表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鋼を操る男 〜元鉄鋼マンの俺、ハズレスキル【アイアン】で辺境村を鍛え直す〜   作者: 月神世一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
32/51

EP 9

Love & Moneyと、ひれ伏す観客たち

巨大な鋼鉄のドームステージを見上げる観客席の最前列では、陣取っていた上級生貴族たちが下品なヤジを飛ばし続けていた。

「おいおい、いつまで待たせる気だ!」

「無駄にデカい鉄屑のステージを作っただけで、肝心の演者が逃げ出したんじゃないのか?」

「ハッ! どうせ泥まみれの平民女が出てきて、みすぼらしい歌を……」

――パァンッ!!

その時、会場全体を照らしていた無数の魔導照明が、一斉に暗転した。

騒ぎ立てていた貴族たちの声が止まり、数千人の観客が息を呑む。

圧倒的な静寂の中。

漆黒に包まれたステージの奥から、足音が響き始めた。

コツ……、コツ……、コツ……。

鉄の床を叩く、硬質なハイヒールの音。

それに合わせて、頭上のピンスポット照明がカッと一筋の光を落とし、ステージの中央に立つ『一人の少女』の姿を闇から浮かび上がらせた。

「なっ……」

貴族のリーダー格が、絶句して目を見開く。

クラスメイトたちですら、信じられないものを見るように息を止めた。

(あれが……いつも芋ジャージを着て、パンの耳をかじっているリーザ……!?)

(何だ、あの美少女は……っ!)

そこに立っていたのは、海より深く透き通る水色の髪をなびかせ、真紅のフリルが幾重にも重なる豪奢なドレスに身を包んだ、絶世の美少女だった。

底辺を這いずり回る生活臭など微塵もない。そこにいるのは間違いなく、高貴なる海中国家の第一王女にして、天性の『アイドル』。

静まり返る数千人の観客を見下ろし、リーザはマイクを両手で握りしめた。

恐怖はもうない。彼女の瞳には、全てを奪い尽くす強欲で純粋な光が宿っていた。

「私は運命……。私は物語……」

艶やかで、それでいて芯のある凛とした声が、鋼鉄のドームの反響機能によって会場の隅々にまで響き渡る。

「貴方達の全てを、ちょうだい♡」

その甘い悪魔のような囁きと共に、軽快でポップなイントロが弾けた。

リーザの真骨頂、本気ガチのステージ。

『Love & Money』の開幕である。

♪〜

「愛! アイ! 愛! アイ! ラ〜ブラブ!」

リーザがステップを踏み、歌い始めた瞬間。

彼女の声に乗って、目に見えない『人魚の魔法バフ』の波動が会場全体に広がった。

(Fu Fu!)

「マネー! マネ! ローン! ダーリン! グ!」

(Yeah!!)

「な、なんだこれは……っ!?」

ヤジを飛ばしていた貴族たちが、己の体に起きている異変に気づく。

ただの歌ではない。彼女の歌声を聴いた瞬間、日々の疲労が吹き飛び、視界がクリアになり、全身の細胞が歓喜に震え始めたのだ。

「朝に目覚ましが鳴ったわ」

(ジリリリ!)――観客の誰かが、無意識に叫んでいた。

「私はまだ眠いわ」

(おはよー!)――いつの間にか、貴族たちも声を揃えていた。

「朝シャンしなきゃ」(Fu!)

「朝メニュー食べなきゃ」(パクパク!)

「鏡の前で メイクをしなきゃ」

(魔法をかけて〜!)

人魚姫の歌声がもたらす極上の多幸感。

歌詞はとてつもなく強欲で俗物的なのに、彼女の純粋な歌声を通すことで、それはまるで女神の祝福のように観客の魂を揺さぶっていく。

「さぁショーの始まりよ」(It’s Show Time!)

「のんびりな私は 1LDKに置いて行くわ」(バイバイ!)

「扉を開ければ 私が主人公」

(オ・レ・の! アイドルー!)

熱狂の渦。数千人の観客が、完全にリーザの魔法に魅了され、我を忘れてコールを叫んでいた。

「今日も私の為に世界が動く」(まわって!まわって!)

「全て上手くいくわ」(絶対!)

「愛も富も一つの物」(どっちもちょーだい!)

「ダイヤが欲しい♪ 土地も欲しい♪」(Want You! Want You!)

「貴方の(とキャッシュ)で生きていける」(Fuuu〜!)

「おおおおっ!! 俺の土地の権利書を持っていってくれぇぇ!!」

先程までリーザを鼻で笑っていた上級生貴族が、ボロボロと涙を流しながら財布を取り出し、金貨をステージに向かって投げ(スパチャし)始めた。

「だから私は 銀河の果てまで歌って行けるわ」

「だから、何処までもついて来てね♡」

(一生ついていくよー!!)

「ダーリン!」

(チュッ♡)

投げキッスが放たれるたびに、会場から断末魔のような歓喜の悲鳴が上がる。

「夕方の鐘が鳴ったわ」(キンコンカン!)

「お腹はもうペコペコよ」(ぐ〜!)

「スーパーのシール見なきゃ」(半額!)

「ポイントカードも出さなきゃ」(ピッ!ピッ!)

「家賃のために 節約しなきゃ」(現実はシビア〜! ガマン!)

底辺ポイ活生活のリアルすぎる実体験が歌詞に謎の説得力を生み、観客の涙を誘う。

「さぁ魔法の時間の始まりよ」(Change The World!)

「地味な私は 楽屋に置いて行くわ」(バイバイ!)

「マイクを握れば 私が女王様」

(オ・レ・の! 女王様ー!)

「今夜も私の為に星が降る」(ひかって!ひかって!)

「全部手に入れるわ」(強欲!)

「夢も金貨も輝くもの」(どっちも好きー!)

「株券欲しい♪ お城も欲しい♪」(Buy Now! Buy Now!)

「貴方の愛(と貢ぎ)で輝いていける」(Fuuu〜!)

「だから私は 銀河の果てまで歌って行けるわ」

「だから、何処までもついて来てね♡」

(一生ついていくよー!!)

「ダーリン!」

(チュッ♡)

間奏に入ると、リーザはマイクを両手で握り、観客一人一人を見つめるように微笑んだ。

「だって女の子だもん 夢見るだけじゃお腹は空くの」

「綺麗なドレスも ガラスの靴も 維持費がかかるのよ」

(そうだー!!)

「だから…もっともっと、愛して(課金して)ね? 覚悟はいい?」

ズキュンッ!!

数千人の観客の心臓が、物理的な衝撃を受けたように跳ねた。

「世界中が私の為に愛を叫ぶ」(まわって!まわって!)

「全部抱きしめるわ」(最強!)

「愛も富も同じ輝き」(どっちも本物ー!)

「ダイヤも株も♪ 土地も愛も♪」(All Need! All Need!)

「貴方の全て(人生)を背負って生きていける」(Fuuu〜!)

「うおおおおおおおおっ!! 俺の人生すべてを捧げます女王様ぁぁぁ!!」

「だから私は 銀河の果てまで歌って行けるわ」

「だから、何処までもついて来てね♡」

(一生ついていくよー!!)

「ダーリン!」

(チュッ♡)

ジャーン! ……ジャン!

(チャリーン♪)

最後に、お賽銭箱に硬貨が落ちるような幻聴(SE)と共に、曲がピタリと終わる。

直後。

鋼鉄のドームが崩れ落ちんばかりの、割れんばかりの大歓声と拍手が爆発した。

「リーザ!」「女王様!」「俺の口座番号だ受け取ってくれ!」と、狂乱の渦が巻き起こる。

ステージの袖。

【アイアン】で組み上げた音響反響板の調整レバーから手を離し、リオスはステージの中央で輝く真紅のドレスを見つめた。

あんなに怯えていた少女が、今は数千人の人生(時間)を完全に支配し、その中心で誇り高く微笑んでいる。

「……はっ」

俺の口から、自然と笑みがこぼれた。

「イカしてるぜ、歌姫」

それは、裏方プロデューサーとしての確かな手応えと、俺の心が彼女の歌に完全に『奪われた』ことへの、心地よい敗北宣言だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ