EP 10
ルナミス学園入試と、規格外の幼馴染たち
ついに、ルナミス学園の入試(魔力・実技試験)当日がやってきた。
会場となったのは、ルナミス帝国の地方都市にある巨大なギルドホール。
厳かな空気が漂う室内には、試験官である学園の教員たちがズラリと並び、中央には受験者の魔力総量を測るための『巨大な透明の水晶』が設置されていた。
「はい! では次……シャルム君。前に出なさい」
「おう!」
ルナミス学園の面接官(神経質そうな初老の男)に呼ばれ、シャルムが堂々と前に進み出た。
「志望動機と、君の得意な事を見せたまえ」
面接官が羊皮紙のバインダーに目を落としながら尋ねると、シャルムは豹の耳をピンと立て、会場中に響き渡る声で叫んだ。
「はい! 俺様は! ルナミス学園に入って、勝って勝って勝ちまくって! ルナミス帝国の偉い将軍になる事です!! 能力は『ダブル』を持っています!」
言うが早いか、シャルムはポンッ!と実体のある2人に分身し、見事なシンクロ率で槍の素振りを披露してみせた。
「ほぉ……」
面接官が、メガネの奥の目をスッと細めた。
「志は高し。分身の能力も悪くない。何より、その歳で闘気の片鱗が見えている……。ふむ、君はレオンハート獣人王国の出身か。クルーガー元将軍の血筋……なるほど」
面接官は口元に手を当てて、小さく呟いた。
(これはルナミス帝国にとっても、外交上の悪くない材料になる。獣人王国の覇権争いに敗れたとはいえ、腐っても将軍家の血。手元に置いておく価値は十二分にあるな)
大人特有のドス黒い政治的計算を瞬時に弾き出した面接官は、コホンと咳払いをしてシャルムに鷹揚に頷いてみせた。
「よろしい。中々の素質だ。吉報を待つとよろしい」
「あ、ありがとうございますっ!!」
シャルム(2人)がパァッと顔を輝かせ、元気よく頭を下げて元の位置に戻ってきた。
(よしよし、シャルムは完璧だな。政治的な背景も込みでSランク合格間違いなしだ)
俺は内心でホッと胸を撫で下ろした。
「では次の受験者……ルナ・シンフォニア君」
「はぁ〜い★」
俺の隣から、のほほんとした足取りでエルフの少女が前に出る。手には伝説のアーティファクト『世界樹の若木』が、ただの木の杖のように握られていた。
「ん? 君は……」
面接官がルナの書類に目を通した瞬間、ピタリと動きが止まった。
そして、書類とルナの顔を、信じられないものを見るように二度、三度と見比べる。
(せ、世界樹の森からの留学生……!? シンフォニアという姓は、もしや……エルフの次期女王候補ではないか!? なぜそんなVIPがこんな辺境の試験会場に!?)
面接官の額から、ダラダラと冷や汗が流れ始めた。
そんな大人のパニックなど露知らず、ルナはキョロキョロと会場を見渡しながら首を傾げた。
「あのぉ、難しい事はよく分かりませぇん。この真ん中にある水晶に、魔力を注入すれば良いんですよね?」
「あ、あぁ。そうだ、それに手を触れて……」
「わかりましたぁ! えいのっ★」
ルナが『世界樹の若木』を、巨大な測定用水晶にコツンと当てた。
そして、彼女の体内から、極めて純粋で、かつ『規格外の暴力』としか言いようのない魔力が流れ出そうとした、その瞬間。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ……!!!!
会場の空気が、突如として悲鳴を上げた。
ルナの足元を中心に、石造りの床にピキピキと亀裂が走り、重力そのものが歪んだかのように周囲のペンや書類がフワフワと宙に浮き始める。
ターゲットである巨大水晶に至っては、まだ魔力が注がれる前(漏れ出たオーラ)の段階で、すでにミシミシと限界を知らせる軋み音を立て始めていた。
(死ぬっ!!??)
面接官の本能が、警鐘をガンガンと鳴らした。
このまま彼女に魔力を注入させれば、水晶どころか、このギルドホール、いや下手すれば街区の半分が木っ端微塵に吹き飛ぶ!!
「ストォォォォォォォォォォプッ!!!」
面接官は椅子から転げ落ちんばかりの勢いで立ち上がり、両手を激しくクロスさせて絶叫した。
「ひいいっ! す、水晶どころか、会場を木っ端微塵にするつもりか!? き、君は何もしなくて良い!! 合格だ! 文句なしの合格だから! 頼むからその杖を下ろしてくれぇっ!!」
「ふぇ!?」
ルナはパチクリと目を瞬かせ、杖を下ろした。途端に、会場を支配していた異常な圧力が嘘のように消え去る。
「そうですか? まだちょっと力を入れただけなのにぃ。ルナミス学園の試験って、とっても簡単なんですね★」
「は、ははは……そ、そうだね……(寿命が10年縮んだ……)」
息も絶え絶えになりながら、面接官はハンカチで滝のような汗を拭った。
Sランクどころではない。災害指定クラス(SSSランク)のバケモノである。
「はぁっ……はぁっ……。で、では、次……」
面接官が、震える手で次の書類をめくる。
そこに書かれていた名前は。
「リオス・クルセイダー君!」
「はい!」
俺は、ハキハキとした子供らしい声で返事をし、一歩前に出た。
(……やばい。やばすぎる)
背中には、シャルムとルナの「リオス君も絶対合格だね!」という純粋無垢な期待の視線が刺さっている。
目の前には、ルナのプレッシャーで神経がすり減り、どんな異常値が出ても即座に警戒態勢に入るであろう、ピリピリに張り詰めた面接官。
手元にあるのは、「釘を数センチ転がすだけ」と周囲に偽装し続けているハズレスキル【アイアン】のみ。
(俺ツエエエを隠しつつ、この極限状態の面接官から『ギリギリの合格ライン』をもぎ取る。……前世の就職面接より、よっぽど難易度が高いぞ……!!)
鋼鉄の知将(5歳児)の、人生最大のプレゼンテーションが、今始まろうとしていた。




