第四章 偽りの英雄・炎上神討伐編
怪しいアンテナショップと悪徳女神
学園祭の熱狂から、3年の月日が流れた。
ルナミス学園の高等部に進学した俺たちも、今年で16歳。
シャルムは武術大会で圧倒的な実力を見せつけて次期将軍候補として名を馳せ、ルナは相変わらずキャベツを爆発させながらもエルフの女王としての威厳(?)を身につけつつある。キャルルやリーザも、それぞれの夢に向かって順調にステップアップしていた。
そして、俺はというと。
「ふぅ……。オロチ会長との裏取引も、随分とデカい額になってきたな」
王都の裏路地を歩きながら、俺は魔法ポーチの中でジャラジャラと鳴る金貨の音を聞いて、一人ほくそ笑んでいた。
この3年間で、俺の『裏のフィクサー(プロデューサー)』としての活動は完全に軌道に乗っていた。【アイアン】のスキルで作った高性能な鉄鋼部品をオロチ商会に横流しし、莫大な裏金と王都の暗部におけるコネクションを構築。
表向きは「目立たない平凡な高等部生徒」、裏では「幼馴染たちの障害を金と鉄で物理的に排除する影の支配者」。我ながら、完璧な二重生活である。
そんな風に、気ままに王都の裏路地を散策していた時のことだった。
「ん……? なんだ、あの胡散臭い店は」
薄暗い路地裏のドン突き。
そこに、周囲の景観から完全に浮いている、ド派手なピンク色の看板を掲げたプレハブ小屋が建っていた。
看板には、こう書かれている。
『女神直営・アンテナショップ! 誰でも簡単・勇者登録センター!(※各種ローン対応)』
「……嫌な予感しかしない」
だが、俺の【アイアン】のスキルが持つ『モノづくりセンサー』が、なぜかその店から強烈な胡散臭さを感知していた。
好奇心に負け、俺はギィッと古びたドアを開けて店内に入った。
「いらっしゃいませぇーっ! 未来の勇者様!」
カウンターの奥から飛び出してきたのは、鼻眼鏡と付け髭という、昭和のコントのような雑すぎる変装をした金髪の女だった。
「(……ルチアナ、何やってんだお前)」
俺は一瞬で正体を見破ったが、あえて突っ込まないことにした。
世界を創造した女神ルチアナ。時折こうして下界に降りてきては、同人誌を描いたり、ろくでもない商売をしている駄女神である。
「お兄さん、見どころありますねぇ! どうです、今ならなんと『金貨1枚(約1万円)』で、ユニークスキル【ブレイブ】を付与して、勇者としてギルド登録できちゃいますよ!」
「は? 金貨1枚で、勇者になれる? そんな簡単にユニークスキルって付与できるのか?」
俺は目を丸くした。
「ええ、ええ! 最近は『インフルエンサー勇者』がトレンドですからね! この【ブレイブ】は、民衆の支持率に比例してステータスが跳ね上がる、今一番ナウでヤングなスキルなんですぅ!」
なるほど。承認欲求の塊みたいな現代のシステムをスキル化したというわけか。
俺は少し考えた。
フィクサーとして暗躍する俺にとって、手札は多いに越したことはない。【アイアン】に加えて、もう一つユニークスキルを持っていれば、いざという時の隠し玉になるかもしれない。
「……まぁ、金貨1枚なら安いか。よし、登録してくれ」
「毎度ありぃっ!!」
ルチアナがポンッと俺の肩を叩いた瞬間。
俺のステータスボードに、新たに【ブレイブ】という文字が刻まれた。
異世界でも極めて稀な、『ダブルスキル持ち』の誕生である。
だが、ルチアナの胡散臭い営業スマイルは、ここからが本番だった。
「さぁて、勇者登録を済ませたお兄さん! 手ぶらで冒険には行けませんよね? 今ならなんと!」
ルチアナがカウンターの下から、ゴトッと音を立てて『鉄の鎧、鉄の剣、鉄の盾』のセットを取り出した。
「こちらの『勇者スターターキット』が、たったの100万円(金貨100枚)で買えちゃうんです! どうです!? 今なら36回払いも可能ですよ!」
「…………」
俺は、その『鉄の装備』をジト目で観察した。
【アイアン】のスキルを持つ俺の目をごまかせるはずがない。
(なんだこの粗悪品は……。鉄の純度もボロボロ、刃こぼれしやすいし、鎧の継ぎ目も甘い。どう見ても下請けに大量生産させた安物……原価で言えば、せいぜい1万円(金貨1枚)がいいところだぞ)
それを100倍の値段でふっかけるだと?
神という立場を利用した、究極の情弱ビジネス(ぼったくり)じゃないか。
「さぁさぁ! このスターターキットを買わないと、勇者としてクエストも受けられませんよぉ? サインはこちらに……」
ルチアナがニヤニヤしながら契約書を突きつけてきた。
俺は深く息を吸い込み、路地裏に響き渡るような大声で叫んだ。
「――ガオガオオオオオン!! おい!! ここに詐欺師が居るぞおおお!! 誰か、聖獣機神ガオガオンを呼んでくれええぇぇ!!」
「ひっ!? あわわわわっ!!?」
俺の口から出た『天敵』の名前に、ルチアナはビクゥッと飛び上がり、付け髭をポロリと落として大パニックに陥った。
「う、嘘です! ただのブラックジョークですぅぅ!! だから通報だけは、通報だけはご勘弁をぉぉっ!!」
「チッ。神の分際で阿漕な商売してんじゃねぇよ。スターターキットは要らねぇ。俺は帰る」
俺は涙目で土下座する駄女神を放置し、呆れ顔でアンテナショップを後にした。
「やれやれ。変なスキルをもらっちまったな……」
俺は路地裏を歩きながら、自身のステータスボードを確認した。
付与されたばかりの【ブレイブ】。
そのステータス補正値を見て、俺は思わず吹き出しそうになった。
【現在の民衆支持率:0%(知名度ゼロ)】
【ステータス補正:全能力-99%(※スライム以下の虚弱体質)】
「……あっはは! なんだこりゃ。裏方の俺には、完全に死にスキルじゃねぇか」
誰にも知られず、影で暗躍することを信条とする俺にとって、「民衆からの支持」など得られるはずもない。当然、ステータスは最弱まで落ち下がる。
普段は【アイアン】のチートがあるから問題ないが、この【ブレイブ】のスキルだけ見れば、俺は間違いなく『世界最弱の勇者』だ。
だが、この時の俺はまだ知らなかった。
このふざけた仕様のスキルに『隠された真のトリガー』が存在することなど。
そして、このスキルが――間もなく王都を揺るがす『炎上の神』と『偽りの英雄』を、物理的に粉砕するための、最強のカウンターになることなど。




