EP 2
支持率ゼロの最弱勇者と、辺境への野外演習
「……っんんんッ!! お、重ぇ……っ!」
ルナミス学園、中等部の教室。
朝のホームルーム前、俺は自分の席で、床に置いた通学カバンを持ち上げようとして、顔を真っ赤にして震えていた。
「どうしたリオス? 便秘か?」
隣の席のシャルムが、不思議そうにこちらを覗き込んでくる。
「ち、違う……っ! ちょっと、筋トレをな……!」
俺は必死に誤魔化しながら、机の下で密かに【アイアン】のスキルを発動させた。
手首から腕にかけて、服の下に薄く強靭な『鉄の外骨格』を錬成する。ウィーン、という微かな駆動音と共に、鉛のように重かったカバンがようやく持ち上がった。
(はぁ、はぁ……。冗談じゃねぇぞ、あのクソ女神のぼったくりスキル……っ)
俺は冷や汗を拭いながら、心の中で悪態をついた。
昨日、金貨1枚でルチアナから付与されたユニークスキル【ブレイブ】。
『民衆からの支持率でステータスが跳ね上がる』というインフルエンサー特化型のこのスキルは、逆に言えば『知名度がゼロだとステータスが極限まで下がる』という致命的なバグ(仕様)を抱えていた。
現在の俺の支持率、堂々の『0%』。
その結果、俺の基礎体力や筋力は「全ステータス-99%」という、その辺の道端を跳ねているスライム以下の虚弱体質に成り下がっていたのである。
(だがまぁ、別に困らねぇか)
俺は錬成した鉄の外骨格を解除し、カバンを机の横に掛けた。
そもそも俺は、剣を振って最前線で戦うようなガラじゃない。俺の本当の武器は、前世の鉄鋼知識と【アイアン】による圧倒的なモノづくり(チート)だ。
腕力が足りないなら鉄の重機を作ればいい。防御力が無いなら鋼鉄の装甲車に乗ればいいだけの話である。
「うむ。お前ら、席に着け」
ガラッ、と教室の扉が開き、担任のダイヤ先生が入ってきた。
手には相変わらず、ルナミス帝国軍から二束三文で払い下げられた安物の戦闘糧食のパウチが握られている。
「来週から、学園の恒例行事である『野外演習』を行う。場所は、王都から馬車で三日ほど離れた辺境の開拓村『ラピス村』だ」
ダイヤ先生が黒板にチョークで村の名前を書き殴る。
「野外演習……ですか?」
キャルルがウサギの耳をピクッと動かして尋ねた。
「あぁ。お前らも中等部になって、いっぱしの魔法や武術を身につけたからな。実際の村に滞在して、周辺の森での素材採取や、弱い魔獣の討伐、そして村人たちとの交流を行う。……まぁ、ラピス村は平和な農村だから、ピクニック気分で問題ないだろう」
「わぁっ! じゃあ私、村の広場でみかん箱のステージを組んで、村民の皆さんに歌を披露してもいいですか!?」
リーザが目を輝かせて挙手する。
「却下だ。お前の歌(バフ魔法)で村の農民たちがバーサーカー化したら誰が責任取るんだ。おとなしく芋を掘ってろ」
「ええーっ!?」
ダイヤ先生の的確なツッコミに、教室中から笑いが起こる。
和やかな雰囲気の中、シャルムは手元の木剣を軽く握り直し、静かに闘気を練っていた。
「辺境での実戦演習か……。腕が鳴るな」
「張り切りすぎるなよ、次期将軍サマ」
俺は苦笑しながら、魔法ポーチの中身を頭の中でリストアップし始めた。
辺境の村での演習。万が一に備えて、罠の素材や、携帯用の魔導コンロ、そして【アイアン】で即席の武器を作るための純度の高い砂鉄を多めに補充しておいた方が良さそうだ。
「よし、今日は演習の班分けを決めるぞ! ……あ、リオス。今日の昼飯はなんだ? 先生、このパサパサのクッキー(ミリメシ)にそろそろ限界を感じていてな……」
「はいはい。今日は手作りのメンチカツサンドですよ」
「うおおおおっ! さすが俺たちのオカン! 一生ついていくぞ!」
S級教師がスライム以下の生徒(俺)に胃袋を完全に掌握されているという、情けない光景が繰り広げられる。
平和な学園生活。
俺たち落ちこぼれ(VIP)クラスの面々は、来週からの野外演習に胸を躍らせていた。
だが、この時の俺たちは、誰も知る由もなかった。
俺たちが向かうその平和な辺境の村が――神界の『炎上神ワイズ』によって、意図的に仕組まれた『最悪の悲劇のヤラセ舞台』としてロックオンされていることなど。
――そして、支持率ゼロの最弱勇者と、PVの亡者である偽りの勇者が、その地で最悪の邂逅を果たすことなど。




