意地悪だ。

もっとこう、ぎったぎたのめっためたに引き裂いてくれてよかったのに。


「まぁ積もる話もあるけど、それは後でも出来るしな」


なんて意味深な言葉を吐いてくれるんだ。

更に顔を引きつらせる私を見て、一条は楽しそうに笑う。

…ありえない。本当にありえない。


「‥あんたに「一条君ってすごいねぇ~」


言葉を発したとき、それと重なるように甲高い女の子の声が聞こえてきた。一条も驚いたみたいで私と一緒にそちらを見れば、そこには一条を狙う女の子たちがいた。

ぶりぶりっとした態度と甘ったるい話し方がいらっとさせるが、今の私にとっては救いの手にしか見えない。

私は心の中でぶりっこたちにお礼を言うと、逃げるようにして悠世の元へと行った。


「すっごい人気だね、一条」


逃げてきた席には、すでに一条が見えないくらいに女子が集まっていた。

さっき数学の難問を解いたのが相乗効果になってるみたいだ。


「で?面倒くさがりのあんたが甲斐甲斐しく世話してると思ったらなんかあった?まさか惚れた?」

「甲斐甲斐しく世話もしてないし、惚れてもない」

「じゃあなんで数学の授業中にも関わらずあーんなに見つめ合ってたわけ?」

「…‥は?」


誰と誰が見つめ合ってたって?と聞きはしないが目で問うと、悠世は私と女子に囲まれている一条、‥おそらく一条を交互に指差した。


「ないないないない」

「全否定されてもね。写真撮ったけど見る?」


な・ん・で・写真がある!?


「無音カメラってこういう時に役に立つよね」

「そのセリフ盗撮してるオッサンが言うセリフ」

「盗撮してるのには変わりないからね」

「しれっと言うな」

「で?とうとうあんたも恋愛に興味でももった?」


悠世は他人事だと言わんばかりに、いや実際には他人事なんだけど、興味あり気に聞いてくる。本当、こういう野次馬根性だけはどうにかしてほしい。


「恋愛なんて興味ない。必要ない」

「‥またそんなこと言って、」


必要ない。

恋愛なんて。

恋だの愛だの、そんなのいらない。

傷つくくらいなら、そんなもの、いらない。

…もう、あんな思いはしたくない。





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