表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鋼を操る男 〜元鉄鋼マンの俺、ハズレスキル【アイアン】で辺境村を鍛え直す〜   作者: 月神世一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
50/51

EP 7

冷徹なる尋問と、崩れ落ちる巨体

「さぁ、皇帝陛下の御前へご同行願おうか。……拒否権はないよ」

闘技場の薄暗い裏通路。

ルナミス帝国を裏から牛耳る内務官、オルウェルの宣告に、リオスは冷や汗を流しながらも、頭をフル回転させていた。

(……クソッ。こいつ、マジで冗談が通じねぇ)

魔法ポーチの中に隠し持っている『砂鉄』を使って目眩ましをするか?

いや、ダメだ。

「心拍数が急上昇しているね。何か隠し武器(小細工)を使おうとしているなら、やめておきたまえ」

「……っ!」

オルウェルが、氷のような目で俺を射抜く。

「私の『耳』は、君の筋肉の繊維が収縮する音すら聞き取っている。少しでも不審な動きをすれば、君の四肢の関節を即座に外すよ。……国家リヴァイアサンの秩序を乱す異物は、私が徹底的に管理する。君の持つその『未知の技術』は、帝国にとって危険すぎるからね」

完璧な論理と、圧倒的な暴力の裏付け。

この男の前では、一切の嘘も逃走も不可能だ。完全に詰んだ。

「……オルウェル。その少年が、『あの槍』の製作者か」

その時。

通路の奥から、重々しい足音と、金属の鎧が擦れる音が近づいてきた。

(……マジかよ。最悪のタイミングだぜ)

俺は顔を引きつらせた。

現れたのは、帝国最強の武人である近衛騎士団長キュロスと、その護衛に囲まれて歩いてくる初老の男――マルクス皇帝その人だった。

部下からの報告を待つまでもなく、あの槍のヤバさを察知した皇帝自らが、俺を確保スカウトするためにわざわざ貴賓席から降りてきたのだ。

「はっ。陛下、いかがなさいましたか。このような裏通路まで」

オルウェルが恭しく臣下の礼をとる。

「あの規格外の兵器を見たのだ。玉座でふんぞり返ってなどいられんさ」

マルクス皇帝が、疲労の色が濃い顔で俺の前に立ち、その鋭い覇王の眼光で俺を見下ろした。

「……見たところ、ただの学生にしか見えんが。貴様があの『神を殺す槍』を創ったのだな?」

「……さぁ、何のことですかね。俺はただの裏方モブですよ」

俺がとぼけて見せると、キュロス団長が「陛下に向かって何たる無礼な!」と腰の剣に手をかけた。

「よい、キュロス。……少年よ、貴様の才能は帝国が買い上げよう。我々の管理下で、あの槍を量産するのだ。そうすれば、帝国は周辺諸国を完全に沈黙させることが……ゴホッ!!」

皇帝が言葉を発し終える前に。

突然、彼の顔がどす黒い紫色に染まり、喉の奥から奇妙な音が鳴った。

「ゲハァッ!! ガハッ、あ、あぁぁぁ……っ!!」

ドサァッ!!

マルクス皇帝が、胸を激しく掻きむしりながら、石畳の床に崩れ落ちた。

その口から、赤黒い大量の鮮血が吐き出され、帝国の豪奢なマントを汚していく。

「へ、陛下ァァァァッ!?」

キュロス団長が血相を変えて叫ぶ。

「なっ……!?」

常に冷徹だったオルウェルの顔から、初めて余裕が消し飛んだ。

彼は狼の耳をそばだて、床に倒れ伏して痙攣する皇帝の胸の音を聞き、その顔を紙のように青ざめさせた。

「し、しまった! 持病の『血栓(血液の塊)』だ! 先ほどの闘技場の熱気と興奮で血流が急激に変化し、心臓と肺を繋ぐ大血管に巨大な血栓が詰まったんだ!」

「なんだと!? 治癒魔導師! 早く治癒魔導師を呼べ!!」

キュロスが護衛の騎士たちに向かって怒号を飛ばす。

「無駄です!! ここは貴賓席から一番遠い東ゲートの裏通路だ! 結界のせいで転移魔法も使えない! 治癒魔導師が駆けつけるまでに5分はかかる……陛下は、1分も持ちません!!」

オルウェルが絶望的な声を上げた。

「くそっ、そんな……陛下!! 死んではなりません、陛下ァァッ!!」

歴戦の猛将であるキュロスが、何もできずに子どものように泣き叫ぶ。

完璧な情報網と冷徹な論理を誇るオルウェルも、体内での物理的な血管の詰まりという『病』の前には、為す術もなく立ち尽くすことしかできなかった。

(……おいおい。マジかよ)

俺は、死の淵を彷徨う皇帝を見下ろしながら、舌打ちをした。

ここで皇帝が死ねばどうなる?

当然、近衛騎士選抜試験は中止。帝国は次期皇帝の座を巡って内乱に陥り、シャルムが将軍になってこの国を豊かにするという『夢』は、完全に潰える。

(……それだけは、絶対にさせねぇ)

俺は、護衛の騎士たちを掻き分け、血を吐く皇帝の傍らに歩み寄った。

「そこを退け。……俺が診てやる」

「なっ……!? 貴様、何をする気だ!!」

キュロスが俺の胸ぐらを掴もうとする。

「離れろ少年! 君から治癒魔法の匂いは一切しない! 暗殺する気か!」

オルウェルも殺気を放ち、俺を排除しようとした。

「うるせぇ!! 治癒魔法がねぇと人を救えねぇなんて、どこの三流の常識だ!!」

俺の怒号に、帝国最強の二人が一瞬だけ怯む。

「……治癒魔法ファンタジーじゃ、物理的に詰まった血栓は溶かせねぇよ。だがな、俺は『鍛冶師』だ。詰まってるモンがあるなら……物理的に叩き直してやる」

俺は、皇帝の胸ぐらを掴んで仰向けにさせ、その心臓の上――分厚い胸板に、両手を強く押し当てた。

「おい、オオカミの内務官。あんたのその耳、微細な音も聞き取れるんだろ? なら……この『血流』の音を、しっかり聞いとけ」

俺はニヤリと笑い、己のチートスキルを全力で解放した。

「錬成開始。……ターゲット、血中ヘモグロビン(鉄分)!!」

武器を創るためではない。

人の命を救うため。

俺の【アイアン】の魔力が、マルクス皇帝の体内を巡る『鉄』に向かって、圧倒的な光と共に干渉を開始した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ