EP 2
怠惰な貴族たちと、エルフの極悪コーティング
徹夜でシャルムのための『最上の槍』を錬成した翌日の昼休み。
俺は中等部の教室で、机に突っ伏して泥のように眠っていた。
「……んあ? なんだ、外が騒がしいな」
窓の外から聞こえてくるやかましい声に目を覚まし、俺は大きく欠伸をしながら中庭を見下ろした。
そこには、来週の『近衛騎士選抜試験』に出場予定の、高等部の貴族のドラ息子たちが5、6人ほど集まっていた。
彼らの中心で困り果てているのは、エルフの女王候補であるうちのクラスのルナだ。
「頼むよルナ嬢! 君のその膨大な魔力で、俺たちの武器に『強化付与』をかけてくれ!」
「平民上がりや、軍の小汚い兵士どもに、この名門貴族の俺たちが負けるわけにはいかないんだ! 君の錬金魔法で、この鉄の剣をミスリルのように輝かせてくれ!」
リーダー格のセシル子爵令息が、ルナに向かって必死に頭を下げている。
どうやら彼らは、毎日の厳しい剣の修行をサボっていたため、手っ取り早く『武器の性能』を魔力で底上げして、御前試合を勝ち抜こうと企んでいるらしい。
「ええ〜……。お断りしますわ。わたくしの魔法は繊細なので、武具の強化なんてしたら、最悪の場合キャベツに変わって爆発しますよ?」
ルナが面倒くさそうに耳をパタパタと揺らして断る。
「そこをなんとか! ほら、謝礼として王都で一番人気の『高級マカロン詰め合わせ』を!」
「あと、最高級の『美容液セット』もつけるから!」
貴族たちがドサッと貢ぎ物をルナの足元に積んだ。
その瞬間、ルナの尖った耳がピクンと反応した。
「……高級マカロン。それに美容液……」
ルナはゴクリと喉を鳴らし、しばらく腕を組んで悩んでいたが、やがて深いため息をついた。
「分かりましたわ。……ですが、後でどうなっても知りませんよ? わたくし、ちゃんと忠告しましたからね?」
「おおっ! 恩に着るぞ!」
ルナはこれ以上ないほど明確な『免罪符』を口にしてから、彼らの安物の鉄の剣や盾に向かって両手をかざした。
「エルフの秘術よ。その身を煌びやかなる幻想で包み込みなさい――『幻影魔装』!」
ルナの手から膨大なエルフの魔力が放たれ、貴族たちの武具を包み込む。
まばゆい光が収まると、そこには先ほどまでの安物の鉄とは見違えるような、白銀にピカピカと輝く『見せかけのミスリル武具』が完成していた。
「す、すげぇぇぇっ!!」
「なんて美しさだ! 軽く振っただけで魔力の刃が飛ぶぞ! これなら近衛騎士団長も一撃で倒せるぜ!!」
ドラ息子たちは大歓喜し、ピカピカの武器を見せびらかしながら中庭を練り歩き始めた。
「ふふん、これでわたくしのおやつは安泰ですわ」と、マカロンを頬張るルナ。
その一部始終を教室の窓から見下ろしていた俺は、呆れ果てて額に手を当てた。
(……アホか、あいつら)
俺の【アイアン】のスキルが持つ『職人の目』には、あの武器の真の構造がハッキリと透けて見えていた。
ルナのかけた魔法は、ただ表面に『超高濃度の魔力』を無理やりコーティングしているだけだ。鉄の原子構造は全く強化されていない。
(あんな不安定な魔力コーティング……普段の素振りならともかく、実戦で高密度の『闘気』を持つ本物の達人と打ち合ったらどうなるか。……表面の魔力が反発して一瞬でドロドロに溶け落ち、中の鉄まで巻き込んで『ただのサビの塊』に変わるぞ)
俺が昨晩、徹夜でミリ単位の重心と空気抵抗を計算して『最上の槍』を創り上げたのに対し、あいつらの武器は、ハリボテのメッキでしかない。
魔法という便利なシステムに頼り切り、モノの『本質』を理解していない連中の末路だ。
「……ま、俺には関係ねぇか。本番の試合が楽しみだな」
俺は「くわぁっ」と大きく欠伸をして、再び机に突っ伏した。
バカな貴族たちが皇帝の御前でどんな無様な姿を晒すのか、今から少しだけ同情してしまう。
そして数日後。
ルナミス帝国の運命を左右する『近衛騎士選抜試験』の当日が、ついにやって来るのだった。




