EP 4
炎上神の筋書きと、エンジェルすまーとふぉん
天界の片隅に建てられた、趣味の悪い金ピカの神殿。
その最奥にある豪華なソファに深く寝そべりながら、新入りの男神ワイズは、手元の『エンジェルすまーとふぉん』の画面を見て、ニチャァと醜悪な笑みを浮かべていた。
『悲劇の淵で震える子羊たちよ、もう安心だ!!』
画面の中で、勇者ゼロスがサイクロプス・ベアを両断し、白い歯をキラリと光らせている。
ゴッドチューブにアップロードされたその動画は、瞬く間に天界や下界のネットワークで拡散され、右肩上がりでPV(再生数)を稼ぎ出していた。
「クックックッ! チョロい! チョロすぎるぜ人間ども!!」
ワイズは足をバタバタとさせながら歓喜の声を上げた。
「あんなの、魔獣が出るタイミングに合わせて勇者を投入しただけの、ただのマッチポンプだぞ? それなのに『感動した!』『勇者ゼロス様最高!』だとよ。……はっ! 『群衆心理』って奴は本当に笑えるぜ。理屈じゃなく、ただ感情でしか動けねぇバカの集まりだ」
『その通りでございます、ワイズ様。現在、ゼロス様の動画による広告収益は、金貨300枚を突破いたしました』
エンジェルすまーとふぉんから、合成音声のような滑らかな声が響いた。
月額1万円の課金オプションで搭載される『内蔵AI賢者君(有料版)』である。無料版は一日三回しか質問に答えてくれない塩対応だが、課金すれば24時間、このように親切丁寧にご機嫌を取ってくれるのだ。
「いいぞぉ賢者君! だが、こんな単発の『野良魔獣討伐』じゃあ、大きく稼ぐには物足りねぇ。……そろそろ、一発デカい『花火(悲劇)』が必要だな」
ワイズは、自身の本棚に並べられた『影響力の武器』や『君主論』といった愛読書を満足げに眺めながら、エンジェルすまーとふぉんの操作パネルを開いた。
「賢者君、次の『ロケ地』の候補は?」
『現在、もっとも絵になる(PVが稼げる)と推測されるのは、王都から離れた辺境の開拓村【ラピス村】です。防壁も貧弱で、逃げ惑う村民の絶望の表情が、非常に鮮明に撮影可能かと』
「完璧だ。それで行こう」
ワイズは鼻歌交じりに、裏回線の通信アプリを立ち上げた。
発信先は、本来なら神である彼が絶対に連絡を取ってはいけない相手――魔王軍に所属するネフェリムの男、ミラースである。
『……何の用だ、ワイズ。俺は今、妖刀の素振りで忙しいんだがな』
画面の向こうに、禍々しい『哭刀』を担いだミラースの姿が映し出された。
「ククッ、そうつれない事言うなよ、相棒。次の仕事の依頼だ。……標的は【ラピス村】。お前の得意な闇魔法と召喚獣で、派手に村を焼き討ちしてくれ」
『ほう? また、あのムカつくイケメン勇者の引き立て役をやれと?』
「あぁ、頼むぜ。まずは村人を存分に絶望させてくれ。親の前で子供が泣き叫び、家が燃え、もうダメだと思ったその最高の瞬間に、俺がゼロスを投入する。……悲劇と英雄は、セットで提供してこそ最高のエンタメ(PV)になるんだよ」
ワイズは悪びれもせず、人間をコンテンツ(数字)としてしか見ていない狂気の持論を語った。
『……ククッ、クハハハハ! 相変わらずゲスい神様だぜ。まぁいい。俺にとっても、魔王へ成り上がるための良い軍資金稼ぎになる。村一つ、更地にしてやるよ』
「ギャラは弾むぜ? 俺のエンジェルすまーとふぉんは『ブラックカード(上限無限)』だからな。ステータス上昇バフでも何でも、タダでかけてやるよ」
『助かるぜ。……ラピス村だな。今日の夕暮れには、地獄に変えてやるよ』
ブツッ、と通信が切れた。
ワイズはソファから立ち上がり、神殿の窓から広がる下界の景色を見下ろした。
「さぁて、最高のステージを用意してやるぜ、ゼロス。……たくさん死人が出りゃあ、それだけPVは跳ね上がる! 死んだ奴らも、ゴッドチューブの肥やしになれて本望だろうよ!!」
誰も悪の神を止める者はいない。
ワイズは狂ったように高笑いしながら、次の配信のサムネイル画像の作成に取り掛かった。
自分が書いた台本の結末が、名もなき『支持率ゼロの村人以下の少年』によって、完膚なきまでにぶっ壊されることなど、微塵も想像しないまま。




