EP 7
打算なき勇気と、限界突破の鋼
逃げ惑う村人の悲鳴と、家屋が焼け落ちる轟音が支配するラピス村。
その地獄の広場のど真ん中へ、ゆっくりと歩み出た少年――リオスを見て、ネフェリムの魔人ミラースは怪訝そうに眉をひそめた後、腹を抱えて大爆笑した。
「クハハハハッ! なんだてめぇは! さっきのイケメン勇者の残りカスか!? おいおい、魔力も筋力も、その辺の道端のスライム以下じゃねぇか!!」
ミラースの言う通りだった。
ルチアナから押し付けられたスキル【ブレイブ】の仕様により、支持率ゼロの俺のステータスは「全能力-99%」。
立っているのがやっとで、重い鉄すらまともに錬成できない虚弱体質だ。
「リオス! ダメだ、下がれ!!」
血に染まったダイヤ先生が、痛みを堪えて叫ぶ。
「無茶ですの! 死んじゃいますぅ!!」
「俺たちが囮になる! リオスは逃げろ!!」
リーザが泣き叫び、シャルムが折れた木剣を構えて俺の前に出ようとする。
だが、俺は片手でシャルムを制し、一歩、また一歩とミラースとの距離を詰めた。
ゼロスが逃げ去る際に放り捨てた『魔導カメラ』が、足元の泥水の中で虚しく青いランプを点滅させている。
「ハッ。カメラが回ってるから、てめぇも英雄ごっこ(PV稼ぎ)がしたいのか?」
ミラースが妖刀『哭刀』を肩に担ぎ、冷酷な笑みを浮かべる。
「……別に。俺はヒーローになる気なんて、これっぽっちもねぇよ」
俺は、泥に沈んだ魔導カメラを、靴の踵で無造作に蹴り飛ばした。
「誰にどう思われようが、支持率がゼロだろうが、そんなもんはどうでもいい」
ゼロスのように、名声や金のために戦うわけじゃない。
ワイズのように、他人の命を数字(PV)として楽しむ趣味もない。
ただ。
「俺は……俺のダチの『夢』を邪魔するクソ野郎は、裏方の俺が全部叩き潰すって、そう決めただけだ」
たとえこの体がスライム以下だろうと。
勝算がゼロだろうと。
仲間を、この理不尽な理屈で殺させるわけにはいかない。
俺が、まっすぐにミラースの目を睨みつけた、その瞬間だった。
《 ピーガガッ……条件クリア。シークレット・トリガーを確認しました 》
俺の脳内に、無機質なシステム音声が鳴り響いた。
「……あ?」
《 『誰の目も気にせず』『見返りを一切求めず』『弱者と仲間を守るために』『圧倒的な格上へ立ち向かう』――『打算なき勇気』の証明を承認 》
それは、世界を創造した女神ルチアナすら仕様書の隅に追いやり、忘れていた【ブレイブ】の隠し設定。
承認欲求だけで回る薄っぺらい勇者システムに仕組まれた、唯一にして究極の『リミットブレイク』。
《 スキル【ブレイブ】・クライシス・スパイク(奇跡の顕現)を発動します。民衆の支持率を強制解除(無視)。魂の共鳴率1000%――ステータスの限界突破を開始 》
「な、なんだ……!?」
ミラースが驚愕の声を上げた。
ドクンッ!! と、俺の心臓が爆発的な音を立てて跳ねた。
先程までスライム以下に落ち込んでいたステータスボードの数値が、狂ったように回転を始める。
100、1万、100万、1億――計測不能。
「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉっ!!」
俺の体から、黄金に輝く凄まじい『闘気(魔力)』が天を衝く火柱のように噴き上がった。
足元の泥が吹き飛び、周囲の炎がかき消される。
【マネー】で無理やり引き上げたゼロスのハリボテとは違う。俺自身の魂の決意と完全に共鳴した、神すらも超越する本物の力。
「バ、バカな……っ! なんだその魔力は! てめぇはただの底辺のモブだろうが!!」
ミラースが顔を引きつらせ、妖刀を両手で構える。
「俺はモブでいい。……だが、俺が創り出す『鉄』は、モブじゃねぇぞ」
俺は跳ね上がった神の領域の魔力を、惜しげもなく自身のもう一つのスキル【アイアン】へと全振りした。
現代の鉄鋼知識と、神の魔力の融合。
「泥臭い鉄だって、限界まで鍛えりゃあ……神をも殺す剣になるんだよ!!」
俺が両手をすり合わせると、圧倒的な魔力の光の中から、一本の剣が錬成された。
それは、ミスリルのように美しくもなく、オリハルコンのように輝いてもいない。
ただひたすらに重く、黒く、高密度に圧縮された『超硬度タングステン鋼』の極太の大剣。
【真・鋼の剣】。
「ふざけるなァァッ!! 俺の【ソード】は概念すらも斬り裂く!! そんな泥臭いナマクラごと、てめぇを両断してやる!!」
ミラースが絶叫し、漆黒のオーラを纏った妖刀『哭刀』を全力で振り下ろしてくる。
俺は、全身に漲る神の魔力と共に、黒き鋼の大剣を真っ向からかち上げた。
「――ぶっ壊れろ!!」
絶対に全てを斬り裂く妖刀と、神の魔力で極限まで硬度を高めた絶対防御の鋼の剣。
二つの理不尽なチートが、村の広場のど真ん中で激突した。




