EP 3
家族会議と、謎のドワーフ(架空)
チャリン……。
ララサ村、クルセイダー家のダイニングテーブル。
その中央には、麻袋にギッシリと詰め込まれた『金貨500枚(約500万円相当)』が、暴力的なまでの黄金の輝きを放ちながら鎮座していた。
「ふむ……金貨500枚、か」
父さん(ガリン)が、腕を組みながら難しい顔で唸る。
その隣で、母さん(アリア)も少し困ったような、それでいて呆れたようなため息をついた。
「そうなのよ、貴方。どうしましょ、この金貨」
「うむ……」
いくら元S級冒険者で金銭感覚が少しズレているとはいえ、5歳児がたった1日で稼いできた額としては、流石に無視できない規模だった。
父さんが、かつて魔王軍の幹部と対峙した時のような鋭い(S級の)眼光で、俺を見据えた。
「リオス。お前は、これだけの金額を稼いでどうするつもりだ? 何か考えがあってのことか?」
(ビクッ)
俺は内心、盛大に冷や汗をかいた。
『この資金で特殊な歯車と滑車を買い揃え、高張力鋼を用いた連射式バリスタを配備し、村の周辺を自動迎撃要塞に改造するつもりです』などと、25歳の鉄鋼マン丸出しの計画をバカ正直に語れるはずがない。
俺はごくりと唾を飲み込み、頭の中のスイッチを【無邪気な5歳児モード】へと全開に切り替えた。
「えっとぉ……」
俺はモジモジと指を絡ませながら、上目遣いで両親を見た。
「僕は、ただ砂鉄を集めたくてぇ……。それで、それでね! 僕、村を守る『強い強い武器』が欲しくって!」
「強い武器……?」
「うんっ! これを見て!」
俺は背中に隠し持っていた『本』――自分で羊皮紙に書き綴った、改良型連射式バリスタの設計図――をテーブルの上にドンッと広げた。
バネ鋼の反発力と、自動装填機構の緻密な計算式がびっしりと書き込まれた、オーバーテクノロジーの結晶である。
父さんがその設計図を覗き込み、目を見開いた。
「こ、これは……見事な物だ。帝国の正規軍が使っているバリスタよりも、はるかに構造が洗練されている。一体どうやってこんなものを……?」
(よし、ここだ! ここで用意していた設定(言い訳)をブチ込む!)
「うん! 父さんの書斎にあったバリスタの設計図を持ってたらね、知らない『ドワーフのおじさん』が通りかかって! そのおじさんに見せたら、一緒に考えてアイデアを出し合って、これを描いてくれたんだ!」
異世界モノの超王道テンプレ『すべては謎の放浪マスターのせいにする』作戦である。
ドワーフは鍛冶と工芸の天才種族だ。彼らが絡めば、どんな異常な設計図でも説得力が生まれる。
「な、何っ!?」
案の定、父さんはガタッと椅子から立ち上がった。
しかし、俺が予想していた「そんな凄い奴が村にいるのか!」という反応とは、少しベクトルが違っていた。
「知らないドワーフのおじさんと!? リ、リオス……お前は、父さんたちのような冒険者になるつもりは無いのか!? ま、まさか、剣士や魔法使いではなく、鍛冶師になるつもりなのか!?」
頭を抱え、まるで世界の終わりを見たかのように絶望する親父。
元S級の武闘派ゆえに、「息子が裏方(生産職)に回る」という発想が全くなかったらしい。
「貴方!!」
その時、母さんのピシャリとした声(と同時に放たれる物理的な圧)が、父さんの動揺を強制終了させた。
「問題はそこじゃないでしょ! 知らないおじさんについて行っちゃダメって、いつも言ってるじゃない!」
(※母さん、論点はそこでもない気がする)
「い、いや、すまんアリア。……そうだな、リオスはまだ若干5歳だ。将来の夢なんて、これからいくらでも変わる。色んな夢を見るのは良しとしようじゃないか」
父さんはコホンと咳払いをし、無理やり自分を納得させるように頷いた。
「う、うん。父さん」
俺は純真な笑顔で頷きながら、心の中で密かに毒づいた。
(あくまで『鍛冶師』は俺の人生プランAの話だよ、父さん。冒険者になって泥水すする気なんてサラサラないからな。目指すは安全圏からの全自動・物理蹂躙スローライフだ)
そんな俺の黒い野望を知る由もなく、父さんはテーブルの設計図をバンッ!と力強く叩いた。
「よし! 設計図があり、資金もあるなら話は早い! このバリスタの建造は、自警団リーダーである父さんに任せろ! 最高の木材を切り出してきてやる!」
「ほんと!? 俺も手伝うよ、父さん! 【アイアン】のスキルで、鉄の部品を作るのに絶対に役に立つと思うし!」
「ガッハッハ! そうかそうか、親子の共同作業だな! 腕が鳴るぜ!」
単純で熱血漢な親父のコントロールに成功し、俺は心の中でガッツポーズを決めた。
「もう……二人とも、ほどほどにするのよ?」
母さんが呆れたように微笑みながら、温かい紅茶を淹れ始める。
こうして、5歳児の稼いだ金貨500枚を元手に。
ララサ村の歴史上、類を見ない『オーバーテクノロジー兵器(防衛用バリスタ)』の親子共同開発プロジェクトが、熱狂と共に幕を開けたのであった。




