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鋼を操る男 〜元鉄鋼マンの俺、ハズレスキル【アイアン】で辺境村を鍛え直す〜   作者: 月神世一


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EP 10

打ち上げの夜と、それぞれの覚醒

熱狂と狂乱の渦に包まれた学園祭のステージが終わり、夜も更けた頃。

ルナミス学園の中等部7年の教室では、盛大な『打ち上げ会』が開かれていた。

「五円! 十円! 銀貨に金貨! あぁ〜っ、数え切れませんわ〜っ!!」

教室のど真ん中の机に、山のように積まれた硬貨と紙幣の束。

真紅のドレスから特売の芋ジャージに着替えたリーザが、そのお金の山にダイブして、頬ずりをしながら感涙にむせいでいた。

彼女の圧倒的なステージとバフ魔法に完全に魅了された上級生貴族たちが、プライドを投げ捨ててステージに投げ込んだ(スパチャした)莫大な金である。

「私も負けてられませんね! 明日はキャベツを校舎の高さまで積み上げて爆発させましょう!」

「お前はただのテロリストだ、ルナ」

ワイワイと騒ぐ幼馴染たちの横で、ダイヤ先生がリーザの足元に縋り付いていた。

「な、なぁリーザよ……! そのお金、少しだけでいいから先生に貸してくれないか!? 弾薬費が……今月のローンがヤバいのだ……っ!」

「ダメですぅ! これは全部、私のトップアイドル活動のための大切な資金ですの! ダイヤ先生はリオス君のソースカツ丼で我慢して下さい!」

「ぐふっ……!(正論)」

S級賞金稼ぎの教師が、底辺サバイバルを生き抜いた13歳の人魚姫に論破され、床に崩れ落ちる。

「…………ははっ」

リオスは、そんなカオスすぎる教室の中心から少し離れた窓辺に寄りかかり、一人、炭酸水の缶を開けていた。

シュワッ、と微炭酸が喉を通り抜けていく。

夜風が、火照った体を心地よく冷やしてくれた。

窓ガラスに映る自分の顔を見る。

昨日の夜、男子寮のキッチンで「俺には夢がねぇ」と絶望していた、あの空っぽの顔は、もうそこにはなかった。

(……リーザの奴、あんなに震えてたのにな)

いざステージに上がれば、数千人の観客の『時間』を完全に支配し、その全てを奪い尽くしてみせた。

俺の周りにいる奴らは、みんな規格外の才能と、圧倒的な光(夢)を持っている。前世で過労死し、ただ平穏なスローライフを求めていた俺は、あいつらみたいに主役ヒーローにはなれない。

「……けどよ」

俺は、窓の外に見える、月明かりに照らされた『巨大な鋼鉄のドームステージ』を見下ろした。

あいつらが輝くための『舞台ハコ』なら、俺がこの手で、いくらでも創り出せる。

(決めた)

俺の胸の奥で、カチリと、確かな歯車が噛み合う音がした。

(俺に、眩しい夢なんてない。……だからよぉ。せめて、コイツらの『眩しい夢』を叶える手助けをする。あいつらが躓きそうな石(障害)があるなら、俺が裏で全部、鉄に変えて叩き潰してやる)

表舞台には立たない。誰にも気づかれない裏側から、俺の『現代の鉄鋼知識』と『ハズレスキル』を使って、幼馴染たちの夢を完全プロデュースしてやる。

(それが……俺の『野望』だ)

引きこもりを望んでいた少年の魂が、世界を裏から支配する『鋼鉄のフィクサー』として完全に覚醒した瞬間だった。

「あーっ! リオス君、あんな所で一人でかっこつけてますの!」

札束を抱えたリーザが、俺を指差して声を上げた。

「おいリオス! お前もこっち来いよ! これからルナがキャベツ爆発させるらしいぞ!」

「だからそれは止めろシャルム!」

「……おう、今行く」

俺は空になった缶を魔法ポーチに放り込み、仲間たちの輪へと歩き出した。

 * * *

その喧騒の中。

シャルムは輪の端で、一人静かに下を向いていた。

彼の手のひらには、8年間、裏山で血を滲ませながら槍を振り続けた『マメの痕』が硬く残っている。

キャルルから「今のレオンハート獣人王国は平和で活気がある」と告げられ、復讐という生きる目的を失い、心が折れかけていた。

だが、先程のリーザのステージ。

「全てを奪い、全てを与える」と叫び、欲望のままに観客を熱狂させたあの圧倒的な光景が、シャルムの心に新たな炎を点火していた。

(俺は……俺の野望は……)

シャルムは、ギュッと両の拳を握りしめた。

(俺が将軍になる事は、平和な国を掻き乱すだけの、身勝手な『欲望』なのか?)

脳裏に、今の豊かな獣人王国の景色と、それを誇らしげに語るキャルルの笑顔が浮かぶ。

復讐のためなら、その平和を壊すことになる。それはただの自己満足の欲望だ。

(……いや、違う!)

シャルムが顔を上げた。

その瞳には、かつての暗く濁った復讐の炎ではなく、太陽のようにギラギラと燃え盛る、凶暴なまでの『生命力』が宿っていた。

(俺が将軍になったら、今のレオンハート獣人王国より、もっともっと良くなる!! いや、俺が絶対に、誰よりも豊かで強い国にしてやる!!)

平和なら、その平和をさらにアップデートすればいい。

アーサー王の治世が良いというなら、俺はそれを力と知恵で凌駕し、民をさらに熱狂させてやる。

(それが俺の新しい野望……。あいつ(リーザ)にも負けねぇ、俺の『強欲』だ!!)

過去の呪縛から解き放たれ、将軍への果てなき野心を『強欲』というポジティブな力に変えた獣の少年。

そして、彼らを裏から支配し導くことを決意した鋼鉄の少年。

ルナミス学園に嵐を呼んだ学園祭の夜。

若きバケモノたちはそれぞれの覚醒を果たし、ここから真の『世界制覇プロデュース』の物語が、いよいよ幕を開けるのである。

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