表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鋼を操る男 〜元鉄鋼マンの俺、ハズレスキル【アイアン】で辺境村を鍛え直す〜   作者: 月神世一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
2/51

EP 2

はじめてのスキル検証(被害者:父)

(はぁ……赤ちゃんかぁ……。にしても、暇だ)

転生から数日。

俺こと戸田鉄平――現・リオス・クルセイダーは、木製のベビーベッドの上で天井を見つめながら、盛大なため息(ただし口から出るのは「あー」とか「うー」という声)を吐いていた。

赤ちゃんというのは、とにかく自由が利かない。

首も座っていないし、起き上がることもできない。できることと言えば、泣くか、寝るか、ミルクを飲むかくらいである。

前世ではバリバリの鉄鋼マンとして、現場を走り回っていた身としては、この圧倒的ニート生活は少々退屈すぎた。

(うん、愛情深い両親に恵まれたのは良かった。それは認める。……が、俺にはやるべきことがある!)

俺はむちむちの短い腕を、ぐっと顔の前に持ち上げた。

(あのピンク芋ジャージのクソババア……もとい、女神ルチアナは言っていた。『周囲の鉄を操る能力』だと。この【アイアン】というスキル、早いうちに検証しておかないとな)

工業系男子にとって、道具や能力の『仕様把握』は基本中の基本である。

だが、ここは木造の家屋。ベビーベッドも木製だし、おもちゃも布や木でできている。鉄製品なんて都合よく……

「おぉー! リオス! 今日も元気だなぁ、俺の可愛い息子よ!」

ドスドスと床を揺らして、一人の大男が顔を覗き込んできた。

俺の今世の父親、ガリン・クルセイダー(35)である。

元S級冒険者だという彼は、丸太のように太い腕と、熊のようなガタイをしている。顔には歴戦の傷跡があり、笑うと親父くささが全開になる、絵に描いたような熱血漢だ。

「あなた、大きな声を出さないで。リオスがびっくりしちゃうわよ」

後ろから、呆れたような声が続く。

母のアリア・クルセイダー(35)だ。

彼女も元S級冒険者(僧侶)らしいが、今は優しくて美しい、完璧な良妻賢母に見える。ただ、たまに見せる笑顔の奥に、逆らってはいけない絶対的なオーラを感じるのは俺だけだろうか。

「私達の子供だからね。あぁ、なんて愛おしいの……♡」

アリアが俺の頬を優しく撫でる。

うん、温かい。前世は独身一人暮らしだった俺にとって、この家族の愛情は素直に嬉しい。

(……ん?)

俺の視線が、ベッドを覗き込む父さん(ガリン)の腰元に釘付けになった。

(父さんのベルト……あのゴツいバックル、鉄製じゃないか?)

元冒険者の名残なのか、ガリンが普段着けている太い革ベルトには、無骨で分厚い『鉄の金具』が使われていた。

(鉄……鉄……ええっと、どうやるんだ? 念じるのか?)

俺はベッドの中で、眉間にシワを寄せた。

意識を、ガリンのベルトのバックルに集中させる。

(来い……動け。俺の言うことを聞け……! 【アイアン】!!)

脳内でスキル名を叫んだ、その瞬間。

『カチャッ』

静かな部屋に、金属が弾ける小さな音が響いた。

「あれ?」

ガリンが不思議そうに首を傾げた。

直後――。

ズルンッ!!

「あれっ!? ズ、ズボンが!!」

極太の革ベルトを留めていた鉄のピンが、まるで生き物のように滑らかに動き、ロックを外したのだ。

結果、ガリンの履いていたズボンが、重力に従って見事に足首までずり落ちた。

現れたのは、筋肉隆々の太ももと、やけに派手な柄のトランクスである。

「…………」

「…………」

部屋の中に、気まずい沈黙が降り下りた。

「……まぁ、あなたったら!」

母さん(アリア)の、氷点下まで冷え切った声が響く。

「子供の前で、いきなりズボンを下ろして何をしてるの? 何か変な病気でも発症したのかしら?」

「い、いや! 違うんだアリア! 何故か急にベルトが外れて……っ! すまんすまん!」

顔を真っ赤にして慌ててズボンを引き上げるガリン。

S級冒険者として数々の魔獣を屠ってきた男が、妻の冷たい視線の前では形無しである。

「全くもう。元S級の闘気使いが、自分のベルトの緩みにも気づかないなんて。今度、私が闘気の練り直しに付き合ってあげましょうか?(物理で)」

「ひぃっ!? そ、それだけは勘弁してくれ!!」

夫婦漫才(という名のガリンの公開処刑)が繰り広げられる中、俺はベビーベッドの中で一人、歓喜に震えていた。

(あ、ごめん父さん。とばっちり食らわせちゃって)

内心で軽く謝りつつも、俺の心は興奮でバクバクと脈打っていた。

(いける……! 【アイアン】、めっちゃ使えるぞこれ!!)

触れてもいない、数十センチ離れた場所にある金属を、意のままに動かすことができた。

しかも「吹き飛ばす」ような大味な力ではなく、「ベルトのピンだけを外す」という極めて『精密な操作』ができたのだ。

前世で培った鉄の知識――炭素量、温度、応力――これらをあの『操作感覚』と組み合わせれば、もしかして、とんでもないことができるんじゃないか?

(剣にも、盾にも、なんなら精密機械の部品だって作れるかもしれない……!)

異世界のド田舎、ララサ村。

そこでスローライフを送りながら、最強の鉄器をチート開発する。

赤ちゃん(俺)の瞳に、野望の炎がメラメラと燃え上がった瞬間であった。

お読みいただきありがとうございます!


評価・ブックマークで応援いただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ