EP 6
現場監督リーザと、ブラック労働の牛
第7グラウンド裏、資材置き場跡地。
上級生から押し付けられた泥と雑草だらけの空き地で、甲高い笛の音が鳴り響いていた。
「ピーッ! ピーッ! はい、オーライ、オーライ! ロックバイソンちゃん、後ろに気をつけて! ストップストップ、はいっ、ストップ!」
特売の芋ジャージ姿に、なぜか黄色い『安全第一』のヘルメットを被ったリーザが、誘導灯を振り回しながら声を張り上げている。
「ブ、ブモォォォ……ッ」
彼女の指示を受けて動いているのは、巨大な魔獣、ロックバイソンだった。
巨体に似合わぬ器用さで、二本の巨大な角を使って荷車から資材を運んでいる。
「はい! そこにセメントを落として~!」
「ブモォ!」
ドバァァァッ!
ロックバイソンが、指定された穴に器用にセメントを流し込む。
「はい! 次はそっちの木材運んで、ステージの土台作って~!」
「ブモォ……ブモォォォ!!」
連続する指示に、ついにロックバイソンが抗議の鳴き声を上げた。
魔獣とはいえ、彼にも感情はある。
『え? ちょっと待って、これブラック労働じゃない? ただの牛に土木作業の無茶言うなよ! ていうか俺の時給は幾らなんだよ!?』
そんな切実な心の声が、その荒い鼻息からヒシヒシと伝わってくる。
しかし、底辺サバイバルを生き抜いてきた地下アイドル人魚姫は、牛の労働基準法など知ったことではなかった。
「アマーーーイ!!!」
リーザは誘導灯をビシッとロックバイソンの鼻先に突きつけ、ドヤ顔で言い放った。
「芸の道は厳しいの! 最高のステージを作るためには、終わりなき鍛錬と自己追及が必要なの! 牛だからって甘えてちゃ、トップアイドル(の裏方)にはなれないわよ!」
「ブモォォォォッ!!」
ロックバイソンが激怒した。
『カンペを見ながら言うな!? ていうかお前、自分が肉体労働したくないから俺をこき使って、楽をしたいだけだろ!!』という、正論すぎるツッコミ(鳴き声)が空き地に響き渡る。
「ひぃっ!?」
巨大な岩角を突き立ててジリジリと距離を詰めてくるロックバイソンに、リーザは顔を引きつらせた。
サボりが完全にバレている。このままでは魔獣の怒りの角で串刺しにされる。
そう察知したリーザは、突然、自分の胸のあたりを両手で押さえ、大袈裟な演技を始めた。
「えっ? ええっと、ええっと……あーっと! なんだか急に、胸のカラータイマーがピコンピコンと鳴った気がしますの!」
「ブモォ……?」
「はい! そういうわけで、今日の私の作業はこれにて終わり! タイムカードはちゃんと切っておくから、残りのセメント流し、よろしくね! また明日来てね!」
リーザは無いハズのカラータイマーが点滅しているフリをしながら、両手を十字にクロスさせた。
「それじゃあ、シュワッチ!!」
シャキーン!と謎のポーズを決め、そのまま空き地から全速力で逃げ出そうとした、その瞬間。
ドゴォォォォォォォンッ!!!
「ブモォォォォォォォォォォォォッ!!!!(逃がすかボケェェェッ!!)」
理不尽なブラック労働にキレたロックバイソンの、容赦ない巨体タックルがリーザの背中にクリーンヒットした。
「ふぎゃあっ!?」
空を舞う人魚姫。
美しい放物線を描いた彼女が落下したのは、つい先程ロックバイソンが流し込んだばかりの、水たまりのようにドロドロの『未乾燥セメント』のど真ん中だった。
ベチャァァァァァァッ!!!
「…………」
「ブモォ(ドヤァ)」
静まり返る空き地。
セメントまみれになり、顔だけを泥の中から出したリーザが、悲痛な叫び声を上げた。
「きゃああああああ!!? なんでよおおおおおおおおっ!!!」
学園祭を目前に控え、平民クラスのステージ作りは、アイドルの悲鳴と牛のドヤ顔と共に、波乱の(そして全く進まない)幕開けを迎えるのであった。




