第三章 ルナミス学園 中等部編
8年の月日と、ワケありの転入生たち
ララサ村から王都へ旅立ってから、あっという間に8年の月日が流れた。
王都の中心にそびえ立つマンルシア大陸最高峰の教育機関、ルナミス学園。
俺、シャルム、ルナの3人は、無事に初等部(6年間)を突破し、今年から中等部(7年生・13歳)へと進級していた。
この8年間で、俺たちの立ち位置は随分と固まってきた。
シャルムは持ち前の闘気と『ダブル』のスキルを磨き上げ、学園の武術大会で着々と頭角を現している。ルナミス帝国の将校たちも、彼の才能に熱い視線を送っていた。
ルナは相変わらず、歩く自然災害だった。
演習場では無自覚に爆裂魔法をぶっ放してクレーターを作り、さらには神聖な『生成魔法』を無駄遣いして、キャベツやリンゴなどの果物や野菜をポンポコと無限に錬成。王都の八百屋のオヤジたちを「価格破壊だ!」と青ざめさせるという、経済テロリストと化している。
そして俺はといえば――徹底して『平凡な中堅生徒』を演じつつ、裏では魔法ポーチを使って密かにオロチ会長に高純度の砂鉄(と、こっそり作った高性能ベアリングなどの鉄鋼部品)を売りさばき、莫大な裏金と王都のコネクションを構築する『影のフィクサー(兼、引きこもり志願者)』としての地位を確立しつつあった。
そんな、中等部での生活が始まって間もないある日のこと。
ガラッ!
中等部7年の教室の扉が開き、俺たちの担任教師が姿を現した。
真紅のクリムゾンアーマーを身に纏い、手にはなぜか食べかけの戦闘糧食のパウチを持った、スレンダーな美女。
極貧のS級賞金稼ぎにして、俺たちの恩師(※頻繁に俺の作った飯をたかりに来る)である、ダイヤ・カギタ先生だった。
「よぉし、お前ら席に着け! 今日は朝礼の前に、今日からこのクラスで一緒に学ぶ『転入生』を2名紹介するぞ」
ダイヤ先生が黒板の前に立ち、ミリメシを飲み込みながら宣言した。
「転入生?」
俺は首を傾げた。ルナミス学園は超エリート校だ。中等部の途中から編入してくるなど、よっぽどの特待生か、政治的な事情がある者に限られる。
「入れー」
ダイヤ先生のぶっきらぼうな合図とともに、教室の扉が再び開いた。
「し、失礼しますっ!」
「失礼しますぅ……」
入ってきたのは、対照的な2人の少女だった。
一人は、ウサギの耳と尻尾を持ち、王都の学園には似合わない現代風のパーカーとショートパンツ、そして足元にはやけにゴツい『特注の安全靴』を履いた、小柄で可憐な少女。
もう一人は、海の宝石のように美しい水色の髪を持ちながら、なぜか『ルナミスデパートの特売芋ジャージ』を着て、『健康サンダル』をペタペタと鳴らしながら歩く、儚げな少女。
「キャルル・ムーンハートと申します! よろしくお願いします!」
「リ、リーザ・シーラン・リヴァイアサンですぅ。よろしくおねがいします……」
二人が黒板に名前を書き、ペコリと頭を下げた瞬間。
隣の席に座っていたシャルムが、ガタッ!と音を立てて立ち上がった。
「なっ……!? レ、レオンハート!? レオンハート獣人王国の姫君が、なんでルナミス帝国の学園に!?」
シャルムの驚愕も無理はない。
彼の父親であるクルーガーを失脚させた、獣人王国の中心にいる王族。その第三姫君であるキャルルが、なぜ敵国とも言えるルナミスにいるのか。
「おぉ、二人ともお姫様なんですねぇ。私と話が合いそう★」
ルナが呑気に手を叩いて喜んでいるが、状況はかなり異常だった。(ルナもエルフの次期女王候補なので、この教室には現在、国家元首クラスのVIPが3人も揃っていることになる)
ざわめく教室を、ダイヤ先生がパンパンと手を叩いて鎮めた。
「静かにしろ。キャルルはレオンハート獣人王国からの『交換留学生』として、特別にこの学園で受け入れることになった」
そこまでは、まだ理解できる。国家間の思惑が絡んだ留学だろう。
問題は、もう一人の方だった。
「で、そっちのリーザは……」
ダイヤ先生は、ふぅと深い深いため息をつき、眉間を揉んだ。
「昨日の夜、タローソン(コンビニ)の裏の駐車場で、野良犬と『廃棄弁当』を巡って血みどろの喧嘩をしているところを、パトロール中だった私が捕獲……補導……いやいや、保護して。色々事情を聞いたらとんでもない身分(海中国家の親善大使)だと発覚して、なんだかんだあって学園側が慌てて保護名目で通わせることになった」
「「「…………は?」」」
教室の全員が、ポカンと口を開けた。
海中国家の姫君(親善大使)が、コンビニの裏で野良犬と廃棄弁当を奪い合っていた?
情報が渋滞しすぎて、誰もツッコミを入れることができない。
「ま、まぁ、そういうわけだ! 二人とも色々ワケありだが、お前ら、仲良くしてやれよな!」
ダイヤ先生が無理やり締めくくると、教壇の横に立っていた人魚姫(芋ジャージ姿)のリーザが、両手を胸の前で組み、感動の涙を滝のように流し始めた。
「ああぁ……っ♡ なんて素晴らしいところなのでしょう、学校って! 毎日、お腹いっぱい『給食(タダ飯)』が食べられるなんて……私、幸せですわ……っ!!」
「(……絶対コイツ、王族の暮らししてないだろ)」
俺は心の中で、全力でツッコミを入れた。
そして、極貧の担任教師、野心に燃える没落将軍の息子、歩く災害のエルフ、安全靴を履いたヤンデレ気味の獣人姫、そして底辺ポイ活サバイバル人魚姫という、この世の混沌を煮詰めたようなクラスメイトの顔ぶれを見渡す。
(……俺の平和な引きこもりスローライフ、中等部に入って早々に完全に終わった気がする)
鋼鉄の知将(13歳)は、来るべき胃痛の日々を予感し、そっと机に突っ伏すのであった。




