EP 4
御前試合開幕! 崩れ去る見掛け倒し
「それではこれより、第一試合を開始する! 選手入場!!」
闘技場に鳴り響くアナウンスと共に、西のゲートから数名の騎士たちが意気揚々と姿を現した。
「おおぉっ!! 見ろ、あのアリーナを照らす輝きを!」
「セシル子爵のご子息たちだ! 全員が神話級の武具で揃えているぞ!」
観客席からどよめきと歓声が上がる。
入場してきたのは、ルナに土下座して『幻影魔装』によるコーティングを施してもらった、高等部の貴族のドラ息子たちだった。
彼らの手には、白銀にピカピカと輝く(ように見える)剣や盾が握られ、その眩しさに観客たちは目を奪われていた。
「ふはははっ! 見ろ、この民衆の歓声を! 皇帝陛下も俺たちの輝きに目を細めておられるに違いない!」
セシル子爵令息が、見せかけのミスリル剣を天に掲げてドヤ顔を決める。
だが。
最上段の貴賓席からそれを見下ろしていた近衛騎士団長キュロスの『隻眼』は、冷え切った氷のように細められていた。
「……ミスリルだと? ふん、笑わせるな」
戦場で地獄を見てきた男の目は誤魔化せない。
キュロスは腕を組み、鼻で深く息を吐いた。
「あの程度の武具で勝ち上がれると思っているなら、近衛騎士団を舐めすぎだ。……少し、試してやるか」
キュロスが、玉座に座るマルクス皇帝に軽く一礼した後、闘技場へ向けて一歩前に出た。
「貴様ら!! 皇帝陛下の御前である! その程度の覚悟で、この闘技場の砂をふむつもりかァ!!」
ズゴォォォォォォォンッ!!!
キュロス団長の全身から、目に見えるほどの濃密な『闘気』が、物理的な衝撃波となって闘技場全体に叩きつけられた。
歴戦の将が放つ、純粋な殺気と重圧。
観客席の者たちですら息を呑み、空気が一瞬にして凍りつく。
そして、その圧倒的な闘気を真正面から浴びたドラ息子たちの『見せかけの武器』に、致命的な異変が起きた。
「な、なんだあのプレッシャーは……っ!?」
「ひぃっ……! え……あ、あれ!? お、俺の剣が……!?」
セシルが手元の剣を見て悲鳴を上げた。
ルナが施した『幻影魔装』は、ただ表面に魔力を乗せているだけの極めて不安定な代物だ。そこにキュロスの放つ強力な闘気(対魔法の波動)が激突した結果――。
ジュウゥゥゥゥッ……!
「あぁぁっ!? 溶ける!? 俺のミスリルの剣がドロドロに溶けていくぅぅっ!?」
表面の魔力コーティングが激しく反発し、泡を吹いて溶け落ち始めたのだ。
さらに最悪なことに、魔力の暴走に巻き込まれた『ベースの安物の鉄』の原子構造までが崩壊していく。
ボロッ……ボトボトォッ……。
数秒後。
セシルたちが握っていたピカピカの武器は、見るも無惨な『赤茶けたサビと泥の塊』に変わり果て、闘技場の砂の上にパラパラと崩れ落ちた。
「あ……あぁ……。お、俺の、高級マカロンと引き換えに手に入れた神話級武器が……」
ドラ息子たちは、サビだらけの柄だけを握りしめ、呆然と立ち尽くした。
静まり返っていた観客席から、やがてクスクスと笑い声が漏れ出し、それは瞬く間に闘技場を揺るがすような大爆笑とブーイングへと変わった。
「なんだありゃ! ただのメッキじゃねぇか!」
「皇帝陛下の前でハッタリかまして、自爆しやがったぞ! ぎゃはははっ!」
観客の容赦ない嘲笑が降り注ぐ中、貴賓席のキュロス団長が、怒髪天を突く勢いで怒鳴り声を上げた。
「愚か者どもが!! 神聖なる御前試合に、そのような小細工のゴミ(メッキ)を持ち込むとは何事か!! 貴様らなど戦う価値もない! 全員、失格だ!!」
「そ、そんなぁぁぁぁっ!!」
ドラ息子たちは泣き喚きながら、近衛兵たちに首根っこを掴まれ、闘技場から無様に引きずり出されていった。
* * *
「……あっはは! だから言ったろ。モノの本質を理解してないメッキは、本物の熱を浴びりゃ一瞬で剥がれるんだよ」
観客席の最後列。
俺は、串焼きを頬張りながら、無様に退場していく貴族たちを見て腹を抱えて笑っていた。
その斜め前の席では、ルナが日傘を差しながら、優雅に紅茶を啜っている。
「……ふふっ。ですからわたくし、後でどうなっても知りませんよって、ちゃんと忠告しましたのに。愚かな方々ですわね」
ルナの口元には、極悪な微笑みが浮かんでいた。
圧倒的なざまぁの余韻で、闘技場が笑いに包まれる中。
西のゲートの奥から、静かに、そして確かな闘気を纏った一人の少年が姿を現した。
「……さて。前座の茶番は終わりだ」
俺は串焼きの串をゴミ箱に投げ入れ、身を乗り出した。
「見せてやれ、シャルム。お前の覚悟と、俺の『本物の鉄』の力を」
装飾の一切ない、黒き鋼の『最上の槍』を片手に。
次代の将軍を目指す獣人の少年が、いよいよ御前試合の舞台へとその足を踏み入れた。




