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鋼を操る男 〜元鉄鋼マンの俺、ハズレスキル【アイアン】で辺境村を鍛え直す〜   作者: 月神世一


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10/18

EP 10

戦士の労いと、忍び寄る影

「おーーーい! リオス!!」

「シャルム! どこだ!!」

ルナの引き起こした大洪水によって、秘密基地から森の斜面まで押し流されていた俺たちの耳に、焦燥に駆られた大人たちの声が飛び込んできた。

「……父さん!」

「父上!?」

顔を上げると、木々の間から凄まじいスピードで駆けつけてくる二つの巨影があった。

俺の父、元S級冒険者のガリンと。

シャルムの父、豹耳族の猛者クルーガーのおっちゃんだった。

「お前たち! 無事か!?」

「こんなにズブ濡れになって……怪我はないか、シャルム!」

血相を変えて駆け寄ってきた二人は、泥まみれで倒れている俺たちの無事を確認すると、ホッと深く安堵の息を吐いた。

少し遅れて、母さん(アリア)も事もなげな顔で歩いてくる。

「まったく、もう。泥んこ遊びにしては派手にやったわねぇ」

母さんの言葉に、俺とシャルムは顔を見合わせて苦笑いした。泥んこ遊びで済めばよかったのだが。

「ん……? こ、これは……」

ふと、クルーガーのおっちゃんが鋭い声を上げた。

彼の視線の先、少し離れた木の根元には、ルナの濁流に巻き込まれて一緒に流されてきた『ゴブリンの死体』が転がっていた。

一つは頭部がひしゃげ(俺のフライパンによる打撃)、もう一つは胴体が綺麗に真っ二つに切断されている。

「お前たち……まさか、自分たちだけでこのゴブリンを倒したのか?」

ガリンが信じられないという顔で、俺たちと死体を交互に見比べる。

「うん、まぁね」

俺が短く答えると、シャルムが泥だらけの胸を張り、ピンと豹耳を立ててクルーガーの前に立った。

「はい! 父上の名に恥じぬ戦いをしました! 俺がやりました!!」

クルーガーはシャルムの言葉を聞くと、無言で真っ二つになったゴブリンの死体に歩み寄った。

しゃがみ込み、その切断面を太い指でなぞる。

「……うむ。この断面、見事だ。ただの力任せではない。闘気を一点に集中させ、一切のブレなく振り抜いた証拠……見事な『竜牙一閃』だ。中々の斬れ味だったぞ、シャルム」

歴戦の将軍である父からの、初めての明確な称賛。

「あ、ありがとうございますっ! 父上!!」

シャルムの尻尾が、千切れんばかりに左右に振れた。

その顔には、誇らしさと、プレッシャーから解放された子供らしい喜びが溢れていた。

「へへっ、まぁ、俺のフライパンの一撃も捨てたもんじゃ……」

俺も便乗して親父に褒めてもらおうと、自慢の南部鉄風フライパンを掲げようとした、その時。

「はぁ~、もう疲れちゃったぁ……」

緊迫感のかけらもない、間延びした声が空気を読まずに響き渡った。

犯人はもちろん、この大洪水の元凶であるエルフの少女だ。

「もう泥んこで気持ち悪いよぉ。早く帰ってシャワー浴びたいな~」

ルナが『世界樹の若木』を杖代わりにしながら、ふにゃ~っと欠伸をした。

ゴブリンの死体を見ても微塵も動じない。さすが、世界樹の森で爆発を繰り返してきた肝っ玉エルフである。

「あらあら、ルナちゃんたら。女の子がこんなに泥だらけになっちゃって。帰ったらおばさんが、綺麗に洗ってあげるからね♡」

母さんがニコニコと微笑みながら、ルナの頭を撫でる。

相変わらず、うちの女性陣の胆力はおかしい。

しかし、現場の『戦士』たちの空気は、決して明るいものではなかった。

クルーガーのおっちゃんが、ゴブリンの死体から立ち上がり、険しい顔で父さんを振り返った。

「……ガリンよ。ゴブリンの死臭は消臭の魔法でも使わぬ限り、中々消えん。こんな村の近くまでヤツらが群れで降りてきた。……これは」

「あぁ。普通じゃないな」

父さんも、いつもの豪快な親父の顔から、S級冒険者としての冷徹な顔へと切り替わっていた。

ゴブリンは弱いが、臆病な生き物だ。人間の生活圏である村のこんな近くまで、しかも白昼堂々と姿を現すことは滅多にない。

餌が不足しているのか。あるいは、もっと『恐ろしい何か』に森の奥から追いやられてきたのか。

「村の警戒レベルを引き上げよう。自警団のシフトを倍にして、森の巡回を強化する」

「承知した。俺も夜警に出よう」

大人たちが重々しい空気で話し合うのを聞きながら、俺は手元のフライパンの柄をギュッと握り直した。

(そうだよな……)

今回は、俺が事前に張っておいた【鉄線】の罠と、シャルムの奮闘があったから無傷で乗り切れた。

しかし、もし俺たちがいなかったら?

村の畑に出ている農家のおばちゃんや、他の小さな子供たちが襲われていたら、大惨事になっていたかもしれない。

(人間(俺たち)の足で警戒するだけじゃ、限界がある)

前世の鉄鋼マンとしての、いや、現代日本のエンジニアとしての血が騒いだ。

(対策をしないとな。この村の周囲を、ゴブリン一匹通さない『要塞』にしてやる)

俺の【アイアン】のスキルは、料理やイタズラのためだけにあるんじゃない。

鉄を錬成し、罠を作り、自動の防衛機構を築き上げる。

村を守るための『本気のモノづくり』を始める時が来たようだ。

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