EP 8
矛盾のシステムエラーと、完全なる暴露
――ガァァァァァァァァンッッ!!!
ラピス村の広場で、二つの理不尽な力が激突した。
ネフェリムの魔人ミラースが放つ、万物を概念ごと両断するチートスキル【ソード】の漆黒の刃。
そして、俺が【ブレイブ】のリミットブレイクで得た神の魔力を全振りして創り出した、絶対防御の超硬度タングステン鋼の大剣。
相反する『絶対に斬る刃』と『絶対に壊れない盾』がぶつかり合った瞬間、周囲の空間がバチバチと赤黒い火花を散らして歪んだ。
《 エラー発生。致命的な矛盾を検知しました 》
《 『絶対切断』と『絶対防御』の衝突により、システムの演算が限界を突破。両スキルの機能を、一時的に強制停止します 》
ピシッ……! パァァンッ!!
システム音声が脳内に響いた直後、ミラースの妖刀と、俺の鋼の大剣が、同時に限界を迎えて粉々に砕け散った。
「な、なんだとォッ!? 俺の妖刀が……俺の最強のスキルが消えただと!?」
ミラースが、手の中に残った柄を見て驚愕の声を上げる。
「……ハッ。上等だ」
俺は、砕け散った鋼の破片を一瞥し、ニヤリと口角を上げた。
武器が消え、チートスキルがフリーズした。なら、最後に行き着くのは一つしかない。
「小細工抜きの『殴り合い宇宙』だ。……歯を食いしばれよ、三流魔人!!」
俺は両の拳を固く握りしめ、地面を蹴った。
スキルの強制停止で魔法は使えなくなっても、俺の肉体には【ブレイブ】の隠し条件クリアによる『神のステータス(基礎筋力)』がまだ激しく共鳴し、漲っている!
「ふ、ふざけるなァ! 俺は魔王に……ごふぁッ!?」
ドンッ!!
俺の右ストレートが、ミラースの顔面にクリーンヒットした。
神の筋力が乗った、ただの純粋な暴力。その圧倒的な衝撃に、巨漢のネフェリムが紙くずのように吹き飛び、村の廃屋の壁を何枚もぶち抜いて瓦礫に埋もれた。
「あば……ッ、がはっ……!」
「これは、ダイヤ先生の分だ!」
瓦礫から這い出ようとするミラースの胸ぐらを掴み、俺は容赦なく拳を叩き込む。
「そしてこれが、てめぇらの薄っぺらいヤラセで泣かされた、村の奴らの分だ!!」
ドゴォォォォンッ!!
最後の一撃が、ミラースの意識を完全に刈り取った。
白目を剥き、地面に大の字になって倒れ伏す魔人。圧倒的蹂躙。チート同士の戦いは、泥臭くも純粋な『魂の乗った拳』によって決着がついた。
「……ふぅ」
俺は拳の血を払い、静かに息を吐いた。
村を包んでいた黒炎が消え、静寂が戻ってくる。気絶したミラースをシャルムたちが縛り上げているのを横目に、俺は泥水の中に落ちていた『魔導カメラ』を拾い上げた。
青いランプは、まだ点滅している。
(さて。俺のダチを傷つけた落とし前……キッチリ払わせてもらうぞ、神様よ)
俺は魔法ポーチから、オロチ商会で使っている特殊な通信端末を取り出し、魔導カメラの基盤に物理的に接続した。
戦闘が始まる前から、俺は密かにオロチの裏回線を使って、このカメラのシステム権限を奪っていたのだ。
ピピッ、と空中にホログラムの画面が浮かび上がる。
「裏のフィクサーを舐めんなよ。……てめぇらの薄汚い舞台裏、全世界にお届けしてやる」
俺は、記録領域に保存してあった『二つのデータ』を選択し、ゴッドチューブの全チャンネルに向けて【無編集・ゲリラ生配信】のボタンを押した。
一つは、先ほど勇者ゼロスが「俺の命の方が大事だ!」と泣き叫びながら、村人を見捨てて無様に逃げ出す無修正の映像。
もう一つは、カメラの集音マイクが拾っていた、炎上神ワイズの通信音声。
『親の前で子供が泣き叫び、家が燃え、もうダメだと思った最高の瞬間にゼロスを投入する。悲劇と英雄はセットだ』という、あの非道なヤラセの打ち合わせ音声である。
送信完了。
その瞬間、世界中のネットワークの歴史が変わった。
* * *
『な、なんだこれはぁぁぁぁっ!?』
天界の神殿。
炎上神ワイズは、自身のエンジェルすまーとふぉんの画面を見て絶叫していた。
『警告。無編集の真実データが全世界に拡散されました。PVが逆回転を開始。低評価が1億を突破。現在の広告収益……マイナス9999万ゴールドです』
内蔵AI賢者君の無機質な音声が、死刑宣告のように響き渡る。
「嘘だろ!? 俺のアカウントが! 俺の神としての名声がぁぁっ!!」
ドカァァァンッ!!
その時、神殿の豪華な扉が蹴り破られた。
ズカズカと踏み込んできたのは、黒いスーツに身を包み、黒いサングラスをかけた、筋骨隆々の『黒服天使(借金取り)』たちだった。
「ワイズ様ですね。エンジェルすまーとふぉんの上限額100万円、ならびに多額の違約金の未払いを確認しました」
「ま、待て! 俺は神だぞ! ちょっと待てばすぐにPVを稼いで……!」
「問答無用。マグローザ漁船行きです」
黒服天使たちは抵抗するワイズの首根っこを掴むと、彼を無理やり折りたたむようにして、巨大な黒いスーツケースの中にギュウギュウに詰め込んだ。
「ぎゃああああ! 暗い! 狭い! やめろおおぉぉっ!!」
ジッパーが乱暴に閉められ、炎上神の断末魔は天界から完全に消え去った。
* * *
一方、下界の王都。
折れた両腕を抱え、路地裏を逃げ惑っていた勇者ゼロスは、街頭の巨大な魔導ビジョンに映し出された『自分の無様な逃走劇』と『ヤラセの真実』を見て絶望に膝をついていた。
「ああっ……! 俺の、俺の完璧な顔が……!」
「いたぞ! あのペテン師勇者だ!!」
「今まで俺たちの寄付金を騙し取ってやがったな!!」
真実を知り、激怒した民衆たちが暴徒と化してゼロスを取り囲む。
石が投げられ、ゴミがぶつけられ、ハリボテのミスリルマントは泥にまみれた。さらに、彼のユニークスキル【マネー】で借金を重ねていた金融ギルドの取り立て屋までが殺到してくる。
偽りの英雄と、狂った炎上神。
彼らの築き上げた虚構は、名もなき裏方の少年の手によって、完膚なきまでに叩き潰されたのである。




