井野正寛Side
俺は見た。
その日は休日で新しいゲームのカセットを買うために外に繰り出していた。
そんな時に校内でも有名な長倉姉妹が不良たちに襲われそうになっているところを目撃した。
でも、俺は動けなかった。ここでもし助け出すことが出来れば長倉姉妹と関わりが持てるかもしれない。そう考える頭はあったが、体はどうしても動けなかった。あの中に割って入ってて行くだけの度胸もなければ、入っていったとしても何かができるとは思えなかった。
そんな中、サングラスとマスクをした男が長倉姉妹のところまで歩みを進めた。その姿は余裕すら感じるような感じだった。
しばらく男を見ていて、俺は分かった。あいつは先輩の梅原章彦だと。サングラスやマスクをしていても分かる。
何故かといえば、あいつは有名だ。俺があいつのことを知っているのか別におかしい話じゃない。
あいつは校内でもっとも嫌われている人間と言ってもいいかもしれない。
噂は数えられないぐらいある。
『女子生徒に乱暴をした』『ある生徒に全治1年の怪我を負わせた』『電車で痴漢をした』とか。
そんな噂があれば、梅原の評判が最悪なのは言うまでもない。誰も好んで関わろうと思わない。だからいつもクラスで孤立していたり、物好きの久米先輩が話しているぐらいと聞いている。
そんな嫌われる奴だからこそ、余計に覚えてる。サングラスとマスクをしていたところで変わらない。
梅原は長倉姉妹を助けた。
一部始終を見届けてから俺は去った。
いつも通り高校に行くと、長倉姉妹は俺を助けてくれた奴だと勘違いしていた。その理由は俺にも分からない。あいつはサングラスとマスクをしていた。それで名前が分からない状況なのであれば、なぜ俺だと思ったのかもわからない。少なくても長倉姉妹は俺だという確証を得ているはずだ。
そうじゃなければ、特に妹の長倉優香さんが男に話しかけたりしないだろう。妹は男嫌いなのか、男と話すことを避けているという噂もあるぐらいだ。
助けたのは自分じゃない。
だが、このチャンスを逃す手はない。こんなことでもなければ長倉姉妹と話すなんて絶対にできない。それにあんな奴と長倉姉妹を近づけるべきではない。
そして俺は助けたのが自分であると彼女たちに伝えた。彼女たちも俺の言葉を疑うことなく、素直に信じてくれた。なんで彼女たちが俺のところに来たのかは分からないが、別にいいか。
長倉姉妹と話すようになって、周りの注目度は変わった。
今まで別に話し掛けてこなかった奴も話しかけに来たりもした。
長倉姉妹が話す男は俺だけだ。そういう意味でも優越感に浸れたし、こんな時間がいつまで続けばいいと思えた。
このままいけば、二人まとめて付き合うのも難しくないかもしれない。二人共、俺に対して好意を抱いているのは確定に近いしな。
しばらくして梅原と話した。あいつが一人でいたところを話し掛けて、色々と聞いた。結果として梅原の反応淡泊なものだった。長倉姉妹について話題を出した時も別に表情にも声にも何ら変化した様子はなかった。
『僕はお前の邪魔をする気はない』
こいつは本当に邪魔をしないのか。自分が助けたと言い出すこともしなければ、俺に対して実害を出す気もないということか。
梅原の噂のほとんどは『暴力』によるものが多かった。誰かを殴ったとかなどの内容。そんな梅原であれば暴力に訴え出てもおかしくないと思っていた。もし、殴られればこいつを教職員に突き出せばいいだけだしな。
結局、梅原は何もしてこなかった。
また数日して俺は長倉姉妹と付き合うことになった。
二人とそれぞれ同じ日に違うタイミングに告白をされた。
結局、俺ははぐらかす形で二人と試しで付き合ってみることになった。どっちも選びたかったから、この結末は俺にとって最良と呼べるものだ。
二人には『試しで付き合ってから決めてもいいかな?』と聞いた。二人はそれを了承したのだ。普通であればそんな提案にのってくる女子はあんまりいないけど、彼女たちはあんまり恋愛経験が多くない。特に妹の方は男を避けているという噂がある通りで、経験がないだろうしな。
長倉姉妹と付き合ったことで、俺の学園内でそれなりに有名になった。目に見えるものではないが、カーストが上がったな。
あれだけ多くの男子から好かれている、長倉姉妹の心を射止めたんだからな。
二人との日々がこれからも続くと思うと、自然とにやけてしまう。




