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鋼を操る男 〜元鉄鋼マンの俺、ハズレスキル【アイアン】で辺境村を鍛え直す〜   作者: 月神世一


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EP 7

最強の鉄鍋と黄金チャーハン

「……最近、リオス君見ないねぇ」

ララサ村の広場。

エルフの少女ルナが、手持ち無沙汰に『世界樹の若木』を振り回しながらぽつりとこぼした。

「あいつ、どこに行ったんだ? 親父殿の特訓から逃げ出したか?」

ヒュンヒュンと木の実を投げ飛ばして遊んでいた豹耳族のシャルムも、首を傾げる。

ここ数日、幼馴染であるリオスの姿が見えなかった。彼が村の大人たちの目を盗んでは、森の奥へ姿を消していることに、2人は気づいていたのだ。

「探してみようか?」

「そうだな! 俺様の優れた嗅覚にかかれば、鉄屑の居場所なんて……ん?」

ふと、シャルムの頭の上にある豹の耳がピクッと動き、鼻がひくひくと動いた。

「どうしたの、シャルム君?」

「……こっちから、すっげぇ美味そうな匂いがする!」

「え? どこどこ?」

「こっちだ! ついてこいルナ!」

シャルムは弾かれたように駆け出した。

風に乗って漂ってくるのは、村の素朴な食事では絶対に嗅ぐことのできない、動物性の油と香ばしい醤油草が焦げる強烈な匂い。

ルナも慌てて彼を追いかけ、森の奥にある『秘密基地(洞穴)』へと辿り着いた。

そこでは。

ジュワアアアアアッ!!!

カンッ! カンカンッ!!

「おらぁっ! しっかり米に卵をコーティング! 火力だ火力! 鉄鍋の熱を逃がすな!!」

前掛けを締め、額に汗を浮かべたリオスが、漆黒の重厚なフライパン(手作り・南部鉄器風)を豪快に振るっていた。

宙を舞うのは、『米麦草』の米粒。それに『トライバード(鳥型魔獣)』の卵が黄金色に絡みつき、刻んだ『シープピッグ』の肉とネギの代わりの薬草が、炎と鉄の熱によって完璧に融合していく。

「お、おい……何をしてるんだ? リオス」

あっけにとられたシャルムが声をかける。

「ふわぁぁぁ……っ、すっごく良い匂いぃ……♡」

ルナはすでに、両手を口元に当ててうっとりとした顔になっていた。

「げ!? シャルムとルナか」

フライパンを振る手を止めず、リオスが振り返る。

秘密の厨房を見られたのは誤算だったが、ちょうど料理が完成するタイミングだった。

「見ての通り、『炒飯チャーハン』を作ってんだよ。今世で初めての強火炒め料理だ。……食うか?」

「チャ、チャーハン? 美味そうな名前だな……」

ゴクリ、とシャルムの喉が鳴る。尻尾はすでに千切れんばかりにパタパタと揺れているが、そこは腐っても将軍家の血筋。彼は無駄なプライドを発揮して、ふんぞり返った。

「よ、よし! 家来の頼みとなれば断れん! 特別にこの俺様が食べてやろう!」

「家来? ……そうか。やっぱりお前には飯食わすの禁止するわ」

リオスは冷たく言い放ち、シャルムの分の皿をスッと下げた。

「うそです! 調子に乗りました! どうか食べさせて下さいリオス君!!」

シャルムは秒で土下座した。

獣の直感というやつだろう。「ここで意地を張れば、一生後悔する美味を逃す」と本能が理解したのだ。

「よろしい。そこに座れ」

「はいっ!!」

犬……いや、従順な豹のように正座するシャルム。

「ふふっ、飲み物も必要よねぇ。私に任せて!」

ルナが嬉しそうに前に出た。

彼女が『世界樹の若木』を軽く振りかざし、満面の笑みで呪文(?)を唱える。

「えいのっ、えいのっ、えいっ★」

ポンッ!というファンシーな音と共に、空間からゴロンと三つの『ココナッツ』のような南国風の果実が生成された。

相変わらず、出力や使い道はおかしいが、とんでもない魔法技術(無からの物質生成)である。

「お、気が利くお姫様だ。助かるぜ」

リオスは手早くナイフを取り出し、器用な手つきでココナッツの頭をスパスパッと切り落とすと、自作の『鉄製ストロー』をプスリと刺して2人に手渡した。

「さぁ、冷めないうちに食え。俺の自信作『黄金チャーハン』だ!」

木のお皿にこんもりと盛られた、黄金色に輝くチャーハン。

湯気と共に立ち上る、油と卵、そして焦がし醤油の暴力的な香りに、5歳児2人はもう限界だった。

「「いただきます!!」」

木のスプーンで掬い、一口食べる。

「…………っ!!?」

シャルムの豹耳が、ピンッ!と垂直に立った。

ルナの瞳孔が、驚きで見開かれた。

パラパラに炒められた米粒。噛むごとに溢れ出すシープピッグ肉の強烈な旨味。卵の甘みと、全体を包み込む油のジャンクな満足感。

「煮る」か「焼く」しかなかった彼らの素朴な食生活に、前世の知恵とチート鉄鍋がもたらした『中華料理の神髄』が、隕石のように直撃した。

「うまぁぁぁぁぁぁぁぁいっ!! なんだこれ!? 米がパラパラなのに味が全部に染み込んでるぞ!? 肉の脂が最高だ!!」

「美味しいよおおお……っ! ほっぺたが落ちちゃう! リオス君、魔法使いみたい!」

バクバクと、それこそ魔獣のようにチャーハンを掻き込むシャルムとルナ。

その様子を見ながら、リオスも自分の分のチャーハンを口に運んだ。

ガツンとくるニンニクの風味。ラードのコク。

「かあああーーーっ!! 美味え!!」

リオスは天を仰いだ。

これだ。これなのだ。

「やっぱり、こういうガツンとしたもんが食いたかったんだぜ……!!」

ココナッツジュースの爽やかな甘みが、チャーハンの油をさっぱりと洗い流し、また次の一口を誘う。無限ループの完成である。

「おかわり! リオス君、俺一生お前の家来でいいからおかわり!!」

「私もぉ! リオス君のお嫁さんになるからおかわりぃ!」

「はいはい、まだあるから順番にな。鍋振るからちょっと待ってろ」

こうして、後の世に『鋼鉄の知将』『双槍の猛獣』『歩く魔法災害』として大陸に名を轟かせる最強パーティーは、一つの重厚な鉄フライパンと、油まみれのチャーハンによって、強固な絆(胃袋)で結ばれたのであった。

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