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鋼を操る男 〜元鉄鋼マンの俺、ハズレスキル【アイアン】で辺境村を鍛え直す〜   作者: 月神世一


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EP 5

女神の懐事情と、秘密の密輸ルート

グツグツグツグツ……。

秘密基地の洞穴に、白濁したスープが煮え滾る食欲をそそる音が響いていた。

俺が【アイアン】で即席錬成した特製の鉄鍋の下では、この世界特有の便利な魔道具『魔導カセットコンロ』が、赤い火力を安定して供給している。

「ふはぁ〜っ、いい匂い。博多の水炊きは、まずはこの白濁した鶏ガラスープからいくのよ」

鍋の向こう側では、紫色の芋ジャージを着た女神ルチアナが、慣れた手つきで缶ビールのプルタブを弾いた。

プシュッ!

「ごきゅっ、ごきゅっ……かぁ〜っ! んまいっ!!」

「あのさぁ……。一応、これでも子供の秘密基地なんだけど。真っ昼間からビール煽るなよ、駄女神」

まるで新橋の居酒屋にいる疲れたサラリーマンのような飲みっぷりに、俺はジト目でツッコミを入れる。

「うるさいわねぇ。仕事明けの一杯なんだから大目にみなさいよ。……それよりリオスぅ、水炊きまだぁ?」

「待ってろよ。鶏肉に火が通るまであと少しだ」

鍋の中では、ルチアナが持ち込んだ(地球産の)骨付き鶏肉と、ぶつ切りにしたララサ村の野菜が、極上のスープの中で踊っている。

「楽しみだなぁ……! チャーハンの時もすっげぇ美味かったけど、これもすっげぇ美味そうな匂いがする!」

「うんうんっ! お腹ペコペコだよぉ」

シャルムとルナが、自分たちの木皿とお箸(俺が木の枝を削って作った)を握りしめ、尻尾を振って鍋を見つめている。

「よし、いい頃合いだ」

俺は水炊きの具材を、それぞれの小皿へと取り分けた。

そして、ルチアナの土産袋に入っていた『ポン酢』を、上からタラリとかける。

「まずは鶏肉だ。ポン酢にしっかり絡めて……食ってみろ」

「「いただきまーす!!」」

5歳児2人が、アツアツの鶏肉を頬張る。

「あふっ、はふっ……うまああああいっ!!」

「美味しいいいいっ! この酸っぱいお汁(ポン酢)、お肉とすっごく合うよぉ!!」

柑橘系の爽やかな酸味と醤油のコクが、濃厚な鶏の旨味を極限まで引き上げている。

未知の調味料『ポン酢』の破壊力に、わんぱく獣人も天然エルフも完全にノックアウトされていた。

「はふっ……かぁぁぁ、これだよこれ! 久々の日本食! やっぱ水炊きにポン酢は神だぜ……!」

俺も一口食べて、思わず天を仰いだ。

異世界転生して5年。ずっと欲していた『出汁』と『ポン酢』の味が、25歳だった頃の細胞の隅々にまで染み渡る。

「ぷはぁ〜っ! 生きてる感じがするわぁぁ……」

ルチアナもご満悦の顔で鶏肉をつまみ、ビールを流し込んでいる。

しばらくは無言で鍋をつつく音だけが響いていたが、ふと、ルチアナがニヤリと口角を上げて俺を見た。

「……ところで、リオス。あんた、最近結構稼いでるわよね? 川の砂鉄で」

「あ? まぁな。それがどうした」

俺が警戒しながら答えると、ルチアナはズイッと身を乗り出してきた。

「私、こう見えて『地球の品』をこっちの世界に横流しできるのよ。だから……私と専属の購入契約を結んであげても良いわよ♡ 調味料でも、本でも、工具でも、なんでも取り寄せてあげる!」

「は? いや、ちょっと待て。さっき『近代兵器を持ち込むとガオガオンが煩い』って散々脅してきたのはお前だろうが」

「ガオガオンは『生命と星の危機』に関わる兵器や悪意には厳しいけど、ただの流通や生活用品にはそこまで厳しくないから! ねぇねぇ! 買う!? 買うわよね! 私から!!」

グイグイと迫ってくるルチアナ。

その目を見た瞬間、俺の前世の社会人経験(大人としての直感)が、激しく警鐘を鳴らした。

「……は、は〜ん」

俺は箸を置き、呆れたようにため息をついた。

「その目……『純粋に俺の生活を豊かにしてあげよう』なんていう、押し付けの善意じゃないな。明らかに『月末の支払いに追われて首が回らなくなっている奴』の目だ」

「ビクッ!?」

「それが、わざわざ福岡帰りにこんな辺境の村まで来た本命ってわけだ。……お前、借金してるな?」

俺が核心を突くと、ルチアナは「ひぐっ!」と変な声を出して視線を泳がせた。

「しゃ、借金じゃないわよ!! クレジットカードのローン支払いが……その、ちょっと推し活(月人君の遠征費とかグッズ全種類コンプとか)で重なっちゃって……」

「それを借金って言うんだよ」

「違うもん! 未来の私への投資だもん! でも、もし今月滞納したら、神界の借金取りに捕まって『マグローザ漁船(※アナステシア世界の荒海で巨大マグロ魔獣を狩る超絶ブラック漁船)』に乗せられちゃうのよぉ!!」

ポロポロと嘘泣き(半分ガチ泣き)を始める駄女神。

「……はぁ。お前の自業自得だろうが」

「お願いリオス君! 私から色々買って! 本当に助けて! これ以上滞納したら、委員長のヴァルキュリアに壁ドンされて、また5時間の正座説教コースなのよぉ……っ!」

神の威厳など欠片もない、情けない命乞いである。

だが――。

(……地球の品を自由に買えるのは、デカい)

俺は頭の中で瞬時にソロバンを弾いた。

【アイアン】で武具や兵器を作るにしても、現代日本の『正確な工具』や『特殊な潤滑油』、あるいは『高度な設計図面の専門書』があれば、開発スピードと精度は桁違いに跳ね上がる。それに、日本の調味料が手に入るのは、俺の食生活において最強のメリットだ。

「……仕方ねぇな。購入契約、結んでやるよ」

「ほんとに!!? やったぁぁぁぁっ!! はぁ〜っ、これでヴァルキュリアに5時間説教されなくて済むわぁ……!!」

ルチアナはバンザイをして歓喜の声を上げた。

ここに、5歳児の稼いだ金(砂鉄マネー)を吸い上げる、異世界と地球を股にかけた『秘密の密輸ルート』が開通した瞬間である。

「ねぇねぇ、リオス君」

「借金って、何のことだ?」

ルチアナの歓喜の舞を不思議そうに見つめていたルナとシャルムが、純粋な瞳で俺に問いかけてきた。

5歳児には、まだ知らなくていい大人の世界の闇(リボ払いなど)である。

「……知らなくていい言葉さ。さっ、水炊きの締めは雑炊にするからな、いっぱい食べようぜ」

「「わぁーい!!」」

俺はポンッと2人の頭を撫で、残ったスープに米麦草を投入した。

こうして、女神のクズっぷりと水炊きの温かさに包まれながら、ララサ村の夜は更けていくのであった。

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