EP 11
5歳児の『アーク溶接』と合格の判定
「リオス・クルセイダー君!」
「はい!」
俺はルナのプレッシャーで完全に胃をやられている面接官の前に立ち、元気よく返事をした。
「……君は、元S級冒険者ガリンとアリアの息子だな。なるほど、魔力総量は悪くない。……で、君の得意な事は何だね?」
「えっと、ちょっと待って下さいねっと」
俺は背中に背負っていた『魔法ポーチ』をガサゴソと探り始めた。
面接官がいぶかしげに眉をひそめる中、俺が取り出したのは、分厚い『革手袋』、謎の黒いフルフェイスマスク(手作りの『溶接ヘルメット』)、そして厚さ1センチはあろうかという分厚い『鉄の板』だった。
俺は慣れた手つきで革手袋をはめ、溶接ヘルメットをスポッと頭に被った。
小さな5歳児の体に、ゴツい職人装備。完全に不審者である。
「ん? 何をするつもりかね?」
面接官が怪訝そうな声を上げる。
だが、溶接ヘルメットの遮光ガラスの奥で、俺は前世の『鉄鋼マン』としての鋭い目つきに切り替わっていた。
(……この世界の面接官に、ただ魔力を放出するだけじゃ『凡人』の烙印を押される。だが、ド派手な破壊魔法を撃てば国に目をつけられる。ならば……!)
俺が見せるべきは、火力ではなく『圧倒的な技術的特異点』だ。
(魔力を可燃性ガス――アセチレン風の性質――に変換し、空気中の酸素と比率1:2.5で混合。さらに魔力回路の出口(指先)を極限まで絞ってノズル効果を生み出し、そこに電気的なアーク放電を乗せる……!!)
「ふぅぅ……っ」
俺が小さく息を吐き出し、右手の人差し指を鉄板に向けた、その瞬間。
バチバチバチバチバチッ!!!!
「なっ!?」
面接官が悲鳴にも似た声を上げた。
俺の指先から、青白く、目を焼くような強烈な閃光と炎がほとばしったのだ。
化学と魔法の融合。魔力を燃料としたその炎の温度は、局所的に5000度を優に超えている。
「えーっと、じゃあいきます」
バチバチバチッ! キュイィィィィン!!
俺は指先から放たれる青白いプラズマの炎で、手にした分厚い鉄の板を、まるで熱したナイフでバターを切るように、いともたやすく『切断』し始めた。
火花が飛び散り、一瞬にして鉄板が真っ二つに分かれる。
さらに俺は、その分かれた鉄板の断面を合わせ、再び指先の閃光を走らせた。
バチバチバチバチッ!
今度は切断ではなく『接合』。
高温で溶けた鉄のプールを瞬時に作り出し、2枚の鉄板を分子レベルで完全に一体化させる。
「ふぅ。こんなもんか」
俺が指先の魔力を切り、溶接ヘルメットをカパッと上に跳ね上げると、そこには切断前よりも強固に接合された一枚の鉄板があった。美しいビード(溶接痕)が真っ直ぐに伸びている。
ギルドホールは、水を打ったような静寂に包まれていた。
面接官は、ぽっかりと口を開け、目を極限まで見開いて硬直している。
「き、君ぃぃっ!? 今、何をしたのかね!? て、鉄を……あの分厚い鋼鉄を、いともたやすく切って、しかもくっつけただと!?」
アナステシア世界において、鉄の加工とはドワーフの職人が巨大な炉と金槌を使い、何日もかけて行う神聖な作業だ。
それを、5歳の幼児が指先一つで、数秒の間にやってのけたのである。魔法の威力とは違うベクトルで、それは完全に『超常現象』だった。
「アーク溶接をしただけですけど」
俺は涼しい顔で、前世の専門用語を口にした。
「あ、あーくようせつぅぅ!? な、何だねその聞き慣れないワードは!? 君のユニークスキルは確か【アイアン(鉄操作)】だったはず……魔力とスキルの複合技術か!? いや、そもそもあの炎の温度は一体……!」
パニックを起こし、立ち上がって机から身を乗り出してくる面接官。
「この技術の原理を詳しく教えなさい!」とヨダレを垂らさんばかりの勢いだ。
これ以上説明すれば、俺がこの世界の科学レベルを数百年引き上げてしまう特異点であることが完全にバレてしまう。
俺は革手袋を脱ぎながら、面倒くさそうにため息をついた。
「まぁ、原理を説明するのは面倒なんで。とりあえず、合格か不合格か言って下さい」
完全に大人の、しかも現場のベテラン職人のような塩対応である。
面接官はハッとして我に返り、ルナの時とは違う意味で滝のような汗を流しながら、力強く頷いた。
「ご、合格だよぉ!! 君のような異常な……いや、天才的な技術を持つ者を落としたとあっては、私のクビが飛んでしまう! 文句なしの特待生合格だ!」
「ありがとうございます。よしっ」
俺が鉄板とヘルメットを魔法ポーチにしまい、振り返ると。
「やったぁぁっ!! 流石リオス君!」
「やったな! リオス!!」
後ろで待機していたルナとシャルムが、自分の事のように満面の笑みで駆け寄ってきた。
「あぁ。ありがとうな」
俺は2人とハイタッチを交わした。
これで、誰一人欠けることなく、3人揃って王都の進学校へ行くことができる。
俺の『引きこもりスローライフ』の野望は、どうやら王都のど真ん中、エリート学園を舞台にして繰り広げられることになりそうだ。
こうして、辺境のララサ村から現れた『規格外の5歳児トリオ』は、ルナミス学園の面接官に深いトラウマ(と期待)を植え付け、堂々たる成績で王都への切符を掴み取ったのであった。




